水道水には発がん性物質が含まれている可能性は否定できないが厳格に管理されている
水は人の生活や産業を支える重要なライフラインです。そのため、日本国内では水道水を安全に供給できるよう法令で厳しい水質基準が設けられており、日本の水道水は世界のなかでも有数の安全性があるとも言われています。
しかしながら、水道水に発がん性物質が完全に含まれていないとは言い切れません。あくまで安全性は保証できるように厳格な管理がされていますが、発がん性物質がゼロであるとは科学的にも技術的にも断言ができないことが理由になります。
前提として、日本国内では「水道法」という法律に基づき、51項目の水質基準が定められています。そして、ほかにも27項目の水質管理目標設定項目や46項目の要検討項目なども定められており、人の健康に影響を及ぼし得る物質について監視されています。
さらに、浄水場では毎日水質検査が実施されており、有害物質が含まれていたとしても、国が定めている基準値以下になるように濃度が保たれています。
このように、可能な限り水道水の安全性は保たれるような体制がとられてはいますが、「発がん性物質が含まれていない」と言い切れない理由には下記が挙げられます。
理由 | 解説 |
---|---|
法令で監視が定められていない物質が存在する可能性があるため |
水質基準項目は定期的に見直されているが、存在するすべての有害物質を完全に把握できているわけではない。 また、確認できてまもない物質に関しては、基準や監視体制が整っていないこともある。 |
科学的に有害物質の検出可能な限界があるため | 現代では科学技術を用いて有害物質が含まれていないかを調査しているが、現代の科学技術でも検出できないような微量の有害物質も存在する可能性は否定できないため。 |
工業排水などで混入した有害物質を完全に除去できるとは限らないため | 水道水の水源であるダムや河川などに工業排水や農薬などが混入してしまう可能性は否定できないため。 |
これらを確実に排除できるとは現代では言い切れないことから、水道水には発がん性物質などの混入の可能性を確実に否定することはできないのです。
とくに、詳しくは後述しますが、近年問題視されている「PFAS」という物質については、発がん性の可能性があるとみなされており、工業排水などのさまざまな原因によって水道水に混入してしまう可能性があります。
水道水に含まれる可能性がある発がん性物質
前述したように、法令で監視が定められていない有害物質が存在する可能性があることから、水道水に含まれる可能性がある発がん性物質のすべてを提示することはできません。
とはいえ、水道水に含まれる可能性がある有毒物質のなかでも、発がん性を懸念されている物質はあるため、ここからはそのような物質を解説していきます。
- PFAS
- トリハロメタン
PFAS
「PFAS」とは、有機フッ素化合物のうち、ペルフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物の総称のことです。分解されにくく永続性が高いことから、「フォーエバー・ケミカル(Forever Chemicals)」とも呼ばれています。
PFASのなかには、撥水や撥油性、化学的安定性といった物性を示すものがあり、そのような物質は「撥水・撥油剤」「界面活性剤」「半導体用反射防止剤」などの幅広い用途で使用されています。
そして、PFASのなかでも、PFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)とPFOA(ペルフルオロオクタン酸)は、下記のような幅広い用途で使用されてきました。
成分名 | 用途 |
---|---|
PFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸) | 半導体用反射防止剤・レジスト、金属メッキ処理剤、泡消火薬剤など |
PFOA(ペルフルオロオクタン酸) | フッ素ポリマー加工助剤、界面活性剤など |
PFOSとPFOAには、難分解性・高蓄積性・長距離移動性という性質があるため、現時点では北極圏なども含め世界中に広く残留しています。仮に環境への排出が継続する場合には、分解が遅いために地球規模で環境中にさらに蓄積されていきます。
たとえば、製造業やメッキ工場から土壌や河川、地下水に排水された場合、PFASが環境中に排出される可能性があります。PFASは浄水処理では完全に除去するのが難しいために、水道水中に残留してしまうことがあるのです。
そして、現在ではPFOSとPFOAについては人や動物への健康に影響を及ぼすことが指摘されています。具体的には、人においてはコレステロール値の上昇・発がん・免疫などに関連すると報告がされています。
そして、国際がん研究機関である「IARC(International Agency for Research on Cancer」は、PFOSをヒトに対して発がん性がある可能性があるとされる「グループ2B」に、PFOAをヒトに対する発がん性があるとされる「グループ1」に分類しています。
なお、日本国内では水道水1リットルにあたり、PFOSとPFOAの合算が50ナノグラム以下を暫定的な目標値と設定しています。
