母豚の体調不良を伴った異常産 2023年3月号

はじめに

昨年の秋ぐらいから、全国的に異常産の相談や検査依頼が増えています。その多くは、母豚の発熱や食欲低下や、これらを伴った異常産の相談です。昨年の5月号でも日本脳炎やパルボウイルスをメインとした異常産について投稿させていただきましたが、今回は母豚の体調不良を伴った異常産についてお話ししたいと思います。
 

母豚の体調不良を伴う異常産

前述したように発熱や食欲低下、それを伴った異常産と言うと、皆さんはどのような疾病を思い浮かべるでしょう。PRRSを経験したことがある農場では、まずそれを思い浮かべることが多いのではないでしょうか。その他にも、後述する疾病などがあり、類症鑑別が必要となります。
1、PRRS
豚繁殖・呼吸障害症候群(PRRS)は、妊娠豚の死流産や虚弱子豚の分娩などの繁殖障害や子豚・肉豚、特に子豚に呼吸器障害を起こします。母豚では、発熱や食欲低下を示します。妊娠100日齢前後の早産、虚弱や股開き子豚の増加が目立ちます。しかし、必ずしも妊娠後期だけの異常産のみではありません。また、産歴に関係なく発症します。最近、陽性農場で母豚へワクチン接種を行っているにも関わらず、発症する農場が認められます。新しい株の侵入や農場内のウイルスが変異している可能性があります。
2、レプトスピラ
発熱や食欲低下が起きる場合とそうでない場合がありますが、PRRS同様に妊娠後期の早産、虚弱子豚の増加が目立ち、その後、再発などが増加して種付成績の低下が認められます。昔は、初産の発症が多いと言われていましたが、昨秋、台風後に発生があった農場では経産での発生が多くありました。農場の本菌の浸潤状況によって、対象となる産歴も変わってきます。昨年の7月号にも投稿していますが、ストレプトマイシンやテトラサイクリン系に感受性があります。
3、豚インフルエンザ、豚丹毒やグレーサーなどの細菌感染
これらの病原体に感染すると、母豚は高熱や食欲低下による体力の低下だけではなく、炎症反応によりプロスタグランジン様(黄体退行ホルモン類似)物質を産生することで、妊娠維持ができなくなり流産・早産を起こします。母豚の体調不良から異常産を起こすため、胎児からの遺伝子(PCR)検査による病原体遺伝子の検出は認められません。
4、腹冷え、温度差などのストレス要因
水こぼれやふん尿による腹冷えや温度差などのストレスは、母豚の発熱や食欲低下などの体調不良を起こし、血流の悪化を招きます。血流が悪化すると、胎児に十分な栄養が行き渡らなくなる恐れがあり、流産や早産に繋がります。また、腹冷えにより下腹部に力が入りやすくなり、子宮が収縮するリスクも考えられます。
5、その他
異常産を起こす疾病は他にも、日本脳炎、パルボウイルス、ゲタウイルス、サーコウイルスなどがあります。診断を確定するためには、死亡胎児、虚弱子豚などの遺伝子(PCR)検査に併せて、豚丹毒や豚インフルエンザで説明したように、胎児から病原体が検出されない場合があるため、異常産母豚のペア血清で確認することをお勧めします。異常産を起こした時点(プレ血清)は、まだ抗体が上がってないことが多く、発症から3~4週間後(ポスト血清)に抗体が上がっているか確認します。
 

対策事例

一貫農場で、12月に入って流産が増加したとの相談を受けました。特に、分娩母豚で発熱、食欲低下が増え、これによる母豚の死亡や早産による死産子豚の増加や虚弱子豚がありました。食欲低下と発熱を伴う妊娠70日の母豚の流産胎児のPCR検査と当該母豚と分娩舎にいた食欲低下や死産子豚が多かった母豚の血液検査を実施しました。検査結果が出るまでの対応として、流産が増加してから時間が経っていたため、母豚への解熱剤一斉投与は効果的ではないと判断し、炎症を抑える働きがあるマクロファージを活性化し、増殖を促進する作用がある抗生剤の投与やレプトスピラや2次感染予防も含めドキシサイクリンの投薬を提案しました。
検査結果では、胎児から異常産関連の特異遺伝子は検出されず、母豚の血液からPRRSウイルスの特異遺伝子が検出されました。ELISAの数値は、ポイントだけの判断は指標にならないと言われますが、1カ月前に定期採血した母豚群は2以下の数値でしたが、今回の母豚は2以上の数値となっており、高い感染を受けたことが推察されました。異常産が増加してから時間が経過したため沈静してきたのか、炎症を抑える抗生剤の効果があったのかは不明ですが、現在流産は沈静しています。さらに、母豚のPRRSワクチンの接種回数を一時的に増やしました。
今後は、哺乳子豚への垂直感染がないか確認を行う予定です。その他の疾病としては、豚インフルエンザによる発熱、流産の発生時は、解熱剤アレンジャーの経口投与や浣腸投与、炎症を抑える抗生剤の投与を行ないます。豚丹毒であれば、解熱対応として豚インフルエンザの対応とともに、ペニシリン系抗生剤の飼料添加やペニシリン系やフルオロキノロン系抗生剤の注射を追加します。
 

まとめ

事例農場のようなPRRS陽性農場で、ここ数年、繁殖豚でのPRRSを疑う症状は確認されていなかった農場の発生や初発が認められます。
PRRSを入れない、また変異しやすい環境を作らないためには、農場に存在する株を増やさないことも重要です。
①人や物品の出入りは必要最低限にすること、②母豚は1頭1針、哺乳豚は1腹1針、子豚、肉豚は1豚房1針、③今回紹介した病原体は、サーコウイルスやパルボウイルスのように消薬の選択が難しいわけではなく、一般的な消毒薬に効果があります。
洗浄・消毒と乾燥により農場内のウイルス量を減らすことが重要になります。また、流産が増えた場合、PRRSについては垂直感染により子豚への影響が出るため、子豚への垂直感染の確認を含め、早急な対策が必要になります。このように、妊娠豚の発熱、食滞や異常産は、臨床症状だけで診断することで、不的確な対策を行って費用がかかってしまったということがないよう、類症鑑別を行なって適切な治療や対策が必要になります。子豚が生まれなければ、出荷頭数を増やすことはできないので、繁殖・分娩部門での問題点の確認を行ってみてください。
 
 
養豚の友3月号記事を一部再編しました。
 
 

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