「あと5Km」 フルマラソンで最大の“粘りどころ”にさしかかった。今まで快調に飛ばしてきたが、フルマラソンの壁にぶち当たり始めてきた。
弱気な気持ちが芽生え始めてきたその時「ねぇ—」と女性の声が聞こえた。「誰だろう?」周りを見るが女性の姿はない。先にスタートした女子の部のランナーはとっくにゴールしている時間だ。しばらくするとまた「ねぇ—」そして「今までお疲れさま、ちょっと休んでゆかない?」と耳元でささやかれた。 ボクは「そうかっ、“誘惑の女神”がつぶやいているんだ」と察した。
“女神”は「もう少し先に飲み物やバナナがあるの、休んでいったら楽になるわよ—」と。確かにこの先の給水所でドリンクとバナナを持ちながら立ち止まっているランナーや頭を抱えて座り込んでいるランナーがいる、皆“女神”に誘われるままにレースから離れてしまっている—–
確かにカラダは辛い、でもこのままのペースでゴールすればランナーなら皆憧れ、4年に一度しか開催されない“オールジャパン マラソン”の参加資格を得られる。1秒たりとも無駄にできないのだ。盛んに誘惑してくる“女神”に「いや結構です、ボクはゴールを目指しているので!」ときっぱりと断った。
「あと2Km」を通過、ゴール地点の陸上競技場あたりの上空でヘリコプターが旋回している、トップグループがゴールしたんだろうな。たった2Km、されど2kmだ。この3Kmの間で“女神”と闘い、誘いを断り余計な力を使ってしまい疲れがマックスになっていた。手元の時計でタイムを何度も見始め弱気になってきた。
もし今度“女神”に誘われたら—- と思っていた矢先、”女神“がつぶやいた。
「ねぇ—、あと少し、今度はゴールで待っているわ!」
(このストーリーはフィクションで、当社とは一切関係ございません)
