疾病対策の基本は寄生虫対策から 2022年3月号

今号よりはじまるこの連載では、その時季に気を付けるべき疾病について掘り下げ、疾病の基本的な解説、どのような影響を及ぼすのか、また対策について分かりやすく解説していきます。
生産成績を維持、向上させるために欠かせない疾病対策を疎かにすることなく、豚の能力を最大限に引き出すためにどのようなアプローチをしていけばいいのか、皆さまに伝わるよう執筆していきます。
よろしくお願いいたします。
 

はじめに

寄生虫対策と聞くと、「敷床豚舎がないから関係ない」と思われがちですが、敷床豚舎がない農場でも寄生虫の被害は多く残っていると実感します。
2008年のデータですが、駆虫が浸透していても4戸に1戸の農場で回虫が検出されています。
ほかにも繁殖豚の疥かいせん癬は今でもよく目にします。
回虫や疥癬症状は目に見えますが、その悪影響は免疫力低下や養分吸収と意外と分かりにくいところにあります。先の見えな
い飼料高が続いていて、かつ母豚の能力が上がっている現状で、無駄に寄生虫を養っている余裕はないはずです。
今回は寄生虫から見直す農場免疫として、「豚回虫、豚鞭虫、疥癬、豚シラミ」についてご紹介していこうと思います。
 

消化管内線虫症

1、豚回虫症
ミルクスポット(肝白斑症、写真1)で有名な回虫は、幼虫の体内移行期に肝臓、肺、咽頭、小腸と身体中を巡ることで、組織障害を引き起こすため、肺炎症状なども見られます。
さらに、小腸で成虫が養分を吸い取ることで起きる発育阻害が見られます。
未だに回虫を蓄えている母豚を目にしますが、駆虫後排出されることが〝薬の効果〟と誤認されることがよくあります。駆逐できていれば駆虫回数を追うごとに次第に排出されてなくなります。排出されているうちは汚染されていると認識してください。
卵は30℃の環境で発育が活発になり、2~3週間で2期幼虫に発育します。
また、70℃で1分間の加熱で死滅します。母豚での発生原因として、ストール舎の洗浄・消毒が困難なことで再感染していることが考えられます。
 
2、鞭
べんちゅう虫症盲腸や結腸で重篤化するため、鮮血便や粘膜の脱落などが見られます。
鞭虫を発症すると、ひどい削痩、ふらつき、事故率上昇と大損害に繋がります。
バランチジウムや豚赤痢も血便が見られるため、類症鑑別が必要です。
鞭虫卵は55℃以上の高温環境下では数時間以内に死滅します。
地中などの紫外線や雨風の影響を受けない条件下では、2~11年間、残存することが報告されています。
夏場にピッカーの追加設置をしたところ、こぼし水によって床をほじくり返され、農場で鞭虫が発症した事例がありました。
床は80㎝程度の厚みを持っていましたが、夏場の暑さからヌタうちしたり、こぼし水が増えたことで探求行動により〝触れてはいけない場所〟に触れてしまったことが原因でした。
この農場では過去に鞭虫を発症しており、畜舎から如何に排除していくかが課題となりました。
 

外部寄生虫

1、疥癬
疥癬はヒゼンダニが豚の皮膚に穴を掘って生息することで、強いかゆみを感じ、身体をこすりつける動作が見られます。
皮膚はざらざらとして、乾燥しフケが増加します。
母豚が疥癬に感染していると、分娩舎で哺乳豚に垂直感染し、皮膚の細かい傷から、すす病に発展することもあります。
母豚の疥癬症状は皮膚の黒ずみや、かさつきで分かりやすいですが、駆虫を実施しても治らないという相談も多いです。
その場合は駆虫方法の見直しも必要ですが、根本的に栄養不足による肌荒れの場合もあります。
特に多いのは、亜鉛や鉄分などのミネラル不足と、ビタミン(パントテン酸カルシウム)不足です。すす病(写真5)が多い農場でも同様ですが、駆虫とともに栄養管理を見直してみては如何でしょうか。
 
2、豚シラミ症
かゆがりが頻発します。
豚とんとう痘を媒介することがあるため、対策が必要です。豚痘も発疹部が傷ついて、すす病に発展することがあります。
豚痘の重度汚染農場では胎児時期や哺乳期での発疹、元気消失、死亡に繋がることもあります。
 

寄生虫による被害

外部寄生虫による強いかゆみは激しいストレスに繋がり、かゆがり行動によってできた傷からの雑菌感染が若齢豚ではすす病に発展して、被害が甚大になることもあります。
また、内部寄生虫は虫体から出る毒や酵素などの化学物質による悪影響はもちろんですが、豚の身体の中に侵入し移行していくことで、組織や細
胞の破壊といった刺激により腸管自体にダメージを与え、潰瘍を形成したり、養分を吸収して発育停滞を引き起こします。
腸管は身体の中で最も大きな免疫機構のため物理的ダメージは免疫力低下に繋がります。
ボディコンディションを保つのが一苦労な多産系母豚での養分吸収阻害は、繁殖障害に繋がることもあります。
また、寄生虫や毒に対して抗原反応を続けるため、母豚は常に無駄なタンパク質(免疫)を消耗していることになります。
その結果、必要なワクチンや野外感染に対しての抗体産生が鈍くなり、ワクチン効果の低下や事故率上昇に繋がってしまいま
す。
ボルデテラの抗体検査結果を寄生虫対策前後で比較したものです。左は寄生虫対策をほぼ実施しておらず、母豚の見た目は重篤な疥癬症状も見られ、駆虫薬投与後に回虫の排出も見られました。
寄生虫とは関連性が低そうなARの検査結果ですが、駆虫前は大きなばらつきがみられ、駆虫後は同じワクチン、同じ作業者の接種でも抗体価が高く安定しました。
この事例からも分かるように、寄生虫対策を徹底することは、農場免疫力の安定に大きく関与するので、寄生虫対策は「疾病コントロールの基礎」と言われています。
 

