農薬と基準値

はじめに

食環研では残留農薬検査を行っておりますが、その主な目的は基準値を超える農薬が残留していないかを確認する事がほとんどです。
この基準値は食品の及び農薬種類によって詳細に設定されており、その濃度の範囲も広く疑問に感じる方もいるのではないでしょうか。

農薬は少ない労働力で生産性を上げる事が出来る非常に重要な薬剤である反面、使用方法を間違うと健康面での影響があったり、他の生物や環境にも影響がある可能性があります。
農薬は安全に取り扱われる様に登録制度によって管理されており、その中で基準値が設定され、基準を超えないよう使用方法が定められ、更に基準値を超えた食品を流通させる事を禁止しています。

農薬の安全は、登録された農薬を定められた使用方法を遵守して使用することで確保されます。
今回は農薬の基準値がどの様に決められるかを簡単に解説して農薬の安全性がどのようにして担保されているのかを説明します。


農薬の登録制度

農薬は「農薬取締法」に基づき、製造から使用にまでの全ての過程で厳しく規制されます。登録の際には管轄の農林水産省が様々な検査を行いますが、申請者は安全性の検査としていくつもの毒性に関する試験や影響に関する試験を行い、資料として提出します。詳細は下記の項目を試験します。

毒性に関する試験成績
●急性毒性を調べる試験
ア 急性経口毒性試験成績
イ 急性経皮毒性試験成績
ウ 急性吸入毒性試験成績
エ 皮膚刺激性試験成績
オ 眼刺激性試験成績
カ 皮膚感作性試験成績
キ 急性神経毒性試験成績
ク 急性遅発性神経毒性試験成績

●中長期的影響を調べる試験
ケ 90日間反復経口投与毒性試験成績
コ 21日間反復経皮投与毒性試験成績
サ 90日間反復吸入毒性試験成績
シ 反復経口投与神経毒性試験成績
ス 28日間反復投与遅発性神経毒性試験成績
セ 1年間反復経口投与毒性試験成績
ソ 発がん性試験成績
タ 繁殖毒性試験成績
チ 催奇形性試験成績
ツ 変異原性に関する試験成績


●急性中毒症の処置を考える上で有益な情報を得る試験
テ 解毒方法又は救命処置方法に関する試験成績

●動植物体内での農薬の分解経路と分解物の構造等の情報を把握する試験
ト 動物代謝に関する試験成績
ナ 植物代謝に関する試験成績
二 家畜代謝に関する試験成績

●環境中での影響をみる試験
ヌ 土壌中動態に関する試験成績
ネ 水中動態に関する試験成績
ノ 水産動植物への影響に関する試験成績
ハ 水産動植物以外の有用生物への影響に関する試験成績
ヒ 有効成分の性状、安定性、分解性等に関する試験成績
フ 環境中予測濃度算定に関する試験成績
ヘ 農薬原体の組成に関する試験成績

●残留性に関する試験成績
ア 農作物への残留性に関する試験成績
イ 家畜への残留性に関する試験成績
ウ 土壌への残留性に関する試験成績


毒性評価

毒性試験の結果から、「人がその農薬を毎日一生涯に渡って摂取し続けても、科学的知見からみて健康への悪影響がないと推定される一日当たりの摂取量(ADI:一日摂取許容量、Acceptable Daily Intake)」と「人がその農薬を24時間又はそれより短い時間経口摂取した場合に健康に悪影響を示さないと推定される一日当たりの摂取量(ARfD:性参照用量、Acute Reference Dose)が設定されます。


ADI とARfDnの決定

ADI及びARfDは、ラットやマウスの動物を用いた毒性試験の結果より設定されます。各々の毒性試験では、明らかな毒性変化を起こす用量及び毒性変化が認められない用量を求めます。ADIの設定の際には主に長期毒性試験などで認められる毒性所見から、ARfDの設定の際には主に単回投与試験や短期毒性試験の投与の初期に示される症状から、それぞれ毒性変化が認められない量(NOAEL:無毒性量、no-observed adverse effect level(mg/kg/日))を求めます。これらの値は動物試験による結果であることと人においては個人差があることを考慮して、安全係数(通常100分の[1/(10[種間差]×10[個人差])])を乗じヒトに影響のない量を求め、それぞれADI及びARfDとして定めます。


残留農薬の曝露評価と残留基準の設定

無毒性量を求めた後に、実際に申請されている使用方法で農薬を使用した場合に作物に残留する農薬の濃度を把握するための「作物残留試験」を行い、農薬の様々な食品を通じた長期的な摂取量の総計がADIの8割を超えないこと.及び個別の食品からの短期的な摂取量がARfDを超えないことを確認します。
その上で、定められた使用方法に従って適正に使用した場合に残留し得る農薬の最大の濃度が、食品衛生法に基づき厚生労働大臣が定める「残留農薬基準」として設定されます。作物に残留し得る農薬の最大濃度を推定するに当たっては、気象条件など種々の外的要因により残留濃度が変動する可能性を考慮しています。


総括

実際には残留農薬の基準値は余裕をもって設定してあり、更に人が実際に農作物を食べる際には、洗ったり皮をむいたりするので、試験で分析された量比べてかなり少ない量しか摂取することは無いと言われています。

しかしながら、使用方法を誤ってしまった場合にはこれまでの説明通り、試験によって確認された範囲から逸脱してしまう為、安全性を担保する事が難しくなります。
従って、農薬のラベルに記載された使用方法のを必ず守る事により、安全が確保できると言えます。

弊社では、残留農薬検査を行っており、検査を行う事で想定されていない農薬の残留も含めたモニタリングを行う事が可能となっており生産管理への導入をお勧めしております。

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