株式会社食環境衛生研究所(食環研)は、安全をモットーに生活環境および「食」に対して貢献し、ヒトの健康と快適な生活環境を創造する企業です。

食環研コラム

『儲かる養豚経営』

はじめに

昨今の畜産業界を取り巻く状況は熾烈を極めています。枝肉価格は昨年から低空飛行が続いており、国内の生産者を苦しめています。2008年の1月に発生した中国産の毒餃子事件をきっかけに国内需給が高まり、食に対する『安心』『安全』が当時の一般消費者にとって最も重要でした。しかしリーマンショックを機に100年に1度の世界規模の不況の今、『低価格』を求め国産豚肉から輸入豚肉へシフトチェンジしています。そして、一段落したとはいえ未だ飼料価格は高値であり、各農場が如何に生産コストを下げるか頭を悩ませております。09年の売上に対する飼料価格、いわゆる飼料比率は50~60%位で、中には 65%以上の農場も存在しています。売上の65%以上が飼料費となると、人件費・光熱費・衛生費等を含めると現実逃避したくなる状況です。このような厳しい時代を生き抜くためには、『餌』を如何に効率よく『枝肉』に変換できるかが、最重要課題と思われます。今回はこの飼料効率について、実例をまじえながら考えてみます。

飼料要求率に影響を与える各要因を探る

飼料要求率に影響を与える要因は様々で、全ての要因が複雑に関連しております。今回はその中でも注意していただきたいポイントを挙げてみます。

1.環境要因

(1)暑熱:多くの養豚家を毎年悩ませているのが、夏の管理だと思います。
人間は、暑さを感じると汗をかき、呼吸回数が増加するといった調整機能が働きます。これは、汗を空気中に蒸発させる事で体熱を空気中に発散させているのです。そして呼吸回数が増すことにより、呼気中に含まれる水分を空気中に蒸発させ体熱を空気中に発散させています。しかし豚の呼吸回数は人間同様増加しますが、厚い皮下脂肪があり、そして汗腺が未発達な為、発汗による冷却システムがありません。これらの事から高温環境下では飼料摂取量が低下してしまいます。例:体重70Kg肥育豚は27.5℃を超えると飼料摂取量が低下し、1℃の上昇で140g/日の摂取量低下、55g/日の増体低下。また、気温だけでなく湿度も大きく関与します
(2)寒冷:温暖化と言われていますが、寒い時は寒い!特に今年は寒暖差が激しい冬です。
豚が、血管の収縮、拡張だけで体温を一定に保つことが出来る温度を熱的中性圏といい、この熱的中性圏よりも低温環境下だと発育停滞が見られ飼料効率が悪化します。また、冬季に乾燥する豚舎は隙間が多く、過換気になっており熱効率が悪い状況です。このような場合、豚は体力を消耗して肺炎症状を呈し、肥育効率に大きく影響します。母豚では流産や早産、脱肛の増加、そして発情再帰日数の遅延など結果的に要求率に悪影響を与える事が起こりがちです。

2.給餌器

農場を訪問して気になるのが飼料管理面での失宜です。各農場、飼料管理レベルに差があり、給餌器や給与方法もそれぞれ考え方や使い方に違いがあります。近年は、飼料と水を混合して同時に給与できるウエットフィーダーを使用している農場が多いようです。
ドライフィーダーとの比較:●飼料や水のこぼしが少ない●要求率の改善●浄化槽の負担軽減●短時間で多量の飼料と水の摂取が可能●短時間採食が可能な為1頭口当りの使用頭数が増加・・・これだけ見るとすばらしいシステムですが、やはり注意点もあります。
注意点:一般的に1頭口で8~10頭が適当といわれておりますが、多すぎると採食不十分でバラつきが発生します。そして、取り付け位置も重要です。豚房の隅に設置している場合、2頭口あっても片側が壁や柵などで、豚が十分に頭を突っ込めない事があります。
また水圧や餌の落下量の調整をこまめにチェックしないと、こぼし餌や残餌の腐敗につながります。そして、夏季は飲水欲求が高まる為、補助的に別に給水器の設置が必要な農場もあります。また、最近ではドライフィーダーで頭口数を多く確保し、制限給餌にて管理している農場での評価が高い事も無視できません。各農場で給餌器の特性を理解し、使いこなす事が重要です。とどのつまりは、人間の管理次第ということです。

