レプトスピラ症 2022年7月号

 6月初めには、関東で激しく雹ひょうが降ったというニュースが流れました。
積雪しているように積もった雹の映像が流れていました。
これからの時期は豪雨などの災害のニュースが増え、年々、異常気象による被害も大きくなっています。
豪雨や台風の季節だからこそ、気を付けていただきたい疾病の一つであるレプトスピラ症についてお話しさせていただこうと思います。
 

レプトスピラとは

レプトスピラは、らせん状で先端がカギ型の細菌です。
本菌は多くの血清型があり、「家畜伝染病予防法」によりpamona、Canicola、Icterohaemorrhagiae、G r i p p o y y p h o s a 、H a r d j o 、Autumnalis、Australis の7血清型が「届出伝染病」に指定されています。
本菌は、母豚の異常産による経済的な損失だけでなく、人畜共通伝染症として公衆衛生面でも重要な疾病です。
野生動物、特にネズミは保菌動物と言われています。
尿中に排泄されたレプトスピラが、地表や湿った土壌、飼料で増殖し、皮膚、粘膜などから動物や人に感染します。
酸性条件下や熱、乾燥には弱い反面、中性あるいは弱アルカリ性の淡水中や湿った土壌中では長期間生存可能です。豚の排泄期間は、数カ月から1年以上と言われています。
 

症状

本症は、不顕性感染で終わることが多く、臨床所見に乏しいため発生状況を把握するのが困難だと言われています。
発熱、黄疸、血尿が養豚で問題になったという話はあまり聞いたことがありません。
どちらかというと、牛や犬で血尿や黄疸が聞かれます。
養豚では皆さんもご存じの通り、異常産として流産、死産、虚弱子豚の娩出が認められます。妊娠90日齢前後での流産が多いこと、虚弱子豚が増えるといった点でも、PRRSとの類症鑑別が必要になります。
特に、初産豚での異常産が特徴的だと感じています。
また、異常産発症後に再発情が増加したり、産子数の低下が見られることもあります。
私が訪問している農場でも、再発の増加により苦労された農場もあります。
 

対策事例

一時的にワクチンも販売されていましたが、
現在は日本にはワクチンはありません。しかし、消毒薬に感受性があり、抗生剤に効果があるので早急の対策は可能です。
【事例1】 
夏から死流産が頻発に見られるようになり、10月に落ち着く気配がないため病性鑑定を実施しました。異常産発生豚の産歴や死流産胎児の胎齢はばらつきがありましたが、妊娠後期に多い傾向でした。また、母豚に特別な臨床症状は見られませんでした。写真1のように分娩予定10日前に早産し、ミイラ胎児、黒子、白子、虚弱とさまざまなステージの胎児が娩出されました。
PCR検査では、白子の臓器から本菌特異遺伝子を検出し、母豚は、抗体が非常に高い結果でした。
対策として、メイリッチ2PSの飼料添加、畜舎の逆性石けん、消石灰による消毒、ホッパーの掃除などの徹底、月1回の業者によるネズミ対策の徹底を行いました。
この事例が発生した時期に、当該農場を含めた近隣の農場で、揃ってネズミが増えたと報告がありました。
【事例2】
山間部にある農場で、7月に初産の早産、黒子の増加が発生しました。
胎児の臓器から本菌特異遺伝子を検出しました。メイリッチ2PSの一斉投与や妊娠後期、特に分娩前1カ月~分娩直前での発生が多かったため、分娩1カ月前に初産のみストレプトマイシンの注射を接種しました。
また、オキシリンクを用いた畜舎や飲水消毒を行いました。
湧き水を未消毒のまま飲水に使用していたため、飲水消毒の徹底を行いました。
この農場は、初産の再発が続き、高産歴の淘汰ができずに、産歴構成がかなり崩れてしまいました。
さらに、豚熱の影響で候補豚の導入が思うようにできず、農場成績がかなり低下してしまいました。
事例1、2ともに、死流産が増える数週間前に大雨が続き、降水量が多くなっていました。大雨が続くと、野ネズミなどの野生動物が豚舎へ逃
げてきます。また、土砂崩れで水源が変わってしまうため、注意が必要です。
 

対策①―ネズミ対策―

野生動物、特に、ネズミを豚舎へ入れない工夫が大事です。100%入ってこない豚舎が一番ですが、すき間を探して入ってきます。豚舎へ入ったネズミを、如何に駆除するかが重要になります。
まず、ネズミがいる場所に毎日、殺鼠剤を追加投与します。
食べなくなったら、食べる場所を探してください。
これでも食べる量が減ったら、週3回投与し、その次は週1回と投与間隔を減らしていきます。
このとき、逃げ場所を作らないように全豚舎で行うことがポイントになります。
また、給餌器の中にネズミのふんがある農場を良く見かけます。
母豚の給餌器は大丈夫でも、候補豚はどうでしょうか。蓋が付いていないとネズミが入ります。段ボールなどで蓋を設置することをお勧めします。
 

