高繁殖能力母豚を上手く使いこなすために 2024年7月号
今、皆さんの農場の母豚達の調子はどうでしょうか。以前からこの様な相談はありましたが、ここ最近急に母豚の体調不良、呼吸器症状、早産、死産、下痢症状、子宮脱、直腸脱、死亡事故に関する相談が多くなっています。そもそも、体力的に見ても死亡などに見舞われる機会が少ない母豚達に一体何が起こっているのでしょうか。
母豚が体調を崩しやすいステージとしては、分娩舎が圧倒的に多いのではないでしょうか。
分娩舎では食欲不振や発熱、乳房炎、泌乳量の低下などがあり、交配舎や妊娠舎では、悪露、不受胎、流産、呼吸器症状、黄色から血便などの下痢症状などが散発する傾向にあります。
多産系と呼ばれて久しい昨今ですが、より効率的に、より上位の成績をたたき出す、今の母豚達には何らかの負担が掛かっているのかも知れません。
母豚の体調不良は以前としてあることは事実ですが、母豚の損耗事故についてはどうでしょうか。
ここ数年で農場における母豚の損耗事故は右肩上がりで増えている傾向にあると感じています。損耗事故の要因については、膀胱の重篤な炎症(急性膀胱炎)、腎臓の広範な障害(腎盂腎炎)、化膿性子宮炎、心疾患(特に心膜炎)、脾臓肥大、腹膜炎、胃潰瘍(出血性)、腸管出血、化膿性多発性関節炎、子宮脱、直腸脱、腸捻転、重篤な病変がないもの・・が原因として言われています。それぞれの記述順で関与割合が大きく、記述が下の方の要因は低くなりますが、重篤な病変がないもの(いわゆる原因不明の死亡)は10%弱を占めているのも事実です。ここ最近の傾向では、多産系品種の好調な繁殖成績(総産子数など)に呼応するように、子宮脱、脱肛、体調不良、呼吸器症状、消化器系症状、胃潰瘍症状、死亡事故が多発しているように感じます。損耗事故については(計画的な廃用を除いては)、年間で数%程度の農場も多いと思いますが、悩んでいる農場では有に5%以上、10%~15%近くにまで達する損耗事故に見舞われる農場も出てきています。
弊社は検査機関でもあるので、様々な検査を実施していますが、母豚の死亡事故で診断を依頼される機会はそう多くはありません。
しかし、母豚群の不明瞭な死亡、咳症状や下痢症状など、明らかに異常を示して死亡に至った例ではその限りではありません。最近確認されることが多いのは、マイコプラズマ・ハイオニューモニエ、マイコプラズマ・ハイオライニス、パスツレラA型、グレーサー、連鎖球菌、サーコウイルス2型、PRRS、豚赤痢、ローソニア・イントラセルラリス、クロストリジウム・・・となりますが、これらが直接的に死亡に至らしめる原因となっているのかは不明瞭な部分も多いのも事実です。もし、これらウイルスやバクテリアが直接関与して損耗事故になることがあるのであれば、そこには以前とは明らかに異なる内臓器官の弱さ、免疫力、体力の低迷、遺伝的要因、栄養バランス、カビなどが関与している可能性は否定できないかも知れません。
行動すべきこととは
① まずは1つずつ確認し、関与しているもの、関与していないものを区別する。(関与していると仮定した項目を1つずつ否定していく)
② 損耗事故の細かい詳細情報を収集し、共有する。
③ 自社で飼養している種豚メーカーとの、細かい情報共有を行う。
④ カビ、カビ毒、飼養環境などの関与は、先に否定する確認や検査を行う。
⑤ 死亡母豚の検査が行える場合は実施する。解剖後の諸臓器を用いた病理検査や病性鑑定検査も実施。
⑥ 生化学検査による血液中のリン、カルシウムの診断も1つの視点として有効。
⑦ ③に付随するものですが、使用されている飼料の分析も1つの視点として有効。アミノ酸バランス、リンとカルシウムのバランスなど、自社の多産系母豚の生産成績に見合った内容で在るか否かの診断も必要。
㈱食環境衛生研究所 菊池雄一
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