どの農場にも存在する
浮腫病を引き起こす大腸菌 2022年1月号掲載

どの農場にも存在する
浮腫病を引き起こす大腸菌

浮腫病の基本的な概要は別稿に詳しく記載がありますので、ここでは抗体検査を活用した対策事例を紹介します。
ご存じの通り、浮腫病を引き起こす志賀毒素産生性大腸菌(STEC)は大腸菌の1つであり、どこの農場にも存在します。発症の引き金は①空腹と過食の繰り返し②腹冷え③高温・低温・過換気④不適切な給餌管理など、農場によって異なります。そのため、豚に発症の引き金となるストレスを感じさせないことが肝心です。また、1つの大きな要因で発生するのではなく、複数の要因の組み合わせで発症しやすいことが分かっています。浮腫病とは「管理病」であると言っても過言ではありません。
浮腫病の好発日齢は離乳期以降と幅広く、症状も①眼瞼浮腫②神経症状③下痢・軟便④るい痩⑤斜頸⑥食欲低下⑦発育停滞と多岐にわたります。典型症状である眼瞼浮腫が見られない症例も多々あるため、レンサ球菌症やその他の敗血症による死亡と、見た目では区別が付かないこともあります。よって、まずは病性鑑定や抗体検査を実施し、敵を知る必要があります。
 

有効な対策を選択する

敵を知れば、有効な武器(対策)を選択することができます。本病発症期、特に初動時は感受性の高い抗菌剤を使用し、感染拡大防止に努めることが重要です。しかし、抗菌剤のなかには感受性であってもペニシリン系薬剤やサルファ剤のように、STECには禁忌であるものもあります。使用時には、管理獣医師に判断を仰ぎましょう。
また、抗菌剤と同時に炭酸亜鉛やギ酸、プロバイオティクスなどの資材の活用が効果的な場合もあります。昨夏には、2社からワクチンが発売されて、評判も良いようです。しかし、これらだけでは根本的な解決にはなりません。「浮腫病」=「管理病」だからこそ、給餌・給水管理といった飼養管理はもちろん、候補豚・母豚群の飼養環境や体型管理、消毒方法など、広い範囲における見直しが求められます。
 

事例に見る浮腫病対策

給餌・給水管理の見直し
ある農場では、離乳豚舎に受け入れてから7日前後で神経症状が見られ、レンサ球菌症の治療薬であるペニシリン系薬剤を注射したところ、死亡が増加しました。病性鑑定の結果、浮腫病と診断しました(写真1~3)。
当該農場で使用している離乳期の給餌器は餌落ちが悪く、特に人工乳前期飼料はしっとりとしていて、ブリッジを起こしやすい質感でした。そこで、浮腫病発生後は受け入れから3日間、人が豚房に入らなくてもフィーダーの給餌口から飼料が出るよう、たたき棒を使って不断給餌に近い状態とし、給水補助器を設置しました。また、炭酸亜鉛の飼料添加、冷風侵入防止(ピットやクーリングパドの外側へのビニールの張り付け)、授乳中の初乳管理、里子管理、餌付け管理を徹底しました。現在、浮腫病は落ち着いており、飼料添加していた炭酸亜鉛は抜いています。
このように、飲水器または補助器を追加し、飲水量を確保して消化不良を起こさせない管理をすることが、発生軽減につながった例も多くあります。また、本病は飲水量も重要ですが、定期的な水質検査により、一般細菌や大腸菌が飲水に含まれていないか確認することが必要です。いろいろな対策をしても本病が落ち着かなかった農場で水質検査を実施したところ、大腸菌のうち、特に浮腫病の原因である志賀毒素2e型(Stx2e)が分離された事例もあります。
一方で、病性鑑定の結果、レンサ球菌症と分かったものの、当初は眼瞼浮腫の症状から浮腫病と判断し、炭酸亜鉛で対応したために効果がなかったという事例もありました。つまり、臨床症状のみの診断では、対策が無駄になることがあるのです。
 
飼料の切り替えのタイミングを見直す
豚の大きさに関係なく、決まった日齢が来たら飼料を切り替えている農場や、人工乳前期・中期飼料といった高価な飼料から後期飼料に早めに切り替えていた農場は、疾病による下痢ではなく、消化不良による軟便や下痢が散見されることがあります。これは浮腫病の引き金にもなるため、飼料の切り替えを実施するタイミングはとても重要です。
実際、本病の対策で事故は減ったものの、ゼロにならない農場において日齢・体重に応じた飼料の切り替えをし、成績が改善した事例もあります。離乳子豚は発育(週齢)に併せて、消化酵素が変化しますので、それに合った飼料を与えると飼料の消化がスムーズです。
また、例えば大、中、小の発育別に豚を分け「大は人工乳前期1頭当たり4㎏程度、小は6㎏程度給餌したら後期へ切り替える」といった、給餌量の目安を決めて切り替える「フィードバジェット方式」もお勧めです。もちろん人工乳によって必要な給餌量が異なりますので、飼料メーカーや代理店に確認、相談するとよいでしょう。
 

