「10年後にあるべき養豚産業の姿」完成版 2023年3月号

時代がどう変わっても、決して変わらないものがあると思います。それを私は衣・食・住の3つだと考えています。養豚業はこの中の“食”を支えるとても貴重な産業となっています。農場の皆さんは豚肉と言う貴重なタンパク源を健康的に生産し、それを美味しく提供する重要な責任を担っているのです。

 

私の好きな言葉に“いただきます”、“ごちそうさまでした”があります。色々な考え方はあるとは思いますが、私はこの“いただきます”は“貴重な命をいただきます”、“ごちそうさまでした”は、“大切に育ててくれた生産者へのありがとう”、“豚肉をきれいに加工して、購入しやすくしてくれた屠場関係者、流通業者、販売業社へのありがとう”、“食事を作ってくれた人たちへのありがとう”だと思っています。

 

養豚産業が抱える課題の1つに人材不足がありますが、ほとんど辞めることが少ない農場も存在しています。しかし、人が辞めにくい農場であっても、欠点がなく絶対に辞めないことはありません。人を雇うこと、長く勤めて貰うことはとても難しいことだと思います。だからこそ、社長と幹部社員、従業員とのコミュニケーション、信頼関係が重要となります。頑張った従業員に“ありがとう”の感謝を伝えられていますか?経営方針や取るべき目標と課題を従業員が理解していますか?経営陣は幹部社員や従業員を信頼していますか?頑張った社員の待遇を“見える化”していますか?

 

課題の2つ目はコスト高です。飼料費、光熱費、建築資材費、衛生費など、様々なものが値上がりしています。この高騰によって経営コストの大幅増と収益の減少が起こっています。しかし、そんな中でも黒字経営、少しでも収益を上げている農場もあります。コスト高は皆共通のことですが、このコスト高の時代だからこそ、取りこぼしが多い部門の回収を目指す必要もあると感じます。従業員を含めた損益分岐点の把握と重要となる目標数値の把握、弱点(疾病、他)の把握、役に立つ薬剤とワクチンの選択、健康で体力のあるへこたれない種豚の選択と育成などは重要と思います。

 

3つ目の課題は売上です。今年の1月から枝肉取引規格の重量範囲の引き上げで「上」規格の上限が83㎏になりました。出荷豚の枝肉重量がアップすることで生産コストの削減や、と畜経費の削減に繋がる期待が込められています。歩留まりも体重が大きくなるにつれ良くなる傾向がある点も恩恵の1つに挙げられます。枝肉重量が80㎏以上の豚肉は、総じて食味も増すことが知られています。ここの点はバイヤー、量販店も着目している点と思います。今回の改正で得られる恩恵を最大とし、最終の売りで損をしないようにするためにも、取引先屠畜場別の出荷体重目標の設定、自社の売り条件と枝肉流通及び小売販売のニーズ把握、肥育舎のキャパなどは再確認するようにしましょう。

 

㈱食環境衛生研究所 菊池雄一

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