食中毒細菌の増殖と環境~空気編~

 酸素は人が生きるのに際し必要不可欠なものであることから、安全なものという印象があるかもしれません。しかし、実際には非常に反応性が高く、危険な物質という側面を持ちます(例えば、がんの原因としてよく挙げられる活性酸素は、酸素の存在によるものが大きい)。多細胞生物や多くの原生生物に関しては、活性酸素を無毒化し、酸素をうまく利用する能力は一般的に備えられていますので、酸素の毒性はほとんど問題とはなりません。しかし、単細胞生物である細菌等に関しては全てがそういった能力を備えているわけではなく、酸素を処理できるかできないかで大きく異なる性質を持ってきます。

 酸素を利用できるかどうかで細菌を分類すると、大きく分けて4種類の細菌が存在します。専門的には、酸素が無いと生きられない「偏性好気性菌(絶対好気性菌)」、酸素が全くなくても生きられず少量の酸素を必要とする「微好気性菌」、酸素があってもなくても生きられる「通性嫌気性菌」、酸素があると生きられない「偏性嫌気性菌」に分けられます。すべての種類で人に病原性を持つものが存在しますが、食中毒との関係からみると、食中毒は腸(酸素が無い環境)で作用するものが一般的のため、偏性好気性菌以外が問題となります。それぞれについて述べますと、微好気性菌の代表としては、近年の食中毒細菌のなかで一番事件数が多いカンピロバクターがいます。また、偏性嫌気性菌の代表としてはボツリヌス菌、ウェルシュ菌が挙げられます。さらに、その他のサルモネラ菌や大腸菌などなど、主要な細菌のほとんどは通性嫌気性菌となっています。

 これらの呼吸の性質の違いを理解すると、いくつかの食中毒について、発生の原因が見えてきます。一つ目は、カンピロバクターによる食中毒です。食材を管理する上で気を付けることは、長く常温等で放置して、細菌が増殖して腐敗が起こるのを防ぐことなので、古いものほど危険になることは通性嫌気性菌では間違いありません。それに対し、カンピロバクターについては食材(例えば鶏肉)が新鮮なほど細菌の数は多く、時間がたてばたつほど死んでいきます。それなので、新鮮だから問題ない、という勘違いがこの細菌による食中毒の原因となることも有ると思います。二つ目として、ウェルシュ菌による食中毒が挙げられます。ウェルシュ菌は偏性嫌気性菌で、料理をするような環境では増殖することはないと思うかもしれません。しかし、汁物等を加熱すると液体中に溶けている空気が追い出され、一時的に酸素のない環境が作られることが知られています。しかも、ウェルシュ菌などは非常に硬い細胞(芽胞という)を作り、通常の加熱程度では死なない細菌です。そのため、酸素が無くほかの細菌もいない状態、すなわちウェルシュ菌にとっては絶好の増殖する環境ができることになり、本菌による食中毒が起きることになります。

 以上のように、細菌がどんな性質を持っているかを知ることは、食中毒が発生する原因を突き止めることにつながります。また、食中毒対策への一助ともなりますので、細菌がいかに増殖するか興味を持ち、具体的な対策を考えていきましょう。


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