陰性農場での防疫と陽性農場でのPRRSコントロール 2025年10月号

様々な疾病がある中で、まだ解っていないことも多く、未だに解決したとは言い切れない疾病の1つが、PRRS(豚繁殖・呼吸障害症候群)だと思います。
このPRRSは養豚業界の最大の難関であり、最大の課題にもなっています。
 
サーコウイルス2型はほとんどの農場で感染が成立している疾病ですが、PRRSでは陰性農場と陽性農場が存在しています。又、PRRS感染の有無で農場成績に差があることは事実ですが、陽性農場であっても自社で出来る目的を持った管理コントロールを実施することにより、良い成績を維持し、さらに向上している農場も多く見られます。
 
PRRSは陰性で保つこと、侵入させないことが重要ですが、侵入と感染を許してしまった場合は的確且つ素早い対応でコントロールする必要があります。PRRSのコントロールに成功し、成績が安定に向かう農場とそうではない農場との境目にはいったい何があるのでしょうか。
 
① 入り込んでいるPRRSウイルスの株の数と強弱?
② 他の疾病感染群の関与と感染圧?
③ 飼養環境の不備(栄養不良、低温環境など)?
④ ピッグフロー、マルチサイトの課題?
⑤ AI・AO(オールイン・オールアウト)の未実施?
⑥ マクレベル法(McRebel)の取り組み状況?
 
これら以外にも様々な原因はあると思いますが、これらにプラスする形で、他の要因も絡んでしまうと、その被害はさらに甚大なものへと変わっていきます。(立地条件、ピッグフローの不備、人や物の動線の不備、ボディコン不良、水関係、カビ毒など)
 
今更な情報ですが、PRRSは豚の呼吸器系や生殖器系に影響を与え、豚の生産性を低下させる病気です。繁殖障害や呼吸器病に限らず、あらゆる病態に関与するウイルス性伝染病であり、伝播力も強く、豚自身が保有しているマクロファージで好適に増殖するので、全体の免疫力が低下し、他の疾病との複合感染を起こしやすいとされています。
感染経路は、感染豚の移動、導入及び出荷屠畜場での汚染、空気感染等が最も多く、感染豚は、ウイルスを体内に長期間保持し、鼻汁、唾液、糞尿、精液等に多量のウイルスを排泄します。やはり、一番の問題は、体内の免疫物質であるマクロファージが破壊されてしまうので、体の免疫力や抵抗力が低下することでしょうか。
 
陽性農場で明暗が分かれるもう1つの要因として、感染時期が哺乳期間中及び離乳前後の幼若日齢であるか、子豚舎後半~肥育舎移動後の後半時期なのかによっても、発現する病原性や農場での被害は異なると言われます。つまり、母豚群のPRRS感染と保有免疫が不安定なままで、早期感染を起こしている農場では、PRRSの被害はさらに大きくなり、PRRSに掛かった子豚や肥育豚は、死亡を免れたとしても、食欲低下も後押しして要求率が悪化します。
 
対応としては、足し算していく管理よりも、引き算していく管管理が推奨されます。所謂無駄に戦わない姿勢が大事となります。そして、PRRSの感染時期や感染株の把握をまずは行ってください。(検査ツールの有効活用:エライザ抗体価検査、IFA抗体価検査、PCR検査、シーケンス検査等)同時に他の疾病との絡みについても徹底的に把握することを勧めます。(PRRSは株毎に行う対策が分かれている訳ではありませんが、PRRSに絡んだ複合感染の有無を調べる病性鑑定検査や血液抗体価検査、臨床状況や稟告等で判明した事実を元に、総合的な対策を組むことが重要となります)又、行っているワクチンや針管理等にも着目し、的確なプログラムの下でウイルスが暴れないように仕向けていきます。川上管理である未経産豚、雄豚、雌豚への対応、特にPRRSワクチンの組み方や接種する方法にも一定の注意点が存在し、この注意点が守られていない場合は、折角の効果が出ないことも多々ありますので注意してください。
 
陰性農場の対策では、1にも2にも3にもPRRSを農場へ入れさせないバイオセキュリティに尽きると思います。農場の外周・内周、ピッグフロー、人や物の動線、飼料運搬、死亡獣運搬、資材運搬、出荷豚運搬、糞尿運搬、外部業者、役員と従業員、衛生区域、非衛生区域、出入口、事務所、畜舎、堆肥舎、浄化槽等、すべてのセクションの防疫管理と侵入措置を再度、周知・徹底させてください。PRRSは数週間後には陰性農場から陽性農場になってしまう事例もあります。定期的なPRRSを含む抗体検査や睾丸、舌、唾液(ロープ法)、血液を使用したPCR検査等での確認も併用するようにしてください。
 
㈱食環境衛生研究所 菊池雄一
 
 

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