家禽サルモネラ感染症(SAL)

サルモネラ感染症とは

病名:家禽サルモネラ感染症<監視伝染病> ( Salmonella 属 )
病原体:Salmonella serovar Gallinarum biovar Pullorum及びbiovar Gallinarum

緒言:

サルモネラ属は分類学的には腸内細菌科に含まれている。
鶏においては正常細菌叢に含まれており、体外排出機能が働かないため腸内に定着する。
その為、ワクチンは発症には効くが感染は押さえられない。(有効なワクチンの報告はない。)
サルモネラは自然界で広範囲に分布しており、伝播、侵入経路も多様である。
現在、サルモネラには約2,000種類あり、その中の100種類が危ないものだとされている。
食中毒としては、SE(Salmonella Enteritidis <ゲルトネラ菌>)、ST(Salmonella Typhimurium <ネズミチフス菌>)が非常に多く、症状も他のサルモネラに比べると、SE、STは強い。
その他の100種類も同じような病気を起こすが症状はSE,STに比べるとやや軽い。

症状:

SEにはファージ型でいろいろなタイプがあるが、平成元年頃に騒がれたSE食中毒は34型で、現在では1型や4型が非常に多くなっている。
また、22型や15型も出現している。
サルモネラは普通、口に入って腸に行き、だいたい腸の周辺に悪さをするとそのまま糞便と一緒に排泄されてしまう。
ところが、SE,STの場合は菌が腸管から血液に入り込む性質を持っている。
腸から体内の様々な臓器を回り、再び腸に戻ってくる。
症状は下痢よりもむしろ高熱が出る病気である。
SEの場合、卵内汚染( in egg )があるところに対策の難しさがある。
他のサルモネラ菌は卵殻汚染( on egg )が中心である。
菌が中に入るのは稀なことで、SEは産卵時にすでに卵内に菌が入り込んでいるのが普通と思ってもよい。
サルモネラにより鶏が臨床的な症状を呈するのは孵化後1ヶ月以内の幼雛期であり、特に孵化後10日以内に発症、死亡する例が多い。
症状としては元気を喪失し、羽毛を逆立て羽が垂れ、嗜眠状態を呈する。
白色下痢便を排出し肛門周辺の羽毛に糞便が付着する。
関節炎や盲目症が発生することがある。成鶏では発症することは稀であり、不顕性に経過する場合が多い。

サルモネラの抵抗性:

サルモネラは生体外の環境下でも比較的長時間生存し、良好な条件下では増殖することもある。
通常使用されている種々の消毒薬や熱に対しては弱いが低温で乾燥し、かつ有機物が存在するところでは数ヶ月以上にわたって生存する場合がある。
−20℃に保存した鶏の死体からは13ヶ月後にも、また乾燥した糞便からは9ヶ月後にも菌が分離されたとの報告がある。

分布:

家禽サルモネラ感染症の発生頻度は、他の家畜よりも高いと言われている。その理由としては、

  • (1)鶏はサルモネラに対して感受性が高い。
  • (2)飼育規模が大きい。
  • (3)同一の系統や日令のものが集団で飼育されている。
  • (4)介卵感染が成立し、サルモネラが保菌種鶏から雛に伝播し、さらに感染した雛が広範囲に輸送されて汚染が拡大する。
    従来、日本においては雛白痢以外のサルモネラによる鶏の汚染度は欧米諸国に比べ低いとされていたが、生活程度の向上に伴って環境のサルモネラによる汚染度も欧米並みとなり、また、雛、畜産物、飼料原料の輸入等の際にサルモネラが一緒に持ち込まれるため家禽サルモネラ感染症の発生頻度も高まり、従って分離される血清型は多様化、国際化の傾向が認められてきた。
    家禽サルモネラ感染症は鶏肉や鶏卵を通じて人への感染源となり得るので、畜産上ばかりでなく公衆衛生の面からも重要な問題である。
  • 病原性:

