下水サーベイランスについて
下水サーベイランスとは、下水疫学調査とも呼ばれ、下水中に含まれるウイルスや病原体などを定期的に検査・モニタリングすることで、その流域における感染症の流行傾向を把握する公衆衛生上の手法です。
下水には、人の糞便などに由来する病原体や化学物質など、さまざまな成分が含まれています。感染症によっては、感染者の糞便などを通じて病原体やその遺伝子が排出されることがあります。そのため、下水を検査することで、下水処理区域内における病原体の検出状況を把握することが可能になります。
下水サーベイランスが注目される理由
日本では、定期予防接種の対象となる疾病について、感染源の調査や抗体保有状況を把握するため、1962年に「伝染病流行予測調査事業」として調査が開始されました。その後、感染症法の施行に伴い、現在の「感染症流行予測調査事業」として実施されています。
その中で、ポリオウイルスについては、海外からの侵入や国内での伝播を確認する目的で、下水を用いた調査が実施されています。
さらに、新型コロナウイルス感染症の流行をきっかけに、下水サーベイランスの有用性が改めて注目されるようになりました。令和6年度からは、新型コロナウイルスの流行状況を把握するため、感染症流行予測調査事業の一部として下水サーベイランスが実施されています。令和7年度には対象自治体の拡大が進められ、令和8年度も新型コロナウイルスの感染動向を補完的に把握する調査として継続されています。
海外では、下水サーベイランスを公衆衛生施策の一つとして活用する国が増えています。EUでは、改正都市排水処理指令が2025年1月1日に発効し、新型コロナウイルスや薬剤耐性などの公衆衛生上の課題となる項目について、下水を活用したモニタリングの制度化が進められています。
世界的には、下水を活用した公衆衛生モニタリングの制度化や活用が進んでいます。日本においても、感染症対策の選択肢の一つとして、自治体が導入を検討する意義は高まっているといえます。
下水サーベイランスで把握できる感染症の流行傾向
下水サーベイランスでは、対象とする病原体を設定することで、下水処理区域における感染症の流行傾向を補完的に把握することができます。
公的な調査では、ポリオウイルスや新型コロナウイルスを対象とした環境水調査が実施されています。また、目的に応じて、ノロウイルスやインフルエンザウイルスなどを検査対象として検討することも可能です。継続的なモニタリングを行うことで、下水処理区域内での増加傾向や減少傾向を確認できます。
特にノロウイルスは、感染力が強く、学校、保育施設、高齢者施設、飲食店などで集団感染につながることがあります。そのため、下水処理区域における流行の兆候や増減傾向を把握する手段として、下水サーベイランスの活用が期待されます。
また、下水サーベイランスは、特定の個人を対象とする検査ではなく、下水処理区域内の傾向を把握するための調査です。そのため、個人情報に配慮しながら感染症の流行状況を確認できる点も特徴の一つです。
下水サーベイランス検査の流れ
下水サーベイランス検査は、一般的に以下のような工程で実施されます。
- 採水
- 濃縮
- 検査
- 結果報告
1. 採水
採水では、主に下水処理場の流入水を採取します。対象地域の状況を反映しやすい場所で採水することが重要です。
採水場所としては、ある程度の水の流れがあり、極端な滞留が少ない場所が望ましいと考えられます。ただし、処理場の構造や採水設備によっては、適切な採水場所の検討が必要になる場合があります。
そのため、下水サーベイランスを実施する際は、事前に検査会社へ相談し、採水場所や採水方法を確認することをおすすめします。
2. 濃縮
下水中に含まれる病原体やその遺伝子は、非常に低濃度であることが多いため、そのままでは検出が難しい場合があります。
そのため、採取した下水を検査に適した濃度まで濃縮する工程が重要です。濃縮方法には複数の手法があり、検査会社によって採用している方法が異なります。
3. 検査
濃縮後の検体は、測定法に適した状態になるよう前処理を行い、検査を実施します。
