農薬の管理

C.栽培工程における共通管理

24.農薬の管理
24.1.農薬使用計画
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24.1.1 必須 IPMの
実践
農場は外部委託先と契約を結んでいる。
農場と外部委託先との間で交わされた契約文書は下記の内容が含まれている。
(1)農薬管理の責任者は、
耕種的防除・生物的防除・物理的防除及び化学的防除を適切に組み合わせることにより、
病害虫・雑草による被害を抑える計画としている(総合的病害虫・雑草管理(IPM: Integrated Pest Management))。
(2) 過去の病害虫・雑草の発生状況、農薬使用計画・実績による改善策を検討し、その結果を農薬使用計画に反映している。
例えば、下記の取組みを行っている。
・病害虫に強い品種選定等、病害虫・雑草の発生を予防するための工夫
・病害虫・雑草の発生状況の的確な把握、
防除方法やタイミングを決定するための情報の収集
・病害虫・雑草の発生状況に基く必要最低限の農薬散布
・こまめな除草
・太陽熱消毒による連作障害の予防
24.1.2 必須 農薬の
選択・計画
農薬管理の責任者は下記を満たした農薬使用計画を立てている。
(1)使用する予定の農薬の商品名、有効成分、適用作物、適用病害虫・雑草、希釈倍数、
使用量、使用回数、総使用回数、使用時期、使用方法(散布以外)を書いた農薬使用計画がある。
(2)上記の農薬使用計画は、生産国の農薬使用基準を満たしている。
(3)取引先及び地域の規制要求がある場合には、その農薬使用基準を満たしている。
(4)輸出を検討している場合は、輸出先の国で使用が禁止されている農薬を使っていない。
また、使用が認められている農薬は、残留農薬基準を確認した上で選択している。
(5)水田または水系に近い圃場での使用については、魚毒性を考慮している。
(6)農薬使用計画は、ポストハーベスト農薬を含んでいる。
日本の場合、例えば、農協や普及センターが作成した防除暦・有効成分と
その総使用回数の記載がある使用可能な農薬リスト等を参考にして農薬使用計画を作成する。
輸出先の国に残留基準値がない場合Codex MRLを使用する。
⑥日本の場合、ポストハーベスト農薬は食品添加物に該当する。
24.1.3 必須 耐性・抵抗性の
防止
過去に使用した農薬を把握し、耐性・抵抗性が生じないような防除計画を立てている。
ラベルに指示がある場合はそれに従っている。
例えば、対策として、同系統の有効成分の農薬を連続して使用しない、
ラベルに記載された希釈倍数より薄く希釈しない等がある。
24.1.4 必須 残留農薬の
後作への考慮
今作で使う農薬が後作の作物にも適用があるか確認し、
後作で残留農薬基準違反を起こさないように対策を講じている。
例えば下記がある。
・後作物に適用がなく、
残留基準が一律基準の場合は基準値超過の恐れがあるため農薬を変更するか、
適用がある後作物に変更する。
・栽培を途中で切り上げた場合、
すぐに後作の作付をせず期間をあけたり緑肥を撒いたりしている。
・育苗箱に農薬を使用した場合、
苗箱処理時にシートを下に敷いていたことを確認してから後作の作付をしている。
対策が行われていない場合は後作の作付を控えている。
24.2.農薬の準備
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24.2.1 必須 農薬使用
の決定
(1)農薬管理の責任者は、管理点24.1.2で立てた農薬使用計画に従って農薬使用を決定している。
(2)計画を変更する場合には、変更した農薬使用計画が管理点24.1.2を満たしているか再度確認してから決定している。
(3)収穫予定日から逆算して使用日を決定している。
(4)その他、ラベルの指示事項に従っている。
(2) 例えば、普及指導員や農協・農薬メーカーの有資格者に確認をとってから変更する。
24.2.2 必須 農薬の
準備・確認