3.飲水器

ある飼料メーカーの営業さん曰く『私は餌屋だけど、豚は餌より水が大事』。私も同感です。
水は生命の源です。水要求率はステージにより異なりますが、おおよそ飼料乾物1に対し水2~3程度とされています。『哺乳豚は水が必要なの?』と聞かれることが稀にあります。母乳からの水分補給だけでは絶対的に不足します。餌付けがあるなら、『水付け』も必要です。また、授乳期の母豚は日量15~25Lは必要なので、ピッカーのみでは不足していると感じます。方法も考慮しながらですが飼槽に水をはって『がぶ飲み』させてあげる事も重要です。
私がよく見かける光景は離乳舎に移動してきた子豚が、飲水器にこれでもかと言う程、首を伸ばしている姿です。
確かに次のステージの豚舎に移動直前の豚達には調度よい高さなのですが・・・。各農場様々な飲水器を設置していますが、設置しただけでなく豚達が難なく新鮮な水を飲んでいるかが問題です。飲水器も給餌器同様、人間の管理が重要です。

画像_飲水器

4.飼料形状

飼料の形状も様々存在します。結果から書きますと、上記同様、特性を理解し使いこなす事が要求率の改善につながります。下記にはそれぞれの一般的な特性を記します。
(1)マッシュ(粉餌)
トウモロコシ、大麦、マイロ等の穀類は、豚が十分咀嚼しないと消化率が悪く、飼料効率が悪化する可能性があります。また、粒度にもよりますが胃潰瘍や、畜舎内の埃、糞の排出量にも影響が出ます。最近では、加熱し粉砕、破砕、圧ペンして給与することにより飼料効果が改善するようです。また、腐敗しにくいので不断給餌に適しています。日本ではこの形状が最も使用されています。
(2)ペレット(固形飼料)
ペレットは加工時に過熱処理されており、殺虫殺菌されています。また、飛散が少なく、嗜好性も優れています。データによるとマッシュ飼料よりも要求率が 5~10%程度改善されます。しかし、加工賃がある為コストアップ、また熱処理によるビタミン、アミノ酸の破壊。そして、ペレット化すると中心部の水分含量が多く、多湿の環境下ではカビや腐敗の原因となるのが注意点。給餌器のシャッター調整技術が必要!! (3)クランブル
上記ペレット飼料を更に粗挽きした飼料。衛生対策や消化性に特性あり。一般的に子豚用飼料に適している。
(4)エキスパンダーフィード
圧力と温度をかけて澱粉質を糊化した飼料。増体、食下量ともにさほど影響はないが飼料効率はやや改善される。しかし繊維質が少なく、給与方法によっては胃潰瘍の発生に注意。
(5)フレーク
フレーク飼料は、穀物を蒸気で加熱、加湿し扁平状にしたもの、増体や飼料効率が改善される。
(6)リキッドフィード
原料や添加物など液状になっている飼料。または水やホエー等を加えて飼料全体が流動状になっている飼料。パイプラインで水と飼料を同時に供給できる。増体や食下量が増加し、飼料要求率も改善される。システム導入のイニシャルコストや糞尿処理の追加整備が欠点。

画像_飼料形状

5.疾病

要求率に最も影響を与えるのはこの疾病問題です。飼料要求率=摂取した飼料÷豚肉生産量です。分母の生産量が疾病により多数死んでしまう状況は、最も無駄につながります。
そして農場飼料代の約80%は子豚肉豚期の飼料です。この肥育期での疾病は飼料コストに大きく影響します。疾病といっても多くの要因が存在します。これらの中でも最近、肥育期での発生が多い疾病が『マイコプラズマ』『ローソニア』『App』です。昨今の枝肉価格の暴落をきっかけに、マイコワクチンやApp ワクチンを中止した結果、今冬は肥育豚の呼吸器疾病が多かった・・・なんて身に覚えのある人もいると思います。
以前、弊社で実施したマイコワクチンの比較試験ではワクチン接種群と未接種群の要求率は『こんなに差がでるの?』と思えるほどの結果でした。マイコは肺炎の要です!肺炎治療回数も減少し、衛生費の軽減にもつながります。
そして、ローソニアの被害も近年上昇傾向にあります。約7週齢から4ヶ月齢の時期に好発します。慢性型では不顕性感染ですが、飼料要求率の悪化など水面下での被害があります。 急性型は便に血液を含み黒色のタール便を示す事がありますが、時には便の異常を呈する前に斃死する場合もあります。
急性型の好発ステージは4ヶ月齢以上です。発症ステージは肥育期が主で、子豚舎や肥育舎自体の保菌量も影響しますが、繁殖豚からの垂直感染も大きな要因になります。
改善ポイント:●豚舎、豚房の清掃・洗浄・乾燥・消毒●バイオセキュリティー●ワクチン接種(有効な接種時期、有効な接種方法が重要)※ローソニアワクチンは国内未承認ですが近い将来発売されるようです。●有効な抗生剤による速やかな治療●繁殖豚や候補豚の定期的なクリーニング●ストレスコントロール(密飼い、過換気、換気不良など)
全ての疾病対策について言えることですが、まず自分の農場はどのステージで、どのような疾病による関与を受けているのか適切な診断を行い、速やかに対処または予防することが最も重要です。ただし、現場を見ている限り疾病に関与している要因は、環境や飼養管理等が引き起こしている場合が多いです。各ステージの豚に適した温度・湿度管理、そして過換気・換気不良、飼養頭数など豚舎環境を季節毎はもちろん、昼夜の微調整を行えるかがポイントとなります。

