豚丹毒を考える

近頃各地域で豚丹毒の発生が目立っています。飼料コストの上昇などが農場経営を圧迫し、農場衛生費の大幅な削減を余儀なくされていることも影響していると思いますが、不用意なワクチン接種の中止が豚丹毒に関わらず、様々な疾病発生のきっかけに繋がってしまいます。
また、実際に現場に伺い相談を受けたりしていると、これ以外の理由があるようにも感じられます。
撲滅出来ているようで出来ていない畜舎内(天井部、壁部、床部、給餌器周り、給水器周りなど)や畜舎廻り(土壌や井戸水など)への豚丹毒菌の存在や、豚丹毒ワクチンプログラム自体への勘違いもその1つと考えています。
今回は全国的にもその発生が増加傾向にある豚丹毒について、その発生原因と対応を含めて考えてみたいと思います。

豚丹毒とは
豚丹毒菌の関与で発生する人畜共通感染病(届出伝染病)。
症状は急性の敗血症型、亜急性の蕁麻疹型、慢性の心内膜炎型、慢性の関節炎型の4つに分別されます。
敗血症型、蕁麻疹型は発熱症状を示しますが、心内膜炎型、関節炎型は発熱症状は示しません。

発生が多い型は何か
近年の発生数で多くを占めているのは関節炎型、蕁麻疹型、敗血症型になります。

注意する点について
①蕁麻疹型は皮膚に特徴的な病変が起こり、発熱を伴う症状からも農場側で発見しやすいはずなのですが、何故か屠畜場にて発見されて屠畜できずに返されています。
出荷時点で皮膚の汚れが多い場合や、出荷時の確認の不手際などが重なるとこの手の失敗が起こるようです。
②関節炎型は農場の生活状態内ではほとんどが発見できない可能性があります。
関節部位の炎症はあるのですが、ほとんどの豚が不顕性感染で経過し、屠畜場へ出荷されてしまいます。
関節炎型は母子感染が主な感染経路になりやすく、蕁麻疹型や敗血症型が耐化したあとに発生が多発する可能性があります。
③敗血症型は全身のチアノーゼ、発熱、諸臓器の炎症等を引き起こし、急な死亡(突然死)に繋がるやっかいな存在です。今年の異常気象で動きやすくなってしまったのか発生数が急増しています。特に150日齢以降の出荷直前頃での発生が目立ってきています。
④ワクチンプログラムでは未経産豚及び種豚(♀、♂)へのワクチン接種を忘れてはいけません。
⑤生ワクチンは薬剤投薬プログラム次第では死滅してしまいます。
⑥不活化ワクチンは接種回数が少ない場合や接種漏れなどがある場合は効果が半減してしまいます。

生ワクチンが関与してしまう発生にも注意
特に関節炎型が屠畜場にて発見された場合、農場内で本当に関節炎型が蔓延しているのか否かを確かめることも必要です。
接種日齢を90日齢以降(100~130日齢頃)で行っていたり、1ドース以上のワクチン量が接種されていたりすると、体内で豚丹毒生ワクチンの菌株自体が残っていて、豚丹毒以外の関節炎症だったとしても、菌検査時点では豚丹毒菌が分離されてしまうことがあります。

自農場に合ったワクチンプログラムの実施がカギ
豚丹毒の発生については、地域の事情や諸状況によっても発生数が左右されることも事実です。
ワクチン接種を行なっていない農場のみに発生が集中していることはなく、真面目にワクチン接種を行なっている農場でもその発生が多発している事実にも着目しなくてはいけないと思います。
本当の意味で豚丹毒を防除できる管理プログラムやワクチンプログラムの構築が必要なのかも知れません。
菊池雄一

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