対策事例

寄生虫の対策は、①母子感染予防、②環境中に残存させないという二つのポイントがあります。
 

【母子感染予防】

1、未経産豚・雄豚管理 
子豚肉豚で寄生虫関連の疾病が見られる農場では、必ず繁殖豚の駆虫対策の見直しが必要です。
特に、①自家育成候補豚や外部導入豚(以下育成候補豚)、②雄豚・見せ雄(以下雄豚)です。寄生虫卵の保有率を調べたデータです。母豚群よりも、育成候補豚や雄豚のほうが母豚群よりも保有率が高いことが見て取れます。経産豚は定期的な駆虫をしていくため保有率が低くなりますが、育成候補豚や雄豚のクリーニングの失宜は農場の汚染を広げる要因となります。特に導入豚は導入時ストレスを軽減するために、オガ粉を活用している農場も多いと思いますが、ここで感染や増幅してしまう可能性が考えられます。〝持ち込まない〟ことにポイントを置きましょう。
 
2、投薬量 
駆虫薬は〝大きさに見合った量〟になっているかの確認が必要です。未経産豚も高産歴母豚も雄豚も同じ量という農場は意外と多いです。薬剤量が足りず、農場内で効果のばらつきが生じ、寄生虫の輪廻に繋がっています。
 
3、投薬タイミング 
駆虫薬は成虫にしか効果がありません。そのため、一度の投薬では虫卵は退治しきれずに、環境中にふん便やフケと一緒になって排出されます。投薬が終わり、薬剤効果が切れると再度経口感染し、体内で孵化します。そのため、孵化するタイミングで再度投薬することで多くの寄生虫を駆虫することができます。
●粉剤の場合
(1)導入豚・育成候補豚:導入時またはストール舎移動前に1週間添加し、その後2~4週休薬し、再度1週間投薬
(2)繁殖豚:年2回、ストール舎一斉投薬。1週間投薬し、2~4週休薬し、1週間投薬※ただし、分娩舎での排出を防ぐため分娩舎移動前2週までの豚に投薬。
※分娩舎母豚はストール舎へ出てきてから実施しましょう。
●注射薬の場合
(1)導入豚・育成候補豚:導入時またはストール舎移動前に規定量を接種
(2)繁殖豚:年1回、ストール舎一斉接種(重篤症状の場合は年2回など、状況により変わります)※ただし、分娩舎での排出を防ぐため分娩舎移動前2週までの豚に投薬。
※分娩舎母豚はストール舎へ出てきてから実施しましょう。
 
4、環境対策
投薬を実施したら必ず必要なことが〝清掃強化〟です。駆虫後虫卵はふん便やフケ、抜け毛とともに環境中に出てきます。毛玉やふんの放置によって寄生虫のたまり場となり、輪廻感染の元になります。必ず、駆虫後は清掃強化することをおすすめします。
 

【内部寄生虫子豚肉豚舎での対策事例】

1、子豚肉豚畜舎移動前の投薬
敷床豚舎は内部寄生虫が増殖しやすい環境のため、汚染しないために導入する前の投薬がおすすめです。
チアベンダゾールまたはアバメクチン系薬剤を、敷床豚舎に導入1週前から1週間投与してください。
その後、30日間隔で定期的にクリーニング実施しましょう。
 
2、環境対策
床材の保管は雨風を避けられる場所で、畜舎へ入れる際は2~5%程度の消石灰と混合することもおすすめです。
特に鞭虫対策のときは3%以上を目安に実施することで対策となります。しかし、間伐材のバークを活用されている場合は、石灰追加でほこりの発生がさらに多くなり、肺炎に繋がることもあるので注意が必要です。オガクズの入手も価格高騰で困難な現状なので、代替え措置としては図のように石灰で層を作るというのも一案です。ただし、消石灰でも豚にべったりとついてしまうと、ただれの原因になるため、ご注意ください。また、敷材を敷く前に可能であれば、温度を上げる消毒を取り入れると良いでしょう。スチームでの動噴は距離があると冷めるので、亀裂部位や角は意識して近くからスチームをかけることをおすすめします。
 

まとめ

今回は、目に見える寄生虫についてご紹介しました。疥癬がある農場では内部寄生虫も残っているかもしれません。農場で寄生虫を疑う事例を見かけたら、対策を見直すきっかけにしていただければと思います。寄生虫による無駄なカロリー消費とそれに伴う免疫力の低下を予防して、農場疾病コントロールや母豚の繁殖成績向上に繋げていただければと思います。
 
 
養豚の友3月号記事を一部再編しました。
 

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