サーコ対策、さぁ! ここから 2022年9月号
はじめに
9月は地域によっては残暑が明け、朝晩で肌寒く冷え込みやすい気候となっていきます。そうなると恐ろしいのが寒暖の日較差になります。
この日較差は農場全体で大きな障害となり、肺炎、下痢、神経症状、関節炎を流行させる原因となります。
そして、これらは発育遅延や体型のばらつきを引き起こし、死亡事故を招くことに繋がります。
体型のばらつきや死亡事故は日較差が原因のことも多いですが、近年、豚サーコウイルス2型(以下、PCV2)の関与も全国的に疑われています。
今回はPCV2の発症事例および対策の一例をご紹介いたします。
症状・情報
PCV2は一般的には4~6週齢の離乳豚で離乳後多臓器性発育不良症候群(PMWS)を発症しやすく、体重減少、被毛粗剛、呼吸器症状、下痢とその症状は多岐に亘り、全体の免疫力を低下させてさまざまな合併症状を引き起こします。
本病に感染していると肺炎時や下痢時の治療に対する反応が鈍くなります。
また、特徴的な紫斑、発疹を呈する皮膚症状が見られることもあります(豚皮膚炎腎症症候群〈PDNS〉)。
しかし、近年は子豚だけでなく繁殖豚でも問題になる事例が散見されています。
その場合、早流産や白子などの異常産、あるいは育成豚時点で混合感染により発育が遅延することにより初回種付日数が遅れてしまうなどの問題が挙げられます。
また、以前からPCV2はa、b、c、d型が見られていますが10年ほど前からd型が広く浸潤し、ここ数年では優勢株になっていると言われています。
弊社のシークエンスでもやはりここ数年は全国的にd型が多く見られています。PCV2dの特徴は増殖力が高く、感染早期にウイルスを排出し水平感染の速度も高くなりやすい傾向があるとされています。
以下では、厄介なPCV2に悩まされたクライアント農場での事例を紹介します。
事例+対策①
前述の通り、PCV2dは体内での増殖力が高く感染早期にウイルスを排出するという特徴があります。
農場では分娩舎内で哺乳豚がPCV2に感染していました。哺乳豚での早期感染という状況から、①初乳摂取が不十分であり獲得免疫により哺乳豚を早期感染から守ることに失敗した、②分娩舎内でPCV2感染圧が高値であったため感染する機会が増えたことが考えられます。
臨床症状も離乳間際の哺乳豚および離乳後の発育がばらつき、ヒネが増えるなどのご相談がありました。
これらのリスクへの対策を行い、臨床症状とモニタリングの結果から取り組みを評価しました。
まず①の改善ですが、PCV2防御に限らず子豚の発育のためには大前提となる要因であるため、最優先で取り組みました。
方向性は母豚側には初乳の出を良くする、哺乳豚側には初生哺乳豚の活力を向上させることで全ての哺乳豚が吸乳行為を行えるようにするといったものです。
これにより初生免疫を獲得し、垂直感染や、水平感染、環境中からの防御に繋がりました。
次に②の改善ですが、分娩舎内の洗浄消毒の強化と並行してPCV2ワクチンの接種時期を再検討しました。
本農場では離乳と畜舎移動が同日に行われており、移動時にワクチンを接種していました。しかし、結果を受けて感染が早期であるため哺乳期間を守るための免疫付与が必要になるという認識を共有し、接種時期を早めました。
なお、分娩舎内での感染から防御するために去勢や切歯、注射針の腹ごとの交換や消毒を徹底していただき、垂直・水平感染が起こりにくくする管理に変更しました。
①、②による垂直・水平感染防御の取り組みを経て、半年後に再度モニタリングを実施した際、分娩舎内での早期感染を防御することに成功しました。
臨床症状も哺乳期間中の体型のばらつきやヒネが減少しました。この事例からは感染時期の正確な把握が対策を講じる上で非常に重要であると再認識しました。
事例+対策②
世界的に新型コロナウイルスが猛威を振い、外国人技能実習生の入国がままならず現場のスタッフが一人減り、二人減りとしていく中、「作業」と「管理」の優先順位をつけることができず、経営者が認識できない部分でジワリジワリとその歪みが大きくなってしまった事例をご紹介いたします。
年が明けた頃から少しずつ離乳舎の成績が下降し始め、3月には離乳舎や肥育舎事故率が通常の1・5倍程度まで上昇したことから、急遽病性鑑定と抗体検査を実施しました。
結果はPCV2の関与を疑わざるを得ない結果となりました。
ここ数年間、PCV2のPCRが農場の半年後。母豚と子豚両方への対策で早期感染をコントロールすることに成功した№ 検体名PCV2
qPCR12 哺乳豚 03検出されていない農場でしたが事故が多くなった70、90日齢でqPCR陽性となり、ELISAでも高値が認められました。
また、臨床所見でもPCV2が疑われる状況ということもあり、直ちにPCV2対策を再考することをご提案しました。
再考時の提案の一つに「ワクチン銘柄の変更」という経営者からの提案もありましたが、農場長と筆者はワクチン接種について思い当たる節があったので、「まずは飼養管理の見直し」を実施することにしました。