対策②―水質検査と消毒―

台風や豪雨の後は、井戸水も含め、水質が変わる可能性があります。
水質が変化すれば、飲水量の減少、病原体が侵入すれば本菌などの疾病の発生要因になります。
年4回以上の水質検査をお勧めします。弊社でも水質検査を実施していますが、出た検査結果の数値は、採取時前後の天候や井戸の状況にも左右されやすいことが分かっています。
飼養衛生管理基準の飲水の使用条件として、井戸水でも水質検査により許容値以上であれば、消毒を行うこととされています。
また、沢水や溜め池の水は、野生動物が触れて病原体が入るリスクがある水を給与する場合には、消毒するように示されています。
日頃から消毒を行うことが一番ですが、井戸水だから大丈夫ではなく、こういう惨事のときに、すぐに飲水消毒ができる体制を整えておくことも必要だと思います。
 

対策③―抗生剤による予防―

本症は、日本のどこで発生してもおかしくありません。抗生剤に効果があるため、発生時や予防に使用することをお勧めします。
特に、ストレプトマイシンやドキシサイクリンなどのテトラサイクリン系抗生剤は高い感受性があります。事例2で分娩前の注射に使用したストレプトマ
イシンは保菌自体を除去します。
このストレプトマイシン単独の飼料添加剤がないため、メイリッチ2PSやドキシサイクリンなどのテトラサイクリン性抗生剤を母豚へ一斉投与します。
ある農場では、今まで通りの飼養管理の中で初産の再発情が増え、導入時検査で本菌の低い抗体価を確認しました。
再発情が本菌によるものだったかは特定できませんが、導入後にメイリッチ2PSによる投薬を実施し、再発情が改善されました。
 

対策④―消毒の徹底―

サーコウイルスやパルボウイルスと違い、どんな消毒薬も本菌には効果があります。
空豚房の消毒では、「水洗乾燥消毒↓乾燥」は守ってほしい手順です。
多産系になり子数が多くなることで豚房が不足し、豚舎をアウトしてからする受入れまでの期間が短縮され、乾燥が疎かになっている農場が見受けられます。先日、ある農場で消毒後のふき取り検査の結果を聞くと、その農場で問題になっているレンサ球菌が給水器の溜まっていた水から検出されていました。
乾燥していた壁などからは検出されていません。
乾燥の重要性を改めて感じた事例でした。
また、空間消毒は、豚舎内の埃や浮遊している病原体を殺菌することで、舎内の病原体の量を低下させます。
空間消毒実施豚舎と空間消毒未実施豚舎で、PRRSの発生に違いがあった事例もあります。
PRRS侵入を機に、消毒を強化した農家さんから、「消毒をしっかり行うようになって、以前より抗生剤の使用が減った。
消毒が一番!」という話を何度も聞かされたことがあります。
その農場は、今では私が知っている農場の中でも上位を示す成績です。
この原稿を読まれている皆さんにも、ぜひマニュアル通りの消毒を行えば、抗生剤の使用が減り、衛生費も病気も減ることを実感していただきたいと思います。
以上になりますが、本症の対策も他の疾病と同じです。しかし、サーコウイルスやパルボウイルスのように消毒薬の選択に悩むことはありません。本症に限らず、異常産による繁殖成績や産子数の低下は、農場の経営に大きな影響を与えます。近年、餌高で苦労されていると思いますが、本病の発生により、初めの粒がいなくては、成績はそのままかそれ以下の成績しかならないため、生産性は低下し経済的に大きな損失を被ることになります。ネズミ対策や消毒など予防としてやれることは、日頃から行い、被害を少なくしていただくことが何よりだと考えています。
 

おわりに

本症が、特に豪雨や台風が増える、これからの季節に要注意だと理解していただけたでしょうか。私が経験した本症多発時において、各農場の
方が「農場にネズミが増えた」と言っていました。ネズミは本菌だけでなく、サルモネラやローソニアなど、いろいろな疾病の媒介者になります。
飼養衛生管理基準でも「ネズミや害虫の駆除」が求められているので、あきらめずに対策を行ってください。
また、私がいる地域は山間部に養豚農場が多く、本症が発生したときに猟犬での発症事例が多く報告されていました。
今でも、犬の発症を聞いたときは、養豚農場への情報提供はうるさいくらいに行っています。
家畜保健衛生所の先生方も、動物病院から犬の本症発生の届け出があれば、養豚農家への情報提供をしてみてはどうでしょうか。
 
 
養豚の友7 月号記事を一部再編しました。

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