目立った下痢症状が無くても要注意!!サルモネラ感染症 2025年9月号

人や作物にも大きな被害を成す暑さは、当然豚達にも大きな影響を与えています。
十分な飼料摂取量、十分な飲水摂取量がままならないばかりではなく、過度の湿気による飼料の変敗や腐敗、雨が足りないことによる飲水量不足や水質変化など、胃腸や腎臓、肝臓に与えるその影響は計り知れないものがあります。
 
近頃、サーコウイルスかも、PRRSかも、と言った相談ごとの中に、実は細菌疾病がメインで事故に繋がっている事例も目立ってきています。
ではそこに関与している細菌疾病は一体何なのでしょうか。
 
今回は数多ある細菌疾病の中でも、近年その発生数が多くなりつつある、サルモネラ感染症について少し考えて見たいと思います。
サルモネラは人で言えば食中毒菌であり、一年中に関与が見られる細菌疾病ですが、今年の猛暑のように、夏季時期の体力が無い時期に最も発生しやすい傾向があります。豚にとっても夏季時期の暑さと過度の湿気は、サルモネラにとって好適な環境となりますので、無視することは出来ない重要な疾病の1つになっています。
 
豚のサルモネラ感染症はサルモネラ・コレラスイス(S. Choleraesuis)、サルモネラ・チフィリリウム(S.Typhimurium)、非定型サルモネラ・チフィリリウムが起因することで発症する届出伝染病です。しかし、その症状は必ずしも激しい下痢が伴う訳ではありません。例えば、肥育舎で急激な死亡事故が発生した場合でも、肺炎症状等を疑う症状でも、激しい下痢症状が見られなくても、実はサルモネラが原因だった事例は増えています。最初にサルモネラを疑っていたら、早期の診断と判断が可能となり、大きな被害にはならずに解決した事例も少なくないと思いますが、得てしてサルモネラ以外の疾病を最初に疑う傾向が多く見られ、その発見と対処は遅れることがあります。
 
ここで少しサルモネラの症状にも触れたいと思います。豚がサルモネラに感染して引き起こされる症状は、主に腸炎や敗血症です。腸炎では、黄灰白色泥状の悪臭便や粘血便を数日~数週間にわたって排泄し、発育不良となります。敗血症では、発熱、食欲廃絶、呼吸速迫、立毛、元気消失、耳端や四肢、下腹部にチアノーゼが見られます。又、肺炎を併発することもあり、肺炎や敗血症は主に離乳子豚に発生します。
 
サルモネラ・チフィリリウム(S.Typhimurium )が関与した場合は、1~4日間ほど下痢や軟便などの腸炎症状が見られた後、敗血症に移行する場合があります。
しかし、サルモネラ・コレラスイス(S. Choleraesuis )が関与した場合は、常に下痢を伴うとは限りません。
サルモネラは起因する菌の血清型や、農場内の豚達の飼育条件、健康状態、複合感染の有無等によっても、その症状に違いが見られる傾向があります。特に肺炎や敗血症の症状は、主に離乳後の子豚で発症しやすい傾向にありますが、肥育舎でもその発生が見られるようになっています。
 
サルモネラは細菌疾病のため、薬剤に効果はありますが、1つ注意しなくてはいけないことがあります。それは薬剤耐性菌です。サルモネラはペニシリン、アモキシシリン、コリスチン、ニューキノロン系薬剤、ST合剤などが使用候補としてあげられますが、その薬効は薬剤耐性の有無で大きく変化します。又、サルモネラだけでなく、ウイルス性疾患、肺炎系疾患、下痢系疾患などを複合感染していた場合でも、その薬効が弱くなることもあります。
 
現状の対応で事故が続く・・発育が遅い・・ひね子豚が多い・・など、サルモネラの関与を少しでも疑う場合、獣医師や検査機関への相談と病性鑑定検査の実施をお薦めします。折角相場も高く、豚肉の需要も高くなっている時期に、ブレーキを掛けるのは勿体ないと思います。是非、アクセル全開で夏季、秋季の良好な肥育出荷を行ってください。
 
㈱食環境衛生研究所 菊池雄一
 
 

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