PFTSによって生じる損失を複合次亜塩素酸系消毒剤によって減少させる効果

The effect of Virkon S disinfection on the reduction of losses caused by PFTS

　離乳後成長不全症候群(Porcine periweaning failure to thrive syndrome、以下PFTS)は離乳後1~3週間の豚に認められるもので、食欲不振、元気消失、進行性衰弱を臨床症状とする。罹患初期においては、見た目は健康でボディコンディションもよい状態である。発症した豚では体重減少、削痩（ボディコンディション不良）が1～3週間続き、致死率は高い（50～100％）。

　罹患した豚からいくつかの感染因子が特定されているが、PFTSの病因はまだ明らかになっていない。病理組織学的病変としては、慢性鼻炎、表在性胃炎、萎縮性腸炎、表在性大腸炎、胸腺萎縮が罹患した豚のほとんどで観察されている。

　PFTSは発症日齢、特徴的な臨床症状、病理組織病変から診断される。重要なのは、他の既存の豚の疾患を除外することである。

　母豚300頭規模でPFTSが認められた農場を選択した。

　この農場はPorcine circovirus type 2 (以下、PCV2)、Mycoplasma hyopneumoniae Haemophilus parasuis(5型および14型)、Actinobacillus　pleuropneumoniae (8型) (以下、Ap)、Streptococcus suis (以下S.suis)、Porcine Epidemic Diarrhea (以下、PED)が陽性である。豚にはAp と豚丹毒のワクチンを接種している。母豚にはPCV2、Ap、大腸菌、TGE/PED(自家ワクチン)、PRRSウイルス 、パルボウイルス 、豚丹毒のワクチンを接種している。

　離乳後の豚にはアモキシシリンを使用している（10日間投与）。子豚は子豚舎で5週間飼育後、肥育舎へ移動させる。

　PFTSの発生は2013年より始まり、この農場では有意に死亡率が上昇した。平均体重7.3㎏とボディコンディションのよい状態にあった離乳子豚が、アモキシシリンを使用していたにもかかわらず離乳約7日後にPFTSの初期症状である成長障害及び筋肉の削痩を見せ始めた。後日、健康状態が悪化し罹患した豚は死亡するか処分された。総合研究所で検査を行ったが、死亡子豚から特定の病原体を検出することはできなかった。ウイルス検査を行ったが、ロタウイルス、コロナウイルス、PCV2、PRRS、豚インフルエンザは陰性であった。糞便や腸内容物について、寄生虫検査を行ったが陰性であった。菌培養を行い、Pasteurella　mulutocida とS.suisが分離されたが　アモキシシリンを飼料添加していたため、肺は抗生剤感受性を有していた。Salmonella　sp、Brachyspira sp、大腸菌などの腸管病原体が持つ毒性因子の可能性も否定された。飼料分析も行ったが、デオキシニバレノールおよびゼアラノインは陰性であった。健康状態は投与薬剤をフロルフェニコールに変更しても改善しなかった。一方で、死亡率は増加した（表1）。典型的な臨床症状や他の疾患を除外し、PFTSと診断した。消毒プログラムは、空舎のときは複合次亜塩素酸系消毒剤を1％濃度で噴霧し、定期的な除染を行い、動物の存在下では毎週二回(月曜日と木曜日)、同じ消毒剤を0.5％濃度で噴霧することが推奨された。2013/4/15　から消毒プログラムを開始し、離乳子豚の大幅な損失減少がみられた。

　2013年4月15日より消毒プログラムを開始し、離乳子豚の明らかな損失減少がみられた（表1）。

　効果の発現は迅速であり、4月の前半に21匹の子豚が死亡したが、4月の後半は死亡した子豚は1匹のみであった。

　群の健康状態は長期間安定した状態を維持し、定期的に環境中に消毒薬の噴霧を行った。

 

　複合次亜塩素酸系消毒液を離乳子豚に消毒薬として用いることによって、死亡率の有意な減少と損失減少および増体の改善効果を確認した(表1)。

　PFTSは海外においても報告例は少なく、不明な点が多い病気であるが、今後日本でも大きな問題となり得るものである。その病気に対して複合次亜塩素酸系消毒剤が消毒効果を有するという結果が本論文からわかった。今後PFTSの病原因子の特定が待たれる。