今夏は大丈夫ですか?(繁殖成績の課題) 2025年6月号

日本には四季(季節の移り変わり)が存在しますが、この頃はその四季が、冬季は暖冬や極寒、豪雪や雪が少ない、夏季は猛暑や冷夏、春季は寒暖差や初夏気候、秋季は寒暖差や残暑など、年々異常気象とも言える状況になっています。
気候変動だけが繁殖成績に影響する訳ではありませんが、皆さまの農場を苦しめている1つの原因にはなっていると思います。
さて、この頃は気温も高く、日中と夜間の寒暖差も厳しくなっていますが、今年も大方の予想で暑い夏が巡ってくると思います。暑い夏、厳しい夏は繁殖雌豚、種雄豚共に影響が大きくなり、繁殖成績の低迷にも直結します。
ただし、繁殖成績の課題と一概には言っても、起こりうる問題は農場ごと、季節ごとで様々なのだと思います。
 
繁殖成績の課題の一例

  • 母豚の食欲と食下量
  • 乳房回りのトラブル(乳房硬化、乳房炎、泌乳低下)
  • お産時のトラブル(陣痛不足、お産にかかる時間が長い、早産、死産)
  • 生時子豚のトラブル(産子数が少ない、体重が小さい、ばらつき、虚弱、奇形)
  • 母豚の損耗率の向上(突然死、子宮脱、直腸脱)
  • 哺乳子豚の損耗率の向上(虚弱、衰弱、圧死、下痢、淘汰)
  • 交配のトラブル1(受胎率、分娩率、空胎、悪露、流産、早産)
  • 交配のトラブル2(不受胎、未発情、発情再起日数)
  • 分娩成績のトラブル(初産目、2産目、3産目の若齢産、6産目以降の高産歴)
  • 等々・・・
     
    では繁殖成績に問題が生じたときにはどのように対処すればいいのでしょうか。
    今回は全ての対処方法を問題ごとに紹介する訳にはいかないので、実際には何をすべきか、何の情報を集めるべきかを中心にお伝えできればと思います。
     
    行うべきことは情報収集!繁殖成績低下の原因を探る調査とは。
    ① まずは、疾病関与、体調面、食欲面、発情面、衛生面、点ではなく線と面(1つの問題ではなく、複数の繁殖成績の低迷が同時に起きているかなど)の確認は初めに済ませましょう。
    ② 次に初産目受胎率(分娩率)、経産豚受胎率(分娩率)、再発豚受胎率(分娩率)を把握しましょう。
    ③ 次に初回交配(初産目の交配)のルールが厳守されているか、そもそもルール自体を作っているか確認しましょう。初回目交配のルールは繁殖成績全般に関与する始まりのルール、基本のルールです。ただし、使用している種豚ごと、飼料ごと、ピッグフローごとに変動はありますので注意してください。
    ④ 雄豚及び精液に関連性があるか調べましょう。精液(採精、購入、インキュベーター温度、希釈液、活力、精子数、奇形など)、採精雄豚及び当て用雄豚(数、配置場所、採精場所、採精回数、衛生面、体調面、睾丸の張り方、雄臭気など)
    ⑤ 当て雄については、雄臭、数、配置の確認だけでなく、雄当て自体の手技・手法も確認してください。ここは農場毎に違っていることがあるポイントの1つです。
    ⑥ AIの器具及び術式に関連性があるか調べましょう。使用しているのは深部注入カテーテル?通常カテーテル?カテーテル形状は?手技・手法は?漏れは?入りずらい?交配回数は?交配間隔は?タイミングは?担当者は?・・・。
    ⑦ 交配時期(月及び週ごと)に関連性があるか調べましょう。交配チャート(動態チャート)で週ごとの受胎状況はこまめに確認できます。
    ⑧ 産歴ごとに関連性があるか調べましょう。初産目、2産目、3産目、4産目、5産目、6産目、7産目、それ以降。
    ⑨ 発情再起日数ごとに関連性があるか調べましょう。3日目、4日目朝と夕、5日目朝と夕、6日目以降。
    ⑩ ボディコンごとに関連性があるか調べましょう。繁殖成績ではやはり過肥側は大きなデメリットがあります。
     
    しかし、過肥=デブでもない品種やステージも存在します。大きく良い体型、しっかりとしたボディは決して過肥ではありません。
    又、やや痩せは正義としても、痩せ過ぎは看過できないほど成績に悪影響を与えます。
    ボディコンについては飼養品種、使用飼料(栄養面、アミノ酸バランス、ミネラルバランス)ごとにしっかりと組み立てることも必要となります。
     
    昨年の夏季、秋季の交配成績の低迷を受け、今年すでに昨年を上回る対策で夏季を迎える農場も多くなっています。
    1つの例としては種雄豚の対策です。すでに皆さんも知っている情報かも知れませんが、雄豚用に使用するホルモン剤の1つが今年は手に入らない可能性があります。
    ホルモン剤に頼っていない農場では関係のない情報なのですが、頼っていた農場では今夏の対応の組み立ては変更する必要があります。
    雄豚舎の種雄豚が快適に生活し、快適に交配や採精が出来るようにしてあげるのも飼養者側の責務となります。
    さて、様々列挙しましたが、これ以外の部分にもその原因が隠れているかも知れません。好調だった成績は原因もなく下がることはありません。必ずその原因がどこかには存在しています。問題がないとき、安定しているとき、我々の心は安心に包まれ慢心します。
    繁殖成績が落ち込んだ時こそ、繁殖成績が好調だったときに行っていたことを思い出すことも必要な武器となり、重要な情報源となります。
    少しでも参考になれば幸いです。
     
    (株)食環境衛生研究所 菊池雄一
     

    youtube