モニタリングができるELISA検査

浮腫病の抗体検査といえば、Stx2eの中和抗体価の測定が一般的でしたが、 当社ではより迅速に測定できるELISA法を提供しています。図1の通り、ELISA値は0.3~0.49で疑陽性、0.5以上は陽性になります。疑陽性はStx2eが動いている可能性があり、要注意のレベルです。陽性は、いつ発症してもおかしくない警報レベルになります。
この検査を定期的に活用することにより①育成候補豚の感染状況の把握②移行抗体とそれによる母豚の感染状況の把握③ELISA値の推移から野外感染時期の推察が可能となります。まだ提供間もないため、今後もデータを収集していく必要がありますが、病性鑑定と、レンサ球菌症やグレーサー病などの類症疾病とを併せた抗体検査を基に、疾病診断の確認や感染時期と感染圧の把握、飼養管理の改善に役立てた事例を以下に記します。
 
母豚の暑熱ストレス
当社のクライアント農場に実施している春と秋の定期検査のうち、秋の検査では多くの農場において候補豚や母豚群のELISA値が春より高値になっています。図2の母豚の抗体の動きからも、夏季のストレスが大きかったと推察できます。筆者が担当する西日本は昨年、6~7月まで猛暑、8月は長雨が続いて湿度が高くなりました。そのため涼しかったと感じた方もいたようですが、実際は不受胎などの繁殖成績の問題が、例年同様にあったと感じています。
このようにELISA値が高くても、候補豚や母豚に何か症状があるわけではありません。注意が必要なのは、母豚から子豚への垂直感染が起こりやすくなるということです。母豚は、体調不良になるとふん便や乳汁からStx2eを排せつしやすくなります。秋以降に浮腫病の発生が多い農場では、母豚群の暑熱対策にさらに注力する必要があります。
 
密飼い
離乳後にオガ屑豚舎で飼養しているA農場は、眼瞼浮腫や神経症状を呈した死亡などはありませんが、60日齢以降に軟便や死亡が増加し、90~120日齢で死亡が多発していました。過去の病性鑑定では、100日齢の豚の下痢便から、消化器疾病の病原体とともにSTECが検出されました。それ以外の日齢では、STECは検出されず、その他の病原体が検出されています。なお、群編成の実施日齢は60日齢と90日齢です。
検査では、85日齢で疑陽性が確認され、112日齢で陰性、疑陽性、陽性が混在しています(表1)。密飼いが群編成で解消され、スムーズに摂食行動ができるようになり、過食となったために消化不良が起きたと推察されます。
対策として、適正な抗菌剤の投与、離乳時からの飼養頭数の減少、給餌器の変更を実施した結果、現在は軟便も死亡も減っています。このように、検査を実施したことが飼料や温度、換気管理などの見直しにつながったものと考えられます。
 
初発農場での給餌・給水管理
2つの繁殖農場から子豚を受け入れているB農場は、2021年8月中旬に40~50日齢で神経症状と死亡が増加し、浮腫病と診断されました。発生前は60日齢からELISA値が上昇し、90日齢で全頭陽性でした。
対策として、各繁殖農場での人工乳の切り替えを見直し、導入後は人工乳後期にのみ炭酸亜鉛を給与しました。また、水が空にならないよう容量の大きい給水タンクに交換しました。
これらの対策後は陽性率が下がり、平均値が発生前に比べて低下しています(図3、表2)。また、事故もなくなってきています。
 

おわりに

決して「管理者」である皆さんにプレッシャーをかけるわけではありませんが、浮腫病に限らずどの疾病も「管理病」と言えるのではないかと筆者は考えています。日々の管理では疾病の豚を探すのではなく、快適に寝ているか、飼料を食べているか、のびのびと遊んでいるかといった目線で豚を観察してみるのがよいのではないでしょうか。快適な環境であれば、管理病は発症しません。大切な豚に元気がなければ、検査で敵を知り、有効な武器を選択して闘ってみてください。
 
 
養豚界 2022年1月号掲載記事を一部再編しました。
 
 

youtube