とはいえ、PFASがどの程度の量が身体に入ると影響が出るのかについては十分な知見はありません。そのため、現在もさまざまな知見に基づく基準値などの検討が国際的に進められています。
また、国内において、PFOS、PFOA の摂取が主たる要因と見られる個人の健康被害が発生したという事例は確認されておりませんが、環境省は内閣府食品安全委員会が行った食品健康影響評価の結果等を踏まえ、最新の科学的知見に基づき、PFASの暫定目標値の取扱いについて、専門家による検討を進めています。
トリハロメタン
トリハロメタン(Trihalomethanes)とは、水を消毒する過程で発生する副生成物の総称のことです。
水道法では、人々の健康を守るべく水道水を塩素で消毒することが義務付けられています。消毒の際に水道の原水に含まれる「フミン質」などの有機物質と塩素が反応することでトリハロメタンが生成されます。
そのため、トリハロメタンは水道水を安全にするための副産物として生成されてしまうのです。
なお、トリハロメタンの代表例としては、下記の物質が挙げられます。
概要 | |
---|---|
クロロホルム | 国際がん研究機関である「IARC」がヒトに対する発がん性がある可能性があるとしてグループ2Bに分類。 |
ブロモジクロロメタン | 国際がん研究機関である「IARC」がヒトに対する発がん性がある可能性があるとしてグループ2Bに分類。 |
ジブロモクロロメタン | IARCは「ヒトに対する発がん性について分類できない」としてグループ3に分類しているが、発がん性のリスクが指摘されている。 |
ブロモホルム | IARCは「ヒトに対する発がん性について分類できない」としてグループ3に分類しているが、発がん性のリスクが指摘されている。 |
トリハロメタンの4種類は、いずれも発がん性の可能性がある、または発がん性について分類できないとIARCでは考えられています。しかし、動物実験や疫学研究などから、「膀胱がん」「肝がん」「腎臓がん」などとの関連が指摘されることもあります。
日本の水道水質基準では、水道水1リットルにあたりトリハロメタン4種の合計が100μg以下を基準値と定めています。
水道水から発がん性物質を低減するためにできること
PFASやトリハロメタンといった発がん性物質が水道水に混入してしまう可能性は拭えません。そのため、水道水に含まれる発がん性物質から身を守るためにも、下記のような対策を講じることも検討してみてください。
- 浄水器を使用する:浄水器タイプによるがPFASとトリハロメタンの両方に有効
- 水道水を煮沸させる:トリハロメタンの除去に有効
浄水器を使用する
PFASやトリハロメタンを低減、または除去をする手段として、浄水器を使用することが挙げられます。しかし、どのような浄水器でも効果に期待できるわけではなく、PFASやトリハロメタンの除去に適したタイプがあるため注意が必要です。
浄水器のタイプごとに除去が可能かどうかの目安をまとめましたので、参考にしてみてください。
浄水器のタイプ | PFAS | トリハロメタン |
---|---|---|
活性炭フィルター | 一部の除去に有効 | 有効とされている |
逆浸透膜(RO) | 有効とされている | 有効とされている |
イオン交換 | 有効とされている | 一部の除去に有効 |
中空糸膜のみ | 有効ではない | 一部の除去に有効 |
浄水器にはさまざまなタイプがありますが、RO浄水器はPFASやトリハロメタンの除去に有効とされています。そのため、水道水の発がん性物質から身を守る対策を講じたい場合には、RO浄水器の使用を検討するのもよいでしょう。
水道水を煮沸させる
こちらはトリハロメタンの対策になりますが、水道水を煮沸させることも対策になります。
トリハロメタンには揮発性があり、煮沸をさせることで水中から気化するため、除去することができます。水道水を使う際には、5分以上を目安に沸騰させておくのもよいでしょう。
なお、PFASには揮発性がないため、煮沸をしても除去はできません。むしろ、水の濃度が高まることから、PFASの除去のために煮沸をすることは推奨できません。
水道水の安全を守るためにもPFAS検査の実施が有効
当社「株式会社食環境衛生研究所」では、PFASの検査・分析を承っております。最先端の測定装置を用いることによる高感度と、日々様々な試料を処理している技術を組み合わせることで、正確で信頼性の高い検査・分析を確立しています。
水道水のPFAS検査だけでなく、採血によるPFAS生体成分検査にも対応していますので、水道水の安全を守るためにもPFAS検査を実施することも検討してみてください。
まとめ
日本国内では水道水の安全を守るために水道法などによる厳しい水質基準が定められています。また、浄水場では毎日水質検査が実施されており、法律の基準を満たしている水質が保たれています。
しかし、このような体制がとられているとはいえ、水道水に発がん性物質が混入してしまう可能性は拭えません。とくにPFASについては近年問題視されていることから、個人でも水道水に含まれる発がん性物質を取り除くための対策を講じておくことが大切と言えます。
PFASについては浄水器の使用、トリハロメタンについては煮沸によって物質を除去できるため、これらの対策を講じておくことも検討してみてください。