6.管理

画像_子豚管理

最後に農場での管理面について考えてみたいと思います。
(1)こぼし餌:私が農場で頻繁に目にするのが、給餌器からこぼれている餌、こぼし餌です。
特に目立つのは餌付けミルクのこぼし餌です。単価が一番高いはずの高級飼料が、惜しげもなくテンダーなどの下に撒き散らかされています。『人工乳が配合された堆肥はプレミアがつくのかな?』と頭をよぎりますが、そんなはずはありません!1回の給与量が多すぎ、とても1日では食いきれない餌が給餌器の中で腐敗している事もしばしば。大腸菌やクロストリジウム等の温床になってしまい下痢につながります。また、授乳中の母豚の給与量を尋ねたら、即答で『9Kg』と言われたので、実際に量ってみたら『8.3Kg』でした。しかも飼槽が小さい為、こぼし餌が多い様子。
改善ポイント:1回の給与量を少なく、飼料給与回数を多くする。餌付けミルク等は『食い込ませる』というよりは固形飼料に『馴らす』『興味をもたせる』といった要素のものです。これは各農場の労働力にもよりますが・・・。しかし1日3回食べきれる量を追加して哺乳豚の下痢症状が改善し、もちろんこぼし餌の軽減にも成功した事例はたくさんあります。 そして、上記の母豚への給餌の問題も、2回給餌から3回給餌に変更してから、こぼし餌の改善はもちろん、産後の肥立ちもよくなりました。ちょっとした事ですが、これを当たり前に実施している生産者もいれば、『そんな面倒な事している人がいるの?』といぶかしがる生産者もいます。 写真4(こぼし餌、密飼い)
(2)飼料の切り替え:飼料の切り替えのタイミングは要求率への影響はもちろん、消化器疾病への影響も左右する重要な要因です。私の訪問した農場で、餌付けミルクは高価な為、早めに(ほとんど給与していない状況だったように感じました)次のステージの飼料に切り替えた結果、離乳時のばらつきや離乳後の肥立ちが悪く、下痢症状も散発していました。また、この逆もあります。その場合も未消化下痢や大腸菌性の下痢等に悩まされていました。
改善ポイント:自農場の哺乳豚の発育状況や母豚の泌乳力等を把握しなくてはなりません。
哺乳豚の健康状態が芳しくない農場は別ですが、最近はサーコワクチンや抗コクシジウム薬等の使用により、哺乳豚の健康状態が改善している農場が多いように思います。その際は餌の切り替え時期の再検討が必要です。
(3)出荷豚の胃袋:意外と気にされない生産者が多いようですが、AO豚舎なのに出荷直前豚への給餌量を調整せず、出荷豚の胃袋に餌が入ったまま出荷している状況が見られます。胃の中の餌の量×出荷頭数なわけですから積もり積もって大変なロスにつながります。

まとめ

今や売上の半分以上を占める飼料。その中の約8割は子豚肉豚期飼料です。
出荷直前の肉豚が死亡すると『食い逃げ』とはよく言ったもので、肉豚まで育てる為の『飼料費』『衛生費』『人件費』などが消えてしまうのだから農場にとっては甚大な被害です。私のクライアントで、圧死が発生しても『なぜ起こったのか』『なぜ防げなかったのか』を担当者に報告書の提出を義務付けている経営者がいます。
死ぬことを当たり前、仕方ないで片付ける事は絶対にしない。次はどうすればよいのか、経営者自身が考え、スタッフにもそれを意識させているのです。飼料要求率を左右する要因は様々で、それぞれが複雑に絡み合っています。
現場で行う全ての作業や管理には目的と意味があるはずです。この過酷な状況だからこそ今一度、その目的と意味を農場全体で共有、そして実行することが『儲かる養豚経営』へ繋がる『道しるべ』だと思います。

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