栄養成分分析における「灰分」「ナトリウム」「食塩相当量」について

今回のコラムでは、栄養成分分析における「灰分」、「ナトリウム」、「食塩相当量」の概念と、それぞれの値(分析値・換算値)の関係性について、わかりやすく解説します。
 

灰分

灰分とは、食品を550℃程度で燃焼(灰化)したときに残る無機成分の総量のことです。灰化の過程で有機物はすべて燃え尽き、水分も飛んでしまいます。残った灰には、カルシウム、カリウム、マグネシウム、鉄、リンなどのミネラル類が酸化物や塩の形で含まれています。
灰化は酸化的な条件下で行われるので、元素の状態で残ることはなく、ナトリウムも酸化物(Na₂O)、炭酸塩(Na₂CO₃)、硫酸塩(Na₂SO₄)、ケイ酸塩(Na₂SiO₃)などの形で存在します。
 

ナトリウム

灰化後に得られる灰を希酸で溶解し、ナトリウムを水溶液にします。この溶液中のNa⁺イオンをICP-OES(誘導結合プラズマ発光分光分析)や原子吸光分析で測定し、ナトリウムの分析値を求めます。
 

食塩相当量

食塩相当量とは、ナトリウムの量をもとに計算された換算値です。
計算式:食塩相当量 (g) = ナトリウム (g) × 2.54
これは、ナトリウムを「塩化ナトリウム(NaCl)」に換算したときの質量比に基づいています。つまり、食品に含まれるナトリウムのすべてを「食塩に由来するもの」と仮定して計算します。
 

Q. 食塩相当量が灰分を上回ることってあるの?

A. あります。
 
理由は2つです。
1.食塩相当量は換算値だから
ナトリウム1 gはNaCl 2.54 gに相当するので、実際のナトリウム量の約2.5倍になります。
2.灰分は加熱中に揮発する成分を失うから
灰化中に塩素の一部はHClやCl₂の形で飛んでしまいます。
 
実際の数値例:
食塩(NaCl)を1 g含み、それ以外のナトリウムや無機物を含まない食品を灰化したと仮定します。さらに、全ての塩素がガスとして失われ、ナトリウムが酸化物Na₂Oになると仮定します。
 

項目質量
食塩1 g
ナトリウム0.393 g
灰分(Na₂O)0.529 g
食塩相当量0.999 g

 
塩素がすべて飛ぶというのは極端な仮定ですが、御覧の通り、食塩相当量が灰分を上回る現象は十分に起こりうるのです。
 

Q. ナトリウムが灰分を超えることはある?

A. 絶対にありません。
 
灰分は無機成分すべての総和で、ナトリウムはその一部にすぎません。さらに、ナトリウムは元素ではなく酸化物や塩の形で灰に残るため、必ず酸素などの質量が加わります。もしナトリウムが灰分を超える結果となった場合は、分析エラー(希釈倍率の計算ミス、サンプルの取り違えなど)や装置の異常を疑いましょう。
 

Q. 乾燥した食塩を灰化するとどうなるの?

A. NaClが結晶のまま残り、塩素の損失やナトリウムの酸化は起こりません。
 
NaClは強固なイオン結合で形成された塩で、融点は約800℃と非常に高いため、通常の灰化条件ではそのまま残ります。ただし、食品のように水分や有機物が存在する場合は、酸性条件でHClやCl₂が発生し、塩素が一部失われることがあります。
 

まとめ

食品を構成する成分によって、灰化後の塩素損失やナトリウムの形態は変わり、その量を推定することはできません。したがって、食塩相当量と灰分を直接比較することには意味がありません。食塩相当量はナトリウム量からの換算値、灰分は全無機物の実測値であり、両者は目的も性質も異なるためです。
 

栄養成分分析について

食環境衛生研究所の栄養成分分析は、

 
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