ノロウイルスについてもう一度振り返る(対策編)

 前回の基本編では、ノロウイルスの基本的な知識を、考察も踏まえて説明いたしました。今回はノロウイルスによる食中毒及び感染を引き起こさないために何をすればいいのか、前回の知識をもとにしながら本コラムでまとめていきたいと思います。

 ノロウイルスの対策で一番有名なのが、『ノロウイルス予防4原則』と呼ばれる予防対策になります。具体的には、①持ち込まない、②拡げない、③やっつける(又は加熱する)、④つけない、の4つになります。これらについて具体的な対策と、その対策の意味についても以下にまとめていきます。

◎ ページ内容
目次

 ・ ノロウイルス予防4原則~①持ち込まない~  
 ・ ノロウイルス予防4原則~②拡げない~ 
 ・ ノロウイルス予防4原則~③やっつける(加熱する)~ 
 ・ ノロウイルス予防4原則~④つけない~ 
 ・ 適切にノロウイルス対策をするために~組織・仕組みづくり~ 


〇ノロウイルス予防4原則~①持ち込まない~

 施設の中に原因となるものをそもそも持ち込まないことが、まずは一番大事な対策になります。このキーワードを考えるために最初に必要なのが、今対策をしようとしている施設に対してどのような経路で外部からノロウイルスが持ち込まれる可能性があるか、ということを全て洗い出すことです。大きく分けますと、人による持ち込みと食材による持ち込みに分かれ、特に人による持ち込みが大きな問題になります。

 福祉施設を事例に考えると、従業員、利用者、そして利用者家族による持ち込み、最後に業者による持ち込みが考えられます。これらの対策としては、健康チェック及びしっかりと消毒した状態で施設内に入ることです。健康チェックに必要な項目としては、本人の発熱や下痢や嘔吐などの症状が無いのか、加えて家族にも同様な症状が無いか、ということが挙げられます。それは、前コラムで述べているように症状が無い不顕性感染者というものが存在するからです。身近な家族では、やはり感染が広がっている可能性が高くなります。不顕性感染者に唯一有効なチェック方法としては、検便検査(特にリアルタイムRT-PCR法等による高感度検査)です。不顕性感染者でも、症状が出ている人と同じくらいのウイルスが排出されているため、検便検査により確認することができます。実際、お子さんの体調が悪く、自分も念のために検査したい、という親御さんからの検便検査のご依頼を受けることがありますが、陽性になることが意外とあります。
一方、食材に付着しての持ち込みについては、不衛生な取り扱いをされているような食材を使わない、あるいは安全性が保障されている食材を使う(ノロウイルスの検査済みのもの)、といった点が持ち込まないという対策の観点からは考えられます。刻み海苔によるノロウイルスの食中毒事件もあったことからも、衛生対策がしっかりしている業者を選定する必要があります。確認方法としては、現場に行って、管理環境を自分の目で見てみることが一番良いのですが、難しい場合であっても、どのような衛生管理を行っているか、定期的な食品検査を行っているか、などを確認することも選定方法としては有効です。


〇ノロウイルス予防4原則~②拡げない~

 予防4原則のうち、持ち込まない以降のキーワードについては、施設内に持ち込んでしまった原因に対して、感染拡大を防ぐにはどのようにしたらよいか、ということを考えていくことになります。そのためには、どのような場合に持ち込まれたノロウイルスが拡がるのか、ということを考える必要があります。

 例えば、潜伏期間で症状が無かった人が入室後、発症し下痢や嘔吐を程した場合、不顕性感染者が手洗い不足や汚染された服装で行動した場合、そして、食材そのものに付着している場合等、様々な原因が挙げられると思います。拡げない、というキーワードでは、主に下痢や嘔吐物の場内での拡散を防ぐことを考えていきます。下痢についての対応としては、基本的には場内の定期的な消毒、特にトイレ周辺の消毒がカギとなります。消毒の対象となる場所としては、主に手が触れる部分とトイレ内から水が飛び散る場所です。消毒方法としては、塩素による消毒(200ppm以上)が一般的な方法ですが、最近、アルコール消毒が有効という論文も出されており、消毒方法の選択肢が広がることが期待されます(ニュース参照)。

 一方、嘔吐物の対応としては、嘔吐物を適切に消毒できる手順を決めていくことが重要になります。ここでは、嘔吐物を適切に消毒するために必要な知識について、具体的な研究データをもとにまとめます。「嘔吐をしたと想定し疑似嘔吐物を1メートルの高さから落とした」という研究では、嘔吐物は落下点から半径2メートル前後、高さ1メートル前後まで飛び散ることが推定されています。また、消毒のために必要な塩素の濃度としては、嘔吐物中の有機物の分解に塩素が使用されてしまうため、通常よりも濃い濃度が必要になります。いくつかの研究で、必要な塩素濃度は1000ppm以上とされましたが、反応を阻害するのに入れた有機物の量によっては5000ppm以上とするものもあります。つまりは嘔吐物以外の汚染がある場所(場内の清掃状態が行き届いていない床等)では、塩素による消毒が強く阻害される恐れがあるため、日常の清掃作業も対策として重要になってきます。具体的な手順としては一般に公開されている事例(群馬県HP等)を参考にしつつ、以上の点を考慮した嘔吐物処理マニュアルを作成してください。