    サルモネラは人畜共通の病原菌で宿主域は広く、人、哺乳動物、鳥類から冷血動物、昆虫に及ぶ。
    鶏のパラチフスでは発症、死亡するのは孵化後2週間以内の雛に多く見られ、死亡率は通常の20%以下であり、耐過した雛の一部は保菌鶏となる。
    1ヶ月以上になると死亡することは稀となるが、栄養不良、不良環境、他の疾病の感染等で抵抗性が低下した場合には発症、死亡することがある。
    また、サルモネラ(SE)の鶏体での増殖がストレスとも強く関係していることが明らかにされている。
    強制換羽は当然のこと、他に消毒の仕方でも鶏にとっては大きなストレスになり、それが鶏体でのSE増殖に深く関係しているデータもある。

    伝播:

    サルモネラは自然界における分布が広範囲で、伝播、侵入経路も多様であるが、最も重要な伝播経路としては介卵感染があげられる。

    1.介卵感染

    介卵感染には、菌が卵巣から直接卵へ移行する( In egg )場合と腸管内の菌が糞便とともに排泄され、これが産卵中あるいは産卵後に卵殻へ付着し、卵殻を通過して卵内へ移行する( On egg )場合の2経路がある。
    卵殻に付着したサルモネラは、生存期間は低温の方が長いが、卵殻の通過は高温の方が起こりやすい。
    例): S.typhimuriumの卵殻通過は10℃以下では全く起こらず、20℃以上ではじめて起きたと言われ、また通過速度は30℃では4日以内、37℃では6分で通過したと言われている。
    卵内に入った菌は卵黄で増殖し、胎児へ移行する。
    腐卵の途中で死亡する胎児もあるが、生き残って孵化した汚染雛が汚染源となって腐卵器内感染が起こり、更に育雛中にも感染が拡大する。

    2.サルモネラ汚染飼料による伝播

    サルモネラに汚染された飼料は感染源として重要である。
    飼料中の菌数は一般に少なく、また、飼料中の菌が常に感染するとは限らないが、しかし少量の菌があっても感染が成立する場合がある。
    フィッシュミール、肉骨粉等の動物原料ばかりでなく、大豆粕、穀物等の植物原料からもサルモネラが分離され、これらの配合飼料中に含まれていることになる。
    そのため、配合飼料は非熱のマッシュのものよりも加熱しているぺレット、クランブルのものの方がよい。
    (15gの飼料の中に1個の菌が存在していても感染が成立したとの報告がある。)

    3.その他の伝播経路

    その他の伝播経路としては、ネズミ、野鳥、ハエ等による伝播、あるいは汚染された鶏舎や器具を十分に消毒しないで再使用する事による感染等がある。
    同一鶏群内の個体間の伝播では保菌鶏からの糞が感染源としては重要であり平飼いよりも床を金網にして鶏を糞から遠ざけると保菌鶏は減少するとの報告もある。

    診断:

    最終的には病原体の分離培養をしなければならない。

    細菌検査:

    SEの場合、感染した鶏は1/300の確率で感染卵を排出する。
    その為、SEの感染を発見するのは極めて困難である。細菌検査では段階的に発見確率を高めるような方法となっている。

    (1)<鶏/食>DS法のGP法(ガーゼパット法)
    滅菌ガーゼを蒸留水で湿らし、汚染されていると思われる棚、壁、柱、機器等を拭き取り、そのガーゼをペプトン水で前培養する。
    拭き取る範囲はその場の衛生管理状態を見て判断する。(拭き取りの範囲は特に規則はない。)

    (2)<鶏>
    GP法と一緒に積もった埃は、広範囲から刷毛で約20gプールする。
    プールした埃もペプトン水で前培養する。

    (3)<鶏>
    盲腸便を1鶏舎ごとにプールし、HTT(ハーナテトラチオン酸塩基礎培地)で培養する。
    卵においても1ロットごとに規模に合わせてプールし、HTTで培養する。

    (4)<鶏/食>
    (1)、(2)ともに1日間、37℃培養後、HTTで1日間、41℃で培養する。その後、SS培地(平板)に移し、1日間、37℃で培養し、中心に黒点のあるコロニーを拾って、選択培地(TSI/SIM/LIM)で1日間、37℃で培養し、疑いのあるものはコバック試験で判定する。
    それで陽性と判定された場合は、O血清、H血清を使って抗原−抗体反応(凝集反応)で、陽/陰を判定する。

    (5)<鶏>
    (4)迄の検査の精度を高めるにはクロアカスワブを使用して直腸便を検査する。
    更に確定的にするには、血清(抗体)を検査するとよい。

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