哺乳子豚と下痢 2026年3月号
哺乳期の下痢症状は、死亡率の上昇や発育遅延を引き起こす重大な課題です。特に生後数日以内に発症する早発性下痢は、免疫力の未熟さ、環境要因、管理要因、感染性要因等が複雑に絡み合っており、的確な対応が求められます。
主な原因としては、感染性要因である病原性大腸菌、クロストリジウム、ロタウイルス、コクシジウム、サルモネラ、PED、TGE等、非感染性要因である母豚の免疫力不足、体力不足、乳質不良、ボディコン失宜、子豚の初乳摂取不足、畜舎管理面の換気不良、寒冷ストレス、水温と水質、洗浄・消毒・乾燥の失宜等が挙げられます。
特に生後1〜3日目に発症する下痢は、その後の発育、免疫力に大きな影響を与え、重症化しやすい傾向があります。ここに関与しやすい下痢では、PEDやTGE等のウイルス疾病ではない限り、病原性大腸菌や母豚の体調不良(乳房炎、乳質)、寒冷ストレスによる発生が多くを占める傾向があります。したがって、迅速で的確な対応により、早期の回復が可能となり、その被害も最小限に抑えられます。
初動対応のポイント
1. 母豚の確認:母豚の食欲、熱、乳房状態は必ずチェックする。
2. 下痢子豚の確認:1頭?複数等?全頭?水様性?泥状便?軟便?白色?黄色?褐色?赤色?
3. 脱水対策:脱水症状を防ぐ。経口補液剤の利用、リンゲル糖+薬剤による腹腔内注射。
4. 保温対策:体温低下を防ぐ。保温器具の数、高さ、強弱、使用している床材等の見直し、ドライパウダーの活用。
5. 治療対策:数頭の下痢であっても、その腹の子豚全てを治療する。下痢を呈した腹の母豚への治療も忘れずに行う。
6. 周りへの配慮:下痢の治療は選任者が行い、他の腹へ広げない配慮が必要。治療も専用の長靴、専用の手袋、専用の前掛け(消毒が出来るタイプが便利)で対応する。
哺乳子豚の下痢が免疫系に与える主な影響。
1. 初乳吸収の妨げ。下痢の原因となる病原体は、生後すぐの子豚に感染しやすい傾向があります。早期の下痢では、腸の吸収機能が低下して初乳中の免疫グロブリン(IgG)の吸収が不十分になることがあり、これによって、受動免疫の獲得が不完全になり、他の感染症への感受性が高まる危険があります。
2. 腸管バリア機能の破綻。腸の粘膜は、病原体の侵入を防ぐ重要なバリアの役目を果たしています。しかし、下痢によってこのバリアが損なわれると、腸管免疫の発達が阻害され、免疫寛容や局所免疫の形成に悪影響を及ぼす可能性があります。
3. 慢性的な炎症と免疫疲弊。繰り返す下痢や長引く炎症は、免疫系を過剰に刺激してしまいます。これにより、T細胞やマクロファージの機能低下を招くことがあり、免疫疲弊になりやすいと言われます。
4. 腸内細菌叢の乱れ。健康な腸内環境は免疫系の教育には不可欠です。腸管には免疫細胞の7割が集まっているとも言われます。まさに『病は腹から』かも知れません。下痢によって腸内細菌のバランスが崩れてしまうと、免疫系の発達にも悪影響が出ます。これは後のワクチン接種免疫の獲得状況にも影響を与えることになり、特にビフィズス菌や乳酸菌などの有益菌が減少することで、病原菌の定着リスクが高まることも指摘されています。
下痢を発生させない予防管理が最も重要です。
1.母豚側の管理。(免疫力、体力の向上)
適正なボディコン管理、栄養管理、給餌管理、飲水管理による体調コントロール。安産を促し、栄養不良、乳房炎、泌乳量不足にさせないこと。
2.子豚側の管理。
介助分娩管理、哺乳子豚への管理プログラム、里子管理等、ルールを厳守して実施。
3.環境側の管理。
洗浄・消毒・乾燥、飼料管理、飲水管理、除糞管理、保温器具等の準備、マット及びドライパウダー等の準備、温度設定の再確認、湿度設定の再確認、分娩するお尻側の衛生環境と保温環境の最終チェック。
4.馴致管理。(管理獣医師と必ず相談してください)
最後に。
下痢の原因は様々です。そして近年は、消化器疾患と呼吸器疾患が密接に絡み合っている状況も示唆されています。感染源の特定と関与疾病の確認はとても重要となりますので、下痢が発生したら、糞便検査等の実施も進めてください。
(株)食環境衛生研究所 菊池雄一