豚赤痢 2022年11月号

はじめに

ここ何年も、豚赤痢という名前を聞くことはほぼなく、昔の病気だと思っていました。しかし近年、全国的に豚赤痢について耳にする機会だけでなく、実際に遭遇することも増えているので、今回は豚赤痢のお話をしようと思います。
 

豚赤痢とは

近年、弊社の病性鑑定でも本菌の検出が増加しており、相談も多くなりました。豚赤痢単独だったり、溶血性大腸菌やローソニアなどの腸管疾病との複合で検出されたりとさまざまです。
年間を通じて品種や性別に関係なく発生しますが、肥育豚の発生が主になります。一旦、発生があると常在化しやすく、しぶとい疾病です。
このため、汚染農場では発育遅延や飼料効率の低下による経済的損失が恒常化します。
本病は、発症豚や保菌豚のふん便中に大量に排泄されるため、一度、汚染されると環境汚染を起こします。
感染経路は経口感染です。
感受性が高いのは、体重15~70㎏の豚と言われますが、出荷直前の豚の発生もよく聞かれます。発生豚群における流行の広がりは緩やかで、数日以内に一斉に発病することはほとんどありません。しかし、農場で流行が始まると、2~4カ月間ほどの長期間継続され、発病率は80%以上に達すると言われます。
 

症状

悪臭のある粘血下痢便を主徴とします。軟便から下痢に進行して、粘液が混ざった血便が見られるようになり、腸管上皮細胞の脱落部分が混入します
元気消失、食欲減退、削痩、脱水を起こします。肉眼的病変は、大腸である盲腸、結腸、直腸に限局して見られます。
 

対策事例

【対策1】
肥育農場で、160日齢豚群が1週間前から下痢がぽつぽつ見られ、血便が散見されると相談がありました。病性鑑定を実施したところ、豚赤痢、ローソニア、クロストリジウム・パーフリンゲンスが検出されました。その後、一貫農場の肥育舎でも170日齢で血便が見られ、削痩豚が散見されました。また、屠場データで大腸炎が増えていました。一貫農場についても、肥育農場と同様の結果でした。
対応として、リンコマイシンの飼料添加と、飼料添加が不可能になった日齢ではリンコマイシンの注射を実施しました。併せて、農場や豚舎内に広げないために発生豚舎の長靴交換、下痢・血便の豚房や通路の消石灰散布、アウト後の逆性石鹸による消毒後に消石灰の塗布の継続、敷料の再利用はしないことを提案しました。
今回、肥育農場ではネズミが増えたという稟告もあり、駆除を徹底してもらいました。本菌の感染源として、舎内汚染、同居豚の他に地下水、カラス、ネズミ、ハエなどが挙げられます。
豚熱により、今まで以上に飼養衛生管理基準の遵守が求められるようになり、飲水消毒を行なうようになった養豚農場は大分、増えていると思います。ネズミやハエの駆除は、豚舎に入れない、まずは短い期間で駆除を行ない、徐々に期間を開けていくことで効果が現れます。こまめな駆除の継続により増やさないことです。
この養豚場は、これらの対策により血便は減少しています。実際、この農場は戻し堆肥を使用しており、その堆肥が60℃前後しか発酵していませんでした。せっかく効果がある消毒を行なっても、本菌を再度、豚舎内に入れることが疾病を広げる要因になります。しっかり70℃以上の発酵ができるように、ブロアの設置などにより発酵を促してください。
本病などの腸管疾病は、年間関係なく発生があると言われますが、発酵床豚舎では、発酵が進みにくい冬の季節は、特に温床にならないような床管理が必要になります。
週間前から下痢がぽつぽつ見られ、血便が散見されると相談がありました。病性鑑定を実施したところ、豚赤痢、ローソニア、クロストリジウム・パーフリンゲンスが検出されます。
また、今回の事例は、飼料添加による投薬を行ないました。
しかし、本病は大腸粘膜の剥離が起こるため、水分の吸収不全により発症豚が頻回飲水するため、飲水投薬が効果的だとも言われています。豚赤痢を初めとするスピロヘーター疾病や豚増殖性腸炎は、投薬を中止してストレスがかかると発症を繰り返し、なかなか根絶することが難しい厄介な疾病です。そのため、出荷直前や出荷中に苦労している農場が多いように思います。そういった場合の、対応事例の一つを次に紹介します。
【対策2】
肥育豚舎移動で豚赤痢を疑う血便や軟便が見られた農場で、リンコマイシン、タイロシン、コリスチンなどの投薬の効果がなく、ペプチド亜鉛を子豚期から給与することで発症が減少しました。
この農場は、ヒネ豚率の減少、増体の改善により肉豚飼料要求率が改善しました。
ペプチド亜鉛は、腸粘膜上皮細胞間の結合を強化することで炎症の発生を抑えます。
さらに、免疫システムを強化します。この二つの作用で腸の健全性を向上させます。
特に、ペプチド亜鉛は酸化亜鉛より吸収が良く、抗生物質と違って休薬期間がないことが特徴です。
【対策3】
豚赤痢とは違いますが、同じスピロヘーターによる疾病をご紹介しておきます。
肥育舎移動後に、黒色の軟便・下痢が散見されました。検査を実施したところ、結腸スピロヘーター症でした。
これは、豚赤痢(Brachyspira hyodysenteriae) の仲間であるBrachyspira pilosicoli によるものです。
離乳後などストレスがかかったときに発症する傾向にあります。
お尻に一筋の黒い線が散見されるようになったら、類症鑑別を行なってください。死亡に至ることは少ないですが、軟便・下痢が続くため発育が遅延します。本菌は、チアムリンに感受性があります。この他にも、類症疾病として、サルモネラ症、豚クロストリジウム・パーフリンゲンス感染症、豚増殖性腸炎、胃潰瘍などがあります。サルモネラ症の対策を行なっても豚赤痢には効果はありません。検査により、敵を見定めて戦いましょう。想像では、敵を倒すことができません。
 

おわりに

冬場になると、APPなどの呼吸器疾病を気にかけることが多くなりますが、腹冷え、すき間風などの寒い環境により、あらゆる病原体の媒介となるネズミが畜舎へ逃げ込む機会が増加します。発酵床の発酵低下などの呼吸器疾病だけでなく、消化器疾病に対するリスクも増えるので、再確認してみてはどうでしょうか。
また、人や豚など哺乳類の免疫システムは、およそ70%が腸管免疫と言われます。
消化器疾病のコントロールは、「腸管免疫の安定」に直結します。腸管免疫の安定化が肺炎などの疾病予防にも繋がると言っても過言ではありません。「軟便や下痢は多少あるよ」ではなく、「軟便・下痢ゼロ」目指して、健康な豚づくりに取り組んでみませんか。
 
 
養豚の友11月号記事を一部再編しました。
 
 

youtube