質量分析法とは?わかりやすく解説③質量分析部
質量分析部
イオン源で生成したイオンを加速し電磁場中で運動させると、イオンの質量(正確には質量mと電荷数zの比(m/z))によって運動の仕方が異なります。m/zの違いにより、振動する電場中での振動の振幅が違ったり(四重極型、イオントラップ型)、のようにある距離を飛行するのに要する時間が異なったり(TOF型)、磁場中での曲がり具合が違ったりします。この運動の違いを利用して、イオンをm/zの違いで分離し、検出器を用いて検出することで、イオンのm/zとその量を測定します。検出された号はコンピュータにより処理され、マススペクトルが得られます。
四重極型
4本の円柱型の電極を同心円状に配置し、対向する電極にそれぞれ直流電圧Uと交流電圧Vを印加します。20V程度の低い加速電圧で四重極電場に入ったイオンは、高周波電場中を振動しながら進みます。このとき、ある特定の質量電荷比m/zを持ったイオンだけが振幅が大きくならず四重極を通過し、検出器に到達することができます。質量選別の「ふるい」のようなもので、別名マスフィルターとも呼ばれています。通常はU/Vが一定となるようにUとVを変化させることにより、小さなm/zを持ったイオンから大きなm/zを持ったイオンまでを順次通過させマススペクトルを得ます。測定可能な質量範囲はm/zが4000程度までです。
四重極型の長所は、
(1)操作が簡単
(2)高速スキャンができる
(3)真空度が悪くても(10-3Pa程度)分析が可能
などです。
短所としては、
(1)分解能は数百程度が限界
(2)m/zが大きくなると感度が落ちる
などがあげられます。
イオントラップ型
原理は四重極型と同じですが、電極をリング状にして四重極の入口と出口をつなげたような構造をしており、電極内部の空間で安定に円運動をすることができるm/zをもつイオンのみがトラップされます。ドーナツ状のリング電極とその上下に配置したエンドキャップ電極で構成され、エンドキャップ電極とリング電極の間に高周波電圧をかけると、中心が最も深いポテンシャルが生じるので、イオンは電極内に閉じこめられ、振動運動をします。高周波電圧を上げていくとm/z の小さいイオンから順番に振幅が大きくなり電極から放出されます。放出されたイオンを検出することでマススペクトルを得ることができます。測定可能な質量範囲はm/zが4000程度までです。
イオントラップ型の長所は、
(1)特定のイオンを蓄積し、ヘリウムなどのガスとの衝突で解離(CID)を起こすことができるため、一つのトラップでMS/MS測定が可能
(2)原理的にトラップ内のすべてのイオンが検出可能なので高感度
などがあります。
短所としては、
(1)四重極質量分析計と同様、高分解能を得ることが困難
(2)閉じこめることの出来るイオン量に制限があるため、定量的な測定に不向き
などがあげられます。
飛行時間 TOF(time-of-flight)型
原理は、イオン源から検出器までの到達時間で質量分離するものである。一定電圧で加速されたイオンが検出器に到達するまでの時間はm/zの平方根に比例します。そのため、m/zが大きい分子は低速で、小さい分子は高速で飛行するので、m/zの小さい分子が早く検出器に到達します。
したがって、イオンが検出器に到達するまでの時間(飛行時間)を測定することにより、イオンの質量電荷比m/zを測定することが出来ます。実際には、イオン源でイオンをパルスとして加速し、検出器に到着するイオン強度と飛行時間との関係(飛行時間スペクトル)を測定します。
TOF型の長所は、
(1)原理上測定できる質量に制限がなく、高質量のイオンの測定が可能
(2)全質量範囲のイオンをすべて検出することが可能なため高感度
(3)測定時間が非常に短い(ms以下)
などがあげられます。