(1)農薬管理の責任者の許可・指示なく農薬を準備・使用していない。
(2)最終有効年月を過ぎた農薬を使用していない。
24.2.3 必須 散布液の
調製
(1)農産物や環境に危害のない場所で散布液を調製している。
(2)農薬を正確に計量している。
(3)こぼれた農薬を処理するための農薬専用の道具がある。
(4)農薬の計量と散布液の調製は、ラベルに従い、防除衣・防除具を着用して行っている。
(5) 散布液の調製時に給水ホースをタンクに入れて撹拌していない。
(2) 例えば、普及指導員や農協・農薬メーカーの有資格者に確認をとってから変更する。 (2)例えば、正確に計量できる秤、計量カップを用いている。
(3)例えば、こぼれた農薬を処理する道具には、砂、ほうき、ちりとり、
ゴミ袋等がある。道具は管理点24.4.3⑤の道具と兼用にしている。
(4)防除具は、例えば、保護眼鏡、
農薬用マスク(粉剤・液剤用)・防護マスク(粉剤・液剤用)・防護マスク(土壌くん蒸用)、
ゴム手袋、ゴム長靴等がある。 マスクの種類は農薬のラベルに記載の安全使用上の注意事項に従う。
24.2.4 必須 農薬の
計量・希釈
(1)必要な散布液量を計算し、散布後に散布液や散布薬剤(粒・粉)が余らないようにしている。
(2)正確に希釈している。
(3)混用が必要な場合はラベルの指示に従い、剤型による投入の順番を考慮して良く混ぜている。
(4)計量カップや農薬の空容器は使用後、3回以上すすぎ、すすいだ水は薬液のタンクへ希釈用の水の一部として戻している。
(2)例えば、希釈倍数を間違えないよう早見表を利用している。希釈用の水を正確に計るため平らな場所で水を準備している。
(3)混用の前に混合剤があるか確認する。混用する場合は、例えば農協・農薬メーカーに相談したり、混用事例集を活用する。
24.3.農薬の使用と記録
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24.3.1 必須 防除衣・防除具の
着用
(1) 農薬使用にあたり、作業者は農薬のラベルの指示に従って適切な防除衣・防除具を着用している。
(2) マスクについては、使用回数・期間の指定がある場合にはそれに従っている。
(1) 例えば、ラベルの指示通りのマスクであることを販売店に確認してから購入している。
24.3.2 必須 防除衣・防除具の
洗浄
(1) 農薬使用後は、防除衣・防除具による交差汚染を防いでいる。
(2) 再利用する防除衣及び防除具は使用後に洗浄している。
(3) 防除衣は着用後に他の服とは分けて洗浄しており、手袋は外す前に洗っている。
(4) ゴム長靴は靴底までしっかりと洗っている。
(5) 破れたり痛んだりした防除衣やマスクの汚れたフィルターは新しく替えている。
(1)例えば、農薬散布作業後は収穫作業をしない。他の作業をする場合は着替えや手洗いの後に他の作業に入る。
24.3.3 必須 防除衣・防除具の
保管
防除衣・防除具を農薬及び農産物と接触しないように保管している。また、乾かしてから保管している。 例えば、防除衣と防除具を農薬保管庫に保管していない。
24.3.4 必須 残液の
処理
(1)調製した散布液は、対象圃場で使い切るようにしている。
(2)農薬散布後の残液の処理は、行政の指導に従っている。行政の指導がない場合には、
自分が管理する特定の場所で、農産物や水源に危害がない方法で処理している。
(2) 例えば、残液は、作物の植わっていない自分の土地で作業の動線や水路から離れた雑草の生えた区画に散布して浸透させている
24.3.5 必須 農薬散布機の
洗浄と洗浄液の
処理
(1)散布設備に農薬が残らないような洗浄手順を決めた上で、
散布後は散布機、ホース、ノズル、接合部及びタンクを速やかに洗浄している。
(2)散布設備の洗浄は、自分が管理する特定の場所で、農産物や水源に危害がない方法で行っている。
(3)洗浄液は管理点24.3.4(2)と同様の方法で処理している。