下水サーベイランスでは、対象とする病原体に応じて、RT-qPCR法やqPCR法などの遺伝子検査法が用いられます。これらの方法により、対象となる病原体由来の遺伝子を検出・定量します。
4. 結果報告
検査結果が出た後は、依頼者の希望に応じた形式で報告します。
継続的に検査を行う場合は、検出結果をグラフ化することで、感染症の増加傾向や減少傾向をより分かりやすく把握することができます。
また、自治体などで結果を公表する場合は、住民が理解しやすい形で情報を発信することが重要です。
自治体で下水サーベイランスを導入する際のポイント
自治体で下水サーベイランスを導入する際は、まず実施目的を明確にすることが重要です。
たとえば、以下のような目的が考えられます。
- 下水処理区域内の感染症の流行傾向を把握したい
- ノロウイルスなどの流行を早期に察知したい
- 感染症対策の判断材料として活用したい
- 住民への注意喚起に役立てたい
- 継続的な公衆衛生モニタリングを行いたい
目的によって、対象とする検査項目、採水場所、採水頻度、検査頻度、結果の報告形式などが変わります。
また、下水サーベイランスは一度の検査だけで判断するものではなく、継続的に実施することで傾向を把握しやすくなります。そのため、導入時には、単発の調査として行うのか、定期的なモニタリングとして行うのかを事前に検討することが大切です。
下水サーベイランスとノロウイルスなど感染症対策への活用
下水サーベイランスは、地域の感染症対策に活用できる手法の一つです。
たとえば、ノロウイルスの流行傾向を示す参考情報として活用することで、学校、保育施設、高齢者施設、飲食店などに対して、手洗いや消毒、体調不良時の対応など、感染予防に関する注意喚起を行うきっかけになります。
また、下水サーベイランスの結果をホームページなどで公表する自治体もあります。このような情報は、住民が地域の感染症動向を知るきっかけとなり、感染症への注意喚起や日常生活での感染予防行動につながることが期待されます。
下水サーベイランスは、特定の個人の感染を診断するものではなく、下水処理区域内の流行傾向を補完的に把握することに強みがあります。地域の感染症対策を考えるうえで、客観的な参考情報として幅広く活用できます。
下水サーベイランス検査のご相談について
下水サーベイランスは、下水中に含まれるウイルスや病原体を調べることで、下水処理区域内の感染症の流行傾向を把握することができます。
医療機関を受診した患者数だけでは把握しにくい軽症者や無症状感染者の影響も含めて、下水処理区域内の感染状況を反映できる可能性がある点が大きな特徴です。
また、検査結果を流行傾向が分かる形で公表することで、住民への注意喚起や、地域における感染症対策の判断材料として活用することができます。
導入を検討する際は、どの病原体を対象とするのか、どのような目的で実施するのか、採水場所や検査頻度をどう設定するのかなど、事前に検査条件を整理することが重要です。具体的な条件が決まっていない段階でも、検査会社に相談することで、目的に合った調査設計を検討しやすくなります。
弊社では、自治体・下水処理場向けに下水サーベイランス検査サービスを提供しております。ノロウイルスをはじめ、検査項目・採水頻度・報告形式など、導入目的に応じて柔軟に対応いたします。
「どの病原体を対象にすればよいか」「費用の目安を知りたい」など、検討段階でもお気軽にお問い合わせください。
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参考資料
- 厚生労働省:感染症発生動向調査
- 内閣感染症危機管理統括庁:下水サーベイランス
- 厚生労働省における下水サーベイランスに関する取組について
- 次の感染症危機に備えたサーベイランスに係る取組の進捗状況について
- 諸外国における下水中の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)検出情報の活用事例
- 新型コロナウイルス感染症 Up-to-date
- 下水疫学調査による新型コロナウイルスの感染動向把握 安藤 宏紀・北島 正章