JGAPの管理点と農薬検査について

国内で活発に取り組みが行われているGAPの概要と農薬分析におけるJGAPでの管理を解説します。


GAP(ギャップ)とは

GAPは、Good Agricultural Practiceの頭文字をとった言葉で、直訳すると「よい農業のやり方」という意味ですが、一般的には「農業生産工程管理」と呼ばれています。
農産物を作る際に適正な手順やモノの管理を行い、食品安全をはじめとして労働環境や環境保全を確保するための取り組みです。


何故GAPなのか

オリンピックでの飲食提供から、内閣官房東京オリンピック・パラリンピック推進本部事務局が「飲食提供に係る基本戦略(以下、飲食戦略)」を発表し、その中でGAPを要件としていく方針が打ち出されており、GAPの導入が求められています。
オリンピックではGAP認証を下記3項目を満たす事を示す方法として設定しています

1.食材の安全を確保するため、農産物の生産に当たり、日本の関係法令等に照らして適切な措置が講じられていること。
2.周辺環境や生態系と調和のとれた農業生産活動を確保するため、農産物の生産に当たり、日本の関係法令等に照らして適切な措置が講じられていること。
3.作業者の労働安全を確保するため、農産物の生産に当たり、日本の関係法令等に照らして適切な措置が講じられていること。


GAP認証について

本来GAPとは農業者がGAP(活動または取組)を自ら実施することで、認証を取得しているかどうかは関係ありません。
しかし、実際にはGAPを行うということは「GAP認証」がされているかどうかという所が重要になる場合が多くあります。
これは第三者機関の認証を取得している事が、審査により客観的にGAPが正しく実施されていることが証明されている事になるからです。
また、審査を受けることにより客観的にGAP体制を見直すことが出来る事からより良い運用を行う上でもGAP認証は有効と言えます。


GAPの種類と認証団体について

GAPには様々な種類があり、これは世界各国での農業のやり方や、風土、取り引き等重視している点により様々なGAP認証がスキームが存在します。
飲食戦略で認められている認証スキームはJGAP及びGLOBALG.A.Pです。

【JGAP】
日本GAP協会が認証を行っているGAPをジャパンギャップ「Japan Good Agricultual Practice」と言い、農場やJA等の生産者団体が活用する農場・団体管理の基準であり、認証制度です。主に日本国内の取り引き等において標準的で必要十分な内容を規定しています。農林水産省が導入を推奨する農業生産工程管理手法の1つです。(略称「JGAP:ジェイギャップ」)

【GGAP】
ドイツに本部を置く非営利組織として設立されたGAPをグローバルギャップ「Global Good Agricultual Practice」と言います。(略称「GGAP:ジーギャップ」)安全な食品の生産・取引、希少資源の保護、持続可能な未来のために、農業生産者と小売業を結びつける事を目的としています。国際的な食品衛生マネージメントの管理組織であるGFSI(本部パリ/GlobalFood SafetyInitiative)に認可された規格です。農林水産省が導入を推奨する農業生産工程管理手法の1つです。


GAPを運用する目的

GAPの目的は農業生産活動の持続性を確保することです。
その為に具体的に「食品安全」、「環境保全」、「労働安全」についてこれらの記録、点検、評価を繰り返しつつ生産工程の管理や改善を行います。
注意点として「食品安全」のために行うというイメージが強い様に思われますが、維持性を確保するという事が一番の目的であり、環境への配慮や安全面(器具の適正な使用や管理、リスクの評価)等も重要になります。


JGAPの管理点と農薬検査について

JGAPでは「農場用 管理点と適合基準」を公表しており、認証に際してはこの点が適合しているかどうかを確認する事となります。
「農場用 管理点と適合基準青果物2016」では農薬検査に関して下記の記述があります。
【5.3 管理点:食品安全危害要因の評価(農産物取扱い工程)】
・適合基準
①管理点5.2で明確化した農産物取扱い工程について、年1回以上、発生する食品安全危害要因を特定しそのリスク評価を実施している。
②上記の評価の結果を文書化している。
③管理点5.2の農産物取扱い工程を変更した場合には ①を見直し、必要に応じて②の文書を修正している。
・取組例
食品安全危害要因の健康への悪影響の重大さ及びその起こりやすさにより、リスクの 程度(高い、低い等)を評価する。
食品安全危害要因には、例えば 下記がある。
・生物的危害要因:病原微生物
・化学的危害要因:農薬・カビ毒・肥料・油類等の化学物質、 重金属類
・物理的危害要因:ガラス片・金属片・プラスチック片・木片・ 石・砂・降灰等の

※解説
この基準では年1回以上、危害要因を特定しリスクを評価する必要があり、その取組例の中で化学的危害要因について農薬が挙げられています。
検査を行う事が必須要件との記載は有りませんが、実際の状況を把握し想定しえない農薬の混入(例:路地栽培でのドラフト等)等に備えて年に1回程度は検査を行う事を推奨しています。
検査を行う項目に関して取り決めは有りませんが、使用している農薬・一般的に多く使用されている農薬等を検査をする事が効果的です。また農林水産省でも検出されやすい農薬の調査を行っており、こういった資料を参考とすることも効果的です。

【7.2.1 管理点:検査機関の評価・選定】
・適合基準
残留農薬、水質、重金属類、微生物、放射性物質等の食品安全に関する 検査を行う機関は、該当する分野で下記のいずれかを満たしていることを確認している。
①生産国が認定した登録検査機関
②ISO17025認定機関
③日本GAP協会が推奨する機関
④残留農薬の場合、残留農薬検査を行う検査機関に関するガイドラインを満たす

※解説
この基準では検査機関の選定・評価に関しても一定以上の信頼性が有ることが確認された機関である事が要件となっております。特に①、②は登録や承認に外部機関の監査を受ける必要が有る事から信頼性が証明されていると言えるため、リスク評価を行った証明として用いるのにより適しています。

【15.1 管理点:土壌の安全性】
・適合基準
下記の情報を参考に、土壌(客土・培土・水耕栽培の培地を含む)の安全性について年1回以上リスク評価し、問題がある場合には行政に相談して対策を講じている。
リスク 評価の結果と対策を記録している。
① 行政による土壌汚染地域通知・指定の有無
② 管理点1.2の周辺の状況、これまでの圃場の使用履歴

・取組例
安全性の評価項目としては、例えばドリン系農薬などのPOPs物質の残留、重金属類、放射性物質等がある。

※解説
POPsとはPersistent Organic Pollutantsの略で残留性有機汚染物質といい、POPs農薬とは特に残留性の高いDDT、エンドリン、ディルドリン、アルドリン、クロルデン、ヘプタクロルの事を指します。
国内では使用禁止になっていることから近年使用されている事は考えにいくい状況ですが、残留性が高い事から安全性のリスク評価の為に検査を行う必要があると考えられます。


最後に

GAPの管理点は多岐に渡り、認証も行う場合には第三者に向けて証明を行っていく必要うがあるため大変である、難しいと感じる事もあり、実際にイニシャル費用やコスト、時間が更に必要になる事は否定できません。
しかし、今後更に食の安全や生産性に対しての需要が高まる中、こういった取り組みを行う事で国内だけでなく海外取引での競争力を高めるツールとなるメリットがあります。
さらに、持続可能な農業を目指すための取り組みであることからGAPを導入し改善して行くことで、より作業者が安全でに環境にやさしい安全な農産物を生産していくため後押しとなり長い目で見て導入する意義は大きいと考えられます。
GAPについて興味を持っていただくきっかけとなれれば幸いです。

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