白くなるけどグレーサー 2023年1月号

はじめに

本稿が掲載される1月は真冬であり、低気温、寒暖差、風向き、乾燥が豚を脅かす季節です。
冬場管理では豚舎内の換気に慎重さが求められますが、しばしば空調管理に失敗してしまい死亡や肺炎などのトラブルに見舞われたという事例も多く耳にします。
これらのトラブルは抗体検査や病性鑑定で原因究明すると事例ごとに多彩な病原体が関与することが判明します。
その中の一つのHps(以下、グレーサー病)は致死性があり現場を悩ませる感染症です。
そこで本稿ではグレーサー病の発生および対応事例を解説いたします。
 

情報・症状

グレーサー病の主な症状は肺炎症状、関節炎、チアノーゼ、体色の白色化、被毛粗剛などを示し、早い経過で死亡していくことが多く見られます。解剖所見は典型的には卵とじ病変と呼ばれる胸腔内の繊維素沈着ですが、肺の肝変化や心しんのう嚢水・胸水の増加など他の肺炎病変と類似した所見を示す場合も多く見られます。
原因菌(ヘモフィルス・パラスイス。豚胸膜肺炎であるApp、所謂「ヘモ」とは別菌種)は健康豚の鼻腔内にも多く保菌されている常在菌です。グレーサー病は「SPF病」とも呼ばれ、衛生的に飼育された豚でも見られます。本病は農場の汚染度だけでなく、飼育環境由来のストレスにも気を付けなければなりません。冬季は夜温が大きく低下するため、昼と夜の気温の差(日較差)が大きくなり、その寒暖差ストレスがリスク因子となります。日格は外気温で±10℃、畜舎内温度差で±5℃を越えてくると事故率が増加します。そのほかにも換気不良によるアンモニアガスの滞留により気道粘膜を損傷した場合や、風の直撃による低体温もリスクになり得ます。
また、ほかの呼吸器感染症との混合感染により致死性や伝染性のリスクが大きく上昇します。
肺炎感染症の土台になり、本病を引き込むことの多いPRRS、PCV2、マイコプラズマ・ハイオニューモニエ(Mhp)、ボルデテラ・ブロンチセプティカ(Bd)、パスツレラ・マルトシダ(Pm)、レンサ球菌(S.suis)や、本病と同じく致死性が高いアクチノバチルス・プルロニューモニエ(以下、App)や豚インフルエンザ(SIV)は注意と対策が必要です。
また、離乳舎で本病と似た症状を示すマイコプラズマ・ハイオライニス(以下、Mhr)や肥育舎で似た肺炎症状を示すApp、体色の白色化を示す胃潰瘍やローソニア感染症にも注意が必要になります。
 

事例①

某クライアント農場の肥育舎にて、体色が白色化し衰弱していく様子が散見されました。季節は9月頃で、日齢は150日齢が最も多く発症していました。
症状から当初は胃潰瘍が疑われていましたが、餌や水を変えておらず、実際にフィーダーからの餌の出やピッカーからの水の出は良好でした。
死亡豚を何頭か解剖し胃の内部を確認しましたが炎症や特徴的な凝固血塊は見られず、胃潰瘍ではないのではないか?と考えました。
また、腸管を検査してもローソニアなどは見られず、腸管からの出血による貧血も否定的でした。
そして、それらの個体では胸腔内は肺の肝変化や胸水が見られており、肺炎症状が見られていた可能性があり、心肺も病性鑑定を実施したところグレーサー病菌が分離されました。このことから本症例はグレーサー病の関与を考え、対策を講じてみることにしました。
まずは短期的にこれ以上、発症させないために抗生物質での治療を実施しました。アモキシシリンを飲水投与で5日間投薬することで散見されていた症状は見られなくなりました。そして中長期的には空調管理の見直しによる予防に取り組みました。
9月に台風が通過して以降、急激に気温が低下したその地域では肥育豚でも低気温を心配し、150日齢でも日中でもカーテンを閉め切り気味
な管理をしていました。
しかし、一日中カーテンを閉め切ることで入気不足やガス滞留に繋がり、また、昼夜で同じ管理をしていたため寒暖差が生じていました。
これを是正するために日中に怖がらずカーテンを広めに開放し、また、順送ファンを弱めに稼働しました。
それにより新鮮な空気を入気させ、ガスを滞留させずに寒暖差を軽減することで豚にかかるダメージを大きく減らせたのだと思います。
結果、症状を示す豚が次第に見られなくなっていきました。
基本となる空調管理により症状を克服できた一例です。
 

