コスト高に負けないように基本の管理を見直しましょう。 2023年9月号

暦は9月に入りましたが、夏季の猛暑の影響はいまだ健在のようで各地で猛威を振るっています。筆者の住んでいる群馬県も恐ろしいことになっています。今年の猛暑は、その規模が全国的であること、比較的涼しいはずの東北や北海道も影響が及んでいることが特徴として挙げられると思います。
養豚経営の足を引っ張る要因は暑さだけではありません。ここ数年は光熱費、飼料費、建材費、人件費、資材・薬品代など、ありとあらゆるものが高騰しています。この物価高の状況でも畜舎の増設や新設を進めている生産者もおられると思いますが、そこに掛かるコストは1母豚当たり300万円以内では収まらず、高いところでは400万円以上も掛かった農場もあると耳にします。
飼料原料の状況も決して楽観視は出来ません。原料の1つであるとうもろこしについては、産地変更の頻度も高く、その品質にも影響が及んでいる可能性があり、農場ごとの対策として、カビ毒吸着製剤やサプリメント製剤を追加添加する生産者も多くなっています。
CSFワクチンを接種している農場では、ワクチン代金や接種に掛かる人件費、疾病が落ち着いていない農場では、PRRS、サーコウイルス、マイコプラズマ、連鎖球菌、App、すす病、浮腫病など、疾病群の影響による衛生費も増加し続けています。
これらの状況を打開するためには、繁殖管理と繁殖成績の見直し(種豚選択、更新管理、交配管理、交配頭数と分娩腹数確保)、飼料管理の見直し(飼料ローテーション、飼料成分、粒度、給餌器)、衛生費の見直し(余計な治療頭数や活かされていないワクチン選択)など、やらなくてはいけない重要なことが多く存在しています。
 
①如何に多く生ませて多く育てるか。(正常開始頭数と離乳頭数の確保)
②如何に少ない餌で如何に大きくできるか。(要求率改善)
③如何に手間を掛けないで多く出荷できるか。(衛生費と人件費の改善)
の3つは重要なワードとなります。
 
農場で使用している消毒薬、ワクチン類、薬剤類などは、農場ごとの管理プログラムの下で実行され、その費用対効果も常に確認されているとは思いますが、実際はここが曖昧になっている農場は多く存在しています。新人社員や外国人研修生など経験が浅い人員も増えて些細なミス、些細なミスからの大事故に繋がっている農場も耳にします。現在の管理プログラムについて、ここを機会に見直し(再確認と検証)も行って見てはいかがでしょうか。自農場の現状に見合った消毒プログラム、ワクチンプログラム、薬剤プログラム(飼料添加、飲水、注射)、ホルモンプログラムは必ず存在します。意外な勘違い、無駄なこと(不必要なもの)も見つかるかも知れません。しかし、注意が必要な部分もあります。目的や検証をせずにワクチンを中止したり、消毒回数を減らしたり、薬剤添加量を規定量以下に減らしたりすることは逆効果となります。あくまでも農場ごとで費用対効果を出せるプログラムを構築して管理、実行していくことが必要になり、これによって、無駄になっていた衛生費、人件費の改善や、豚だけでなく人に掛かる負担やストレスも緩和できると思います。
 
もし、農場で管理プログラムの見直しを行う場合は、①正確な問題点、課題点の把握②こうなって欲しいと願う未来のビジョンを明確にする③使用されているワクチン、薬剤、消毒薬、資材別の目的を再確認する④管理獣医師や検査機関への相談などは必ず行ってください。コスト削減は必須ですが、そこだけフューチャーされると上手くいかない可能性もあります。
最後に「ワクチンと消毒は1日にしてならず」と語った生産者がいました。ワクチンや消毒だけではありませんが、ここの選択と判断は、農場の未来を左右することにも繋がります。
 
㈱食環境衛生研究所 菊池雄一

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