後述するマクレベルに最大限に則った見直しも行い、並行してワクチン接種の内容をスタッフが減ってから行っていた「一人で接種」を、「二人で接種」に戻しました。効果は想像以上に早く出たようで、翌月、巡回時には改善傾向が認められ、かつ4カ月後の定期採血結果ではqPCRが陰性でウイルス暴露が落ち着いた状況になり、臨床と検査結果を鑑みて改善したという検証結果になりました。
豚を管理するのは人です。その人間が減ってしまったことがきっかけで日々の管理に少しずつ歪みが出てしまった事例です。些細なことですが、労働力不足に悩まれている農場は想像以上に多く、どの農場でも起こり得る「歪み」です。
なお、離乳舎でトラブルが起こった際は、①豚熱ワクチン接種が「1豚房1針」ではなく「1バイアル1針」の方法で実施していると豚房を跨いで水平感染が起こりやすいこと、②ワクチン接種回数が1回増えたことでストレスになり、感染に対して弱くなることも背景として考えられます。
①は「1豚房1針」を実施することで、②は豚熱ワクチン接種前後に抗生物質の添加などで混合感染をケアするプログラムを構築するなどの対策も離乳舎での感染コントロールに繋がります。
また、特に寒くなってくるこれからの季節では、環境温度を接種時に2℃程度、暖かくしておくのもワクチンリアクション軽減効果が期待できます。
事例+対策③
PS豚を自家育成している農場では、離乳舎や子豚舎での野外感染はその後の農場内での輪番感染に繋がるため、一層の注意が必要になります。
とある農場では、GP母豚から生まれた子豚のみで本病を疑う症状が見られていました。それにより繰り上げする候補豚の数が減少してしまうことや、同室離乳室での本病疑いの症状の流行に繋がっていました。
未経産豚や初産豚を対象にしたモニタリングは、PCV2―PCRでウイルス血症が見られる期間が短く、感染状況を把握しにくい農場内の経産豚や雄などのモニタリングの意味合いもあるため、繰り上げられたPS豚を調べました。
しかし、この時点でも野外感染を受けており、本農場では輪番感染が成立している可能性および哺乳豚への早期感染の危険性が考えられたため、早急に対策を組むことになりました。
対策は当面の間育成候補豚へのワクチン馴致を行い、また、GPの子(LW)の雌の群限定で離乳舎でもワクチン馴致を行い、PS豚の特別プログラムとしてワクチン接種を強化させました。
これにより、本病疑いの症状は目立たなくなっていきました。
また、本農場での取り組みの際はワクチン馴致のみだけでなく、垂直・水平感染のリスクを極力減少させることと、環境中の残存ウイルスを徹底的に消毒し、環境中からの感染リスクを減らすような対策を取りました。前者では、分娩舎担当者間でマクレベルの概念を厳命していただき、分娩舎内で垂直・水平感染しないような管理を強く心掛けました。マクレベル(McREBEL) は、Management changeto reduce Exposure of Bacteriato Eliminate Losses の頭文字をとったものです。なお、垂直感染のリスクを軽減させるためには、農場内繁殖豚での免疫レベルを平準化させる必要があります。そのためには育成候補豚の飼養管理や更新計画を明確にしなくてはなりません。また、GP、PS豚を外部導入している農場では昨今の豚熱事情に伴う導入豚更新の乱れや、更新率の上昇により免疫が未熟な育成候補豚の割合が増え、PCV2を含む疾病コントロールの難易度が上がることが懸念されます。
そのため、まずはリスクをしっかりと把握することが効果的な予防策を講じる第一歩となります。
後者では離乳室内の洗浄消毒で使用する消毒方法を見直しました。
PCV2は消毒薬に高い耐性を持つので、効果的な消毒薬を効果的に使用しなくては十分に効果を得ることはできません。グルタールアルデヒドを主成分とするものを使用し、予備洗浄+乾燥、本洗浄+乾燥、消毒+乾燥、およびその後の空舎期間をしっかりと確保しました。
このときに注意することは、離乳室の入気口や内気攪拌ファン、跳ね上げ天板の表裏、給餌箱など、洗浄・消毒ともにしっかりと行う必要があることです。
それらの箇所に埃が堆積し続ければ、その中の残存ウイルスは豚が入った後にも飛散し続け、また餌箱内の有機物にもウイルスが残存してしまいます。
洗浄後の洗い残しがあると消毒の効果が下がり、耐性のあるPCV2ウイルスを死滅させられないリスクへと繋がります。
おわりに
PCV2対策の肝は、どのステージで問題が起きていて、それが本当にPCV2の関与によるものなのかを現場の状況と農場成績と科学的な検査のそれぞれの面から明確にすることです。
そのためにしっかりと農場内部と検査結果をジャッジできる専門家に相談すると良いでしょう。
季節の変わり目が本格化する前に相談し、対策を講じることをお勧めいたします。
養豚の友9月号記事を一部再編しました。