事例②

こちらのクライアント農場では、突然死が散見されていました。
本農場の肥育舎は連続飼育であり、80日齢で肥育舎に移動したグループの隣に150日齢のグループが収容されていることが度々ありました。
そのどちらのグループでも突然死は見られていました。実際に確認してみると、150日齢はグループの半分ほどが出荷済みで既におらず、空間は
肌寒く感じました。空調管理は過換気気味であり、豚舎内は風が通っていました。抗体検査ではグレーサー病の数値が上昇しており本病のリ
スクが高いことが考えられたため本病の対策を講じることに決めました。空調面は両グループの豚に風を直撃させないように対策することにしました。具体的には80日齢グループには農ポリビニールでネストを作り、風から避難できる環境を作りました。併せて150日齢でも風除けのパネルを立てて風が直撃しないように気を付けるようにしました。80日齢のほうは農場からも早いご理解を得られましたが、150日齢の風除けについては空気が動かなくなるためにガス滞留や酸素不足を懸念されていたため、当初は難色を示していました。しかし、豚房内に豚が少ないため暖を取りにくく小さい豚同様に風が直撃することがリスクになる旨を説明し、最終的にご納得いただけました。また、小さい豚にはフロルフェニコールが飼料添加されていたためそれは継続していただきました。
これらの対策を講じた結果、80日齢での突然死は格段に減少し、また、150日齢でも活動性が向上し採食が増えた結果大きく崩れることなく出荷で事故から逃げることができるようになりました。本件で改めて学んだことは、肥育舎に移動した直後の日齢は豚房の広さや体格の関係から薄飼い気味になりやすく、風当りや低気温の影響を受けやすくなるため想像以上に本病のリスクが高くなることと、出荷残りの豚も日齢だけで空調管理を判断してしまうとかえって生体にダメージを与えることに繋がるということでした。なお、余談ですがその農場では豚房の柵と柱が金属でできていたため、農ポリビニールをマグネットで貼り付け、カーテンにして風よけを作ることにしました。それにより日中と夜間で取り外しと取り付けがしやすくなったため、こまめな作業も省力化して取り組めるようになりました。
 

事例③

本件は離乳舎でのできごとで、類症鑑別の大切さを身に染みて痛感したお話です。こちらのクライアント農場では50~60日齢、離乳舎で見られた事例です。
夏から秋に移ろいつつある9月中旬ごろ、離乳舎で関節炎や被毛粗剛といった症状を示し衰弱していく個体が多く見られていました。密飼い気味であり、換気不足気味という状況であったため感染に対するリスクは多くあり、当初は比較的よく見られるグレーサー病やレンサ球菌症を疑っていました。
そこでアモキシシリンの飼料添加を提案し、様子見することにしました。しかし、一向に発症は減らず変わらず相談を受ける日々でした。その農場を巡回した際に死亡豚を複数頭分解剖し、内臓所見を見ると日齢の割には肺の肝変化が進行している所見が目立ちました。内臓を検査してみたところMhrが検出されました。この結果を得て農場の方には急いで対策の方向転換を説明しました。まずは発症を止める必要があるの
で投薬対応から取り組みました。発症時期から感染時期は35~40日齢ごろだと仮定し、その時期の感染対策を考えました。その農場では離乳舎
への移動タイミングは約30日齢だったため、移動時にツラシロマイシン注射薬を一斉投与していただきました。
体内組織内で2週間程薬効を発揮する薬剤を選択したため、感染時期だと仮定した35~ 40 日齢まで体内にツラシロマイシンを置いてくることを期待しての提案でした。また、症状が落ち着くまでは飼料添加剤をアモキシシリンからアイブロシンに変更していただきました。次に環境改善の取り組みになりましたが、豚舎繰り的に密飼いの是正が不可能なため、埃落としのために空間消毒を極力、多く取り組んでいただききました。その上で換気量を強めていただくことで落とした埃を外に出すことを心掛けていただきました。これらの地道なお取り組みの甲斐あって、関節炎などの発症件数を大きく減らすことに成功しました。
本件を経て迅速な対応を組むための第一歩は検査であることを再認識しました。なぜならグレーサー病とMhrは症状と発症日齢、発症リスク要因が酷似しているため肉眼での鑑別が困難であるからです。Mhrは正常豚の鼻腔内にも存在し、免疫力の低下や乾燥やアンモニアガスなどによる粘膜損傷で感染・発症するため発症条件が似ており飼育環境の改善は共通の対策になります。しかし、適応薬剤が異なる場合があるため、すでに発症してしまっている場合は、病原体の正体を突き止めないことには薬剤選定が当てずっぽうになってしまいます。近年、Mhrは発症報告が増えており、グレーサー病との鑑別がより一層、重要になってきています。
 

おわりに

本病は日和見感染症であるため季節に関係なく発症するリスクがあり、なおかつSPF病というくらいなので衛生的な環境であっても油断ができない恐ろしい存在です。ですが、何が本病のリスクたり得るのかを正しく認識し、五感で豚舎内環境を「視る」ことで気が付くことがあるかもしれません。また、どうしても「視る」ことができない部分は、検査で見立てを確認する必要があります。
解決したいときは科学的根拠を得てからの対処されることを推奨いたします。
 
 
養豚の友1月号記事を一部再編しました。
 
 

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