牛ウイルス性下痢(BVD)の感染について解説

「牛ウイルス性下痢(bovine viral diarrhea :BVD)」とは、牛・水牛の届出伝染病であり、自然宿主は牛、水牛、綿羊や山羊、豚などの家畜のほか、鹿やヤク、ラマ、アルパカ、野生反芻獣などが挙げられています。その中でも牛が最も感受性が高く、臨床症状は牛とアルパカでみられます。牛では免疫寛容を示し、「持続感染牛(PI牛)」が最も重要な感染源として挙げられます。
 

牛ウイルス性下痢(BVD)について

病原体であるBVDウイルス(BVDV)は世界各地に常在しており、多くのウシ科動物に感染し、分泌物に多く含まれ排出されます。
BVDVは一本鎖RNAウイルスであり、フラビウイルス科 ペスチウイルス属に属します。BVDVにおいて、培養細胞に細胞変性効果を起こす「細胞病原性株(CP株)」と、変化を認めない「非細胞病原性株(NCP株)」があり、これらは本病の発症に重要な生物型です。また、この生物型はそれぞれお1型と2型の遺伝子型に分類され、さらに亜型に細分化されます。遺伝子型については、BVDの診断や感染経路の解明に重要とされています。
 
臨床症状は宿主の年齢、感染様式によって大きく異なっています。
(1) 急性感染については、免疫応答能が正常である子牛や成牛の各年齢で発生します。無症状の場合もあるが、食欲不振や呼吸器症状、下痢などの症状がみられます。この時、健常妊娠牛にBVDVが感染すると、PI牛の産出や流死産などが認められます。発症後に回復するが、免疫力低下により細菌などの二次感染を起こし肺炎や重篤な下痢などを発症し、免疫力の弱い子牛などでは死亡する可能性があります。
 
(2) 感染母牛から胎子への垂直感染では、胎子の月齢によって様々な症状を示します。妊娠前期100日前後に感染した場合、「免疫寛容」により胎子はPI牛として生まれる可能性が高くなります。「免疫寛容」とは、持続感染しているBVDVを異物としてではなく、自己タンパク質として認識してしまう状態を示します。妊娠前期100日前後はまだ免疫系が形成されていないために発生すると考えられています。また、これにより胎子がPI牛として出産される可能性が高いです。
 
(3) 妊娠中期は先天性異常子牛認め、妊娠後期での感染では抗体を有した子牛が産出します。
 
(4) 持続感染については、PI牛は一生涯多量のウイルスを排出し続けており、抗体を産生することはありません。全身にウイルスが分布し、ほとんどの組織から分離されています。PI牛の約半数は発育不良で健康牛の区別つきにくいです。しかし、常にウイルスを排出続けており、周囲へ絶えず接触伝播を引き起こす危険な感染源となっています。これがBVDの病態おける最大の問題と言われています。
 
(5) 粘膜病はPIでの発症が高リスクあり、NCP株感染しているPI牛に同一のCP株が重感染することで発症するとされています。また、NCP株の突然変異により病原性株となり発症する場合も挙げられています。
発熱や元気消失、食欲減退などのほか、腸管粘膜やの潰瘍・糜爛による水様から泥状の下痢・脱水、舌や歯肉などの口腔や鼻の粘膜の糜爛・潰瘍などが見られ、これらが一般的に「ウイルス性下痢・粘膜病」といわれる病態とされています。発症率は極めて低いが致死率はほぼ100%で、多くは若齢機に発症し成牛でも認められるため、経済的損失を招いています。
臨床診断としては、口腔や鼻鏡の糜爛、慢性下痢、粘血便等の顕著な症状では「粘膜病」、発熱や活力・食欲低下、軽度の下痢、泌乳牛での乳量低下、二次感染による肺炎症状では「急性感染」などが挙げられています。また、流産が多発している場合もBVDが疑われ、過去に流産が多発していた場合は、PI牛が存在している可能性もあります。
 
以上より、BVDが疑われる場合は採血し血清・白血球を採取、また異常産の場合は胎子や胎盤を対象に、抗体検査やウイルス検査を行われています。
治療法は確立されておらず、PI牛の根治療法もないことから、予防として基本的な衛生対策やワクチンによる感染予防、PI牛の早期発見と淘汰などの対策が重要とされています。
 

 
 

youtube