例えば、複数の作物に同じ農薬散布機を使用している場合には特に注意している。
洗浄液を畝間に処理していない。薬剤の付着した状態で、タンク等を他の目的に使用していない
24.3.6 必須 再入場の
管理
(1)農薬を使用した直後の圃場や圃場周辺への立入について、
ラベルに指示がある場合には、それに従っている。入場を制限する警告を周知している。
(2)ラベルに指示がなくても、散布した農薬が乾くまでは圃場には立ち入らない
(1)例えば、ハウスの入り口にいつまで立ち入り禁止かを示した札を掲げている。
24.3.7 必須 農薬使用の
記録
農薬を使用した場合、下記の項目を記録している。
(1)対象作物(農薬登録における適用作物名)
(2)使用場所 (圃場名等)
(3)使用日
(4)農薬の商品名
(5)使用目的(適用病害虫・雑草名
(6)有効成分
(7)希釈倍数が指定されている場合には希釈倍数と散布液量、使用量が指定されている場合には10a当たりの使用量
(8)使用時期(収穫前日数等)
(9)使用方法(散布機等の機械の特定を含む)
(10)作業者名
農薬使用計画に(4)(5)(6)(8)(9)を記載しており、計画通りに使用した場合、
農薬使用の記録には(4)のみを記載し、(5)(6)(8)(9)を省略してもよい。
(7)は散布液を調製する際に計量した原液量を記録することを推奨する。
(9)使用方法には、散布、株元散布、土壌灌注等がある。
24.3.7.1 必須 農薬の
適正使用に
関する検証
(1) 農薬使用記録から農薬使用が管理点24.2.1(1)(2)に従って適切であったことを収穫前に農薬管理の責任者が検証し記録している。
(2) 使用時期については、収獲後で農産物を出荷する前に管理点24.2.1(3)に従って適切であったか農薬管理の責任者が検証して記録している。
例えば、農薬使用記録に農薬管理の責任者による検証欄を用意し、農薬使用基準を満たしていることが確認できた場合、そこに押印している。
24.4.農薬の保管
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24.4.1 必須 農薬保管庫の
管理
(1)農薬を農薬保管庫外に放置していない。
(2)農薬管理の責任者が農薬保管庫の鍵を管理し、誤使用や盗難を防止している。
(3)農薬保管庫は強固であり、施錠されており、農薬管理の責任者の許可・指示なく農薬に触れることができないようになっている。
(4)毒物・劇物及び危険物は、それらを警告する表示がされており、他の農薬と明確に区分して保管している。
(5)立ち入り可能な農薬保管庫の場合、通気性がある。
(6)ラベルが読める程度の明るさがある。
(7)ラベルに保管温度に関して指示がある場合には、それに従っている。
例えば、農薬保管庫に入りきらない大きな容器の農薬は、倉庫全体を保管庫とする方法がある。
その場合、出入りの都度施錠をし、農薬管理の責任者の許可・指示なく開錠できないことなど管理点24.4全体を満たす必要がある。
24.4.2 必須 誤使用防止 (1)農薬は、購入時の容器のままで保管されている。
(2)農薬の取り違えを起こさないように保管している。
(3)使用禁止農薬、登録失効農薬、最終有効年月を過ぎた農薬は誤使用を防ぐため、区分して保管している。
(1)飲料容器等への移し替えは誤飲の危険性があるため絶対にしない。
(2)例えば、作物に使用するもの、作物以外に使用するもの
(除草剤や非農耕地に限って使用が許可されているもの)を分けて保管している。
使用作物ごとに棚を分けて保管している。またラベル表示がわかるようにしている。
(3)使用禁止農薬については回収されるまでの一時保管であり、
日本の場合、農協等の農薬販売者により速やかに回収してもらう必要がある。
24.4.3 必須 農薬混入・
汚染防止
(1)使いかけの農薬は封をしている。
(2)農薬の転倒、落下防止対策を講じている。
(3)農薬の流出対策を講じている。
(4)保管庫の棚が農薬を吸収・吸着しないような対策を講じている。