〇ノロウイルス予防4原則~③やっつける(加熱する)~

 ノロウイルスには塩素による消毒が一般的ですが、それ以外に加熱による消毒も有効だとわかっています。場内など、平面の加熱による消毒としては同様なウイルスを殺す条件の85℃以上かつ1分間以上で十分だと考えられておりますが、このデータはノロウイルスを使用した実験ではないため、念のためより厳しい条件で実施する必要があると考えられます。また、この条件を達成する加熱方法は限られており、スチームアイロン(高温設定)等で2分間以上押し付ける等の条件が実証されています。また、50℃で2時間処理することでウイルスが不活化されることが分かっており、布団乾燥機の種類によっては加熱時間を長くすることによりその条件を達成できることが実証されています。
食材の加熱条件としては、厚生労働省の大量調理施設衛生管理マニュアルでは85℃~90℃で90秒間以上加熱するのと同等の加熱を行う、という条件が提示されており、対策としてはきちんとこの加熱条件が守れているのかを確かめることが重要になります(前のコラムを参照)。


〇ノロウイルス予防4原則~④つけない~

 このキーワードについては、上記全ての場面でも関わってきますが、ここでは加熱などでウイルスを不活化した場所や食材を汚染しない、ということに焦点を当てて対策を考えます。ノロウイルスによる汚染を引き起こすものとしては、特に考えられるのが、手による各所への汚染です。そのため、適切な手洗いを行うことが基本にして最も大事なことです。前回のコラムに挙げていたように、感染者の便1gには最低でも100万個存在することが調査で分かっています。それに対してウイルスの感染が成立するのに100個いれば十分ということを考え合わせると、1gで1万人の人を感染させる力があることになります。そのため、用便後、そして汚染された食材を扱った後は、手洗いによりしっかりとノロウイルスをしっかりと落とすことが大事です。

 ここで、手洗いの効果についてですが、一般の手洗い洗剤にはノロウイルスを殺す力は無いものの、物理的に手指からウイルスを引きはがし、落とすことができますので対策として有効です。手洗い効果について調査した研究では、100万個のウイルス(ここでは代替ウイルスとしてネコカリシウイルスを使用)を手指につけた状態で各種手洗いを行ったときにどれくらいウイルスが落ちるのか、ということを検証しております。その結果、①15秒間の水洗いでは1万個程度までウイルス数が減ること、②ハンドソープで10秒又は30秒もみ手洗い後に15秒間の水流しを行った場合には数百個程度までウイルス数が減ること、③ハンドソープで60秒もみ手洗い後に15秒間の水流しを行った場合には数十個程度までウイルス数が減ること、④ハンドソープで10秒もみ手洗い後に流水で15秒すすぐことを2回繰り返した場合には数個程度までウイルス数が減ることが明らかになっています。つまり、①②ではウイルス数を減らすのに不十分な場合があること、③のように長く手洗いを行うよりも④のように回数を増やした手洗い方法(2回手洗いと言われます)のほうがより確実にウイルスを落とすことができることがわかります(弊社の手洗い動画はこちら)。

 続いて重要なのが、加熱後や、加熱をしないで喫食される調理品が二次汚染や交差汚染により汚染されないように対策をとることです。具体的に、食材の管理方法としては、保管場所からの汚染を防ぐ(汚染物は冷蔵庫などにおいて下の段で管理)こと、調理する器具類を分ける(まな板を加熱前と加熱後の食材で分けるなど)ことが基本となります。また、服装を介しての汚染も考えられるため、調理工程で服装を分けること、トイレに行く際には調理用の服装では入らないことなども対策として有効です。


〇適切にノロウイルス対策をするために~組織・仕組みづくり~

 これまでノロウイルスの予防4原則について述べましたが、これらがしっかりしていてもこれを適切に実施できる組織と仕組みが作られていることがそもそも重要です。例えば、衛生対策の記録がされていること、しっかりと実施できるような教育がされていること、そしてこれらを運用する組織の体制がしっかりしていること等が挙げられます。記録をすることで、適切に運用されているかがわかり、後で問題があった際に確実に実施できていることの証明の一助になります。また、ノロウイルス対策の意味を理解し、定められた対策を誰か一人でも適切にできないと食中毒が起きる原因になるので、全ての人が衛生対策を適切に実施する必要があります。組織の体制としても、適切な運用ができるような仕組みづくり(感染対策委員会等の取りまとめる組織及びマニュアルの構築)を行い、さらに適切に運用できているか確認する体制(定期的に無理が無いか等確認)、運用できるように配慮した体制(ハード面の準備、ノロウイルスが陽性になった際に休みやすい体制、講習に参加させるなどの知識を得る機会の設置等)を構築することが重要です。

 弊社では、仕組みの構築から教育のためのセミナーや検査まで一括してすることができますので、ご興味がございましたら是非一度ご相談いただければ幸いです。組織・従業員が一丸となり、不足する部分は保健所や弊社のような衛生対策の専門機関の意見も取り入れつつ、ノロウイルスを含めた食中毒を起こさないように対策を進めていきましょう。

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