ウイルスの種類と薬の効き目

ウイルスの構造と薬剤の効き目について

冬場はウイルスに由来した病気が流行りやすくなっています。主なものとして感染症のインフルエンザウイルスや、食中毒のノロウイルスが挙げられます。さて、ウイルスの種類によって薬剤の効き目が異なることをご存じでしょうか。実は、違いが生まれる原因として、エンベロープと呼ばれる構造を持つかどうかが薬剤の効き目に関わってきます。

エンベロープウイルスとノンエンベロープウイルス

エンベロープを持つウイルス(エンベロープウイルス)としては、上記に挙げたインフルエンザウイルスやコロナウイルスが有名です。また、エンベロープを持たないウイルス(ノンエンベロープウイルス)としてはロタウイルスやアデノウイルスがあり、ノロウイルスが代表例として挙げられます。
「エンベロープ」とは、脂質・タンパク質からなる構造であり、感染した人や動物の細胞膜をウイルスが切り取って使用しています。膜だけを考えると、エンベロープを持つウイルスは、この中にウイルスの遺伝物質を取り巻く「カプシド」と呼ばれるたんぱく質の膜を持つ2重構造となっているため、一番外側のエンベロープを壊せばウイルスは構造を維持できず、そのまま死滅(不活化)させることができます。エンベロープの主体は脂質であるため、多くの薬剤(洗剤のような界面活性剤やアルコールなど)がウイルスの不活化に役立ちます。
一方、エンベロープを持たないウイルスは、上述のたんぱく質の膜「カプシド」が一番外側に形成されており、これを壊さない限りこのウイルスを死滅させることはできません。しかし、たんぱく質の膜を壊すのはなかなか難しく、加熱により変性させるか、塩素(塩素製剤)が持つ強い酸化力により細胞膜等を破壊し、たんぱく質を変性させることが、ノンエンベロープウイルスであるノロウイルスを死滅(不活化)させるために主に取られる手段となっています。

薬剤の効き目と取扱いの注意

塩素製剤(次亜塩素酸ナトリウムが多用される)はエンベロープの有無に関わらず、ウイルスに効果があり、衛生対策・感染症対策として、とても役立ちます。一方、強力な薬剤のため金属をサビさせる、強烈なにおいで体調が悪くなるなどといった問題があるため取り扱いには注意が必要です。
塩素製剤以外にも、ノロウイルスに効果がある薬剤として、最近はアルコールのpHを変えたり、その他の有効成分を混ぜたりすることでノロウイルスに対する効果を高めているアルコール製剤が販売されている状況です。これらのアルコール製剤は塩素より使用しやすく、様々なところで使用されているところを見かけます。ただし、どれくらいノロウイルスに対して効果があるかどうか(何%のウイルスを不活化できるか)は各メーカーで異なる可能性はあるため、アルコール製剤を衛生対策・感染症対策として使用する場合には使用上の注意をよく確認する必要があります。
また、塩素製剤とアルコール製剤のどちらも、使用時に表面の汚れを落とすことが重要です。理由としては、表面に汚れが付いたまま消毒すると汚れが妨げになり、有効成分がウイルスに届く前に消費されてしまうことで、役立たなくなってしまうからです。それ以外にも、アルコール製剤は適切な濃度で調整されているため、濡れた場所では効果が薄まってしまいます(塩素製剤は濃度が調整可能なため濡れた場所での対応は可能)。
衛生対策・感染症対策として薬剤を使用する時は、適切に手洗い・洗浄をしてから、適切な用法・用量で薬剤を使用するように徹底しましょう。

【参考】手洗い動画はこちら
https://www.youtube.com/watch?v=3ipcxwpnK6w



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