(5)農薬もれに備えて、こぼれた農薬を処理するための農薬専用の道具がある。
(6)農薬が農産物や他の資材に付着しない対策を講じている。
例えば、液状の農薬は粉剤・粒剤・水和剤の上に置かない。
開封した農薬ボトルは深さがあり穴の空いていない容器に入れる。
(5)こぼれた農薬を処理する道具としては例えば、砂、ほうき、ちりとり、ゴミ袋がある。
(6)例えば農薬保管庫に他の資材を入れない。農薬保管庫の近くに種苗や農産物を置かない。
24.4.4 必須 危険物の保管
(農薬)
発火性または引火性の農薬(油剤・乳剤等の危険物)を保管している場合は、
農薬の販売店・メーカー等に保管方法を確認し、その指示に従って保管している。
また、危険物の表示をしている。
日本の場合、消防法による危険物の指定数量管理が該当する(管理点19.1参照)。
24.4.5 必須 農薬の
在庫管理
農薬の在庫台帳には、入庫ごと、出庫ごとの記録がつけられており、記録から実在庫が確認できる。
24.5.農薬のドリフト
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24.5.1 必須 ドリフト被害の
防止
(1)自分の圃場を含む周辺圃場で栽培されている作物を把握し、
そこからの農薬のドリフトの危険性について認識している。
灌漑用水を通じての農薬の流入などについての危険性も認識している。
(2)周辺の生産者とコミュニケーションをとる等によって、周辺地からのドリフト対策を行っている。
(2)コミュニケーションの内容としては、農薬散布や収穫時期の連絡、散布方法を話し合う等がある。
例えば、コミュニケーションで改善しないドリフトについて下記に取り組んでいる
・立札をする
・緩衝地帯を設ける
・防風ネットを設ける
24.5.2 必須 ドリフト加害の
防止
自分の隣接圃場を含む周辺地への農薬のドリフトを防ぐ対策を講じている。
地下水・河川等の水系へ農薬流出を防ぐ対策を講じている。
土壌くん蒸剤を使用する場合は、ラベルに従い被覆等をしている。
例えば、下記の方法がある。
・風の強さ・風向き等、天候や時間帯の注意
・散布の方向や位置の注意
・細かすぎる散布粒子のノズルの不使用
・適切な散布圧力
・飛散しにくい剤型(粒剤等)の農薬の使用
・近隣生産者とのコミュニケーション
・緩衝地帯を設ける
・きのこ類の原木栽培において、伏せ込み地(ほだ場)へ の除草剤散布は、ほだ木に飛散しない
24.6.残留農薬に関する検証
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24.6.1 必須 残留農薬検査の
サンプリング計画
(1)残留農薬検査の計画を文書化している。
(2)残留農薬検査の計画は農場内で使用した農薬及びドリフトの可能性がある農薬のうち、
残留の可能性が高いと思われる品目・農薬成分・収穫時期・場所からサンプルを選んでいる。
(3) 上記(2)で特に残留の可能性が高い成分を特定できない場合は、
多成分一斉分析を行い、リスク評価に役立てている。
(2) 残留の可能性がある農薬成分には、下記がある。
・周辺作物からのドリフトが懸念される成分
・同じ農薬散布機を使用して栽培している他の作物に散布した成分
・過去に使用した残留性の高い成分
・収穫から近い時期に散布した成分
・使用回数の多い成分
・作物に残留しやすいという知見のある成分団体の場合、
「 団体における残留農薬検査の農場のサンプリングに関するガイドライン」に従っている。
24.6.2 必須 残留農薬検査の
実施
(1)管理点24.6.1に従って、年1回以上残留農薬検査を行い、
農薬使用が適正であることを確認している。
基準値を超過した場合には、管理点9.1.1の手順に従い、記録を残している。
(2)残留農薬検査の結果を保管している。
残留農薬検査
(GGAP・JGAP推奨)
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