身近な科学 ~秋の味覚・焼き芋の糖度について~
目次
はじめに
私たちの生活に欠かせない「食」。笑顔で「食」を楽しむには安全であり安心できるものであることが必要不可欠です。
今回は、そんな「食」にまつわる科学の一つ“糖度”についてお話ししたいと思います。
弊社でも糖度分析を行っており、そこで実際にご依頼いただいた焼き芋の部位ごとの糖度の違いについて、興味深い結果が得られました。
1.糖度とは?
糖度の分析を始める前に糖度とは何かを説明したいと思います。
糖度とは、100 g中に砂糖が何グラム含まれているかを表します。また、弊社では「Brix糖度計」を使用し、Brix値として測定を行っています。
糖度計は「屈折計」とも呼ばれており、水や空気中で光が進む際の屈折の違いを利用して糖度を計測します。
砂糖などの溶質を含む液体に光を当てると計測すると、屈折率が変化します。
その屈折率の違いから液体中の固形分濃度(主に糖分)を数値化する仕組みです。
そのため、厳密にいえば糖だけの量を示す値ではなく、液体中に溶けている固形分濃度を示す値です。
しかし同じ果物同士を比較する場合、一般的に糖度が高ければ糖の量が多いため、糖度は甘さの目安と考えられています。
2.焼き芋の糖度
では実際に焼き芋の糖度を、Brix糖度計を用いて計測しました。
今回は、焼き芋の皮を除き、表層部と中心部に分け、それぞれ4種類の焼き芋の分析を行いました。
その結果、どの種類においても中心部よりも表層部の方が糖度が高いという結果が得られました。
その差は平均で約10%で、焼き芋の部位によって、甘さの感じ方にも違いがあることがわかりました。
3.部位によって糖度が違う理由
それでは、なぜ焼き芋の部位によって数値の違いが見られたのでしょうか。
それには、「①水分の蒸発による糖の濃縮、②加熱条件の違いによる糖生成の差、③メイラード反応(褐変反応)・カラメル化」の3つの原因が考えられます。
①水分蒸発による糖の濃縮
焼き芋の表面は、加熱中に最も温度が上がりやすい部分です。
そのため、水がどんどん蒸発していきます。糖は水に溶けて存在しているため、水分が減ると相対的に糖の濃度が上がります。
つまり、同じ糖の量でも水分量が少ないと高く測定されるのです。
実際にフードプロセッサーで粉砕すると、表層部はねっとり、中心部はホクホクとした状態でした。
このように、焼き芋の表層部では自然の濃縮効果が起きており、それが部位による甘さの違いに関係していると考えられます。
②加熱条件の違いによる糖生成の差
焼き芋の甘さを生み出すのは、サツマイモに含まれるβ-アミラーゼという酵素です。
この酵素は、でんぷんをマルトースという甘い糖に分解します。β-アミラーゼが最も活発に働くのは60~70℃の温度帯です。
焼いている途中、焼き芋の中心部はゆっくりと温度が上昇し、この甘味生成ゾーンに長くとどまります。
そのため、中心部では酵素反応がしっかり進み、糖そのものが沢山つくられます。
一方、表層部は火に近く、温度が直ぐに100℃近くまで上がってしまうため、酵素が早い段階で失活してしまいます。
つまり、表層部では糖自体はあまり生成されないと考えられます。
③メイラード反応(褐変反応)・カラメル化
さらに、表層部ではもう一つの化学変化が起きています。それが、メイラード反応とカラメル化です。
これらの反応は高温によって糖やアミノ酸が化学変化を起こす現象で、焼き色や香ばしい香りを生み出します。
特にメイラード反応は、糖とアミノ酸が結びついて褐色の色素や香味成分を作り出すもので、パンの焼き目やステーキの焼き色にも関係しています。
また、カラメル化は糖が熱によって分解し、キャラメルのような深い甘みを生み出す反応です。
これらの反応により、焼き芋の表面にはコクのある香ばしい甘さが生まれます。単に糖が濃縮されるだけでなく、風味そのものが化学的に変化しているのです。
4.まとめ
糖度計が示す甘さの数値は、あくまでも糖の濃度を表すものです。
一方、私たちが口に感じる甘さは、糖の生成量・水分量・香ばしい香気成分が複雑に組み合わさることで生まれます。
つまり、表層部がより甘く感じるのは、糖が多いからではなく、水が少なく濃縮され、さらに香ばしい風味が加わってからです。
皆さんもこれから一段と寒くなる季節で焼き芋の部位ごとによる甘さの違いを意識しながら味わってみるのはいかがでしょうか。
おわりに
このコラムを通して、科学が身近な存在になってくだされば幸いです。
私たちの食卓に安心・安全が届けられるように、弊社では食品の様々な検査を行っております。
特に栄養成分分析にご興味ある方は是非こちらをご検討ください。
| 検査項目 | 糖度(Brix糖度) |
|---|---|
| 分析方法 | 簡易糖度計測定 |
| 分析期間 | 10 営業日 |
| 検体必要量 | 100g以上 |
| 料金 | 3,850 円 |