「正常性バイアス」と食品衛生管理

 震災などの自然災害や大規模な事件が起きた際に「正常性バイアス」という言葉を目にすることがあります。「バイアス」とは、「偏り」や「偏見」の事で「あの人の考え方には、バイアスがかかっているから・・・」などと思い込みや思想、思考の偏りを言い表す際に用いられます。「正常性バイアス」とは、心理学などで使用されている用語で、自分にとって都合の悪い情報を無視したり、過小評価したりしてしまう特性の事を言うようです。

例えば東日本大震災の際には、警報が出ているのにも関わらず、津波を目撃するまで避難しなかった方が多かったなどの報告があります。「ここまでは来ないだろう」「過去の地震でも津波は来ていないので大丈夫」などの正常性バイアスによる根拠のない思考がそのような対応の遅れを招いたと考えられています。(東日本大震災以降の地震で津波警報が出た際や、火山の噴火、テロ事件、大規模火災などでも同様の事例が多数見られます。)

食中毒や食品による事故が起きる際にも、同様の「正常性バイアス」による根拠のない判断が関わっているのでは思われる事例があるのではないでしょうか?

 

 飲食店で食中毒が起きてしまった際に、起こしてしまったお店側は、非常に驚き、困惑することでしょう。わざと「食中毒」を起こそうなんて考えている方はいないでしょうから、ほとんどは「これまでに何の問題も無かった」「いつもと同じことをしていた」「本当にうちが原因なのか?」と思われることでしょう。しかしそれらは、大規模災害時と比べるとスケールは大きくないかもしれませんが、所謂根拠のない偏った思考=(うちの店は大丈夫!)=正常性バイアスがかかっているのではないでしょうか?

 

 食品の衛生管理とはそのバイアスを取り除いて根拠のあるものに置き換えていく事だと思います。冷蔵庫の温度管理について考えてみましょう。通常は冷蔵庫が故障して温度が上がり食材がダメになるといった事を常には意識していないと思います。そこで毎日、決まった時間に温度確認をする、その記録を取る、万が一故障していれば修理を依頼する、食材を別の冷蔵庫に移す・・・など、なんとなく「冷蔵庫ってそんなに壊れるものではないでしょ?」という「バイアス」を取り除いて、「確認」と「記録」という根拠のあるものに置き換えるといった事です。定期的に実施する検便検査、食材の微生物検査、異物になりそうなもの除去など、挙げればキリがありませんが、食品に係る衛生管理を考える際にそのような意識を持って取り組むことが重要であると思われます。

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