PFAS検査・分析方法を徹底解説|対象別の検査手法と標準法の違いを紹介

PFAS検査の代表的な方法

PFAS(有機フッ素化合物)は、極めて安定した化学構造を持ち、自然環境中でも分解されにくい性質から、「永遠の化学物質(Forever Chemicals)」とも呼ばれています。

 

これらの物質は、人体や環境に蓄積されることで発がん性などの健康リスクが懸念されており、日本国内だけでなく世界的に規制の対象となりつつあります。

 

このような背景のなかで、PFASを正確に測定する技術は強く求められており、検査に使用される分析方法も日々進化しています。PFASの検査においては、極微量な物質を高精度に検出する必要があるため、極めて高感度な分析機器と、対象物に適した検査方法の選定が不可欠です。

 

そして、PFAS検査で用いられる代表的な分析方法としては、下記が挙げられます。

 

  • LC-MS/MS(液体クロマトグラフ質量分析法)
  • ガスクロマトグラフ質量分析法
  • 燃焼イオンクロマトグラフ法

 

ここからは、PFAS検査の代表的な分析手法について、それぞれの原理や特徴、使われる場面を解説していきます。

 

LC-MS/MS(液体クロマトグラフ質量分析法)

PFAS検査の現場で最も多く使用されているのが、LC-MS/MS(Liquid Chromatography-Tandem Mass Spectrometry)です。

 

この方法は、まず液体クロマトグラフィー(LC)によって混合物中の成分を時間差で分離し、それを質量分析装置(MS/MS)で高精度に検出・定量するという2段階の工程で構成されています。

 

LC-MS/MSの主な特徴は以下のとおりです。

 

  • 非常に高い感度でPFASを数ナノグラム/リットル単位で測定できる
  • 複数のPFASを同時に分析可能
  • 公定法やEPA分析法でも採用される
  • 飲料水、血液、環境水、製品、土壌など幅広い検体に適用できる

 

国内外の水道水や地下水のPFAS汚染などを調べるときには、LC-MS/MSによる検査が基本となります。また、住民の健康影響調査として血液中のPFAS濃度を測定する場合も、同様にこの手法が使われます。

 

ガスクロマトグラフ質量分析法

ガスクロマトグラフ質量分析法(GC-MS)は、本来は揮発性の有機化合物などの分析に用いられる手法ですが、PFASの一部にも応用されることがあります。

 

この方法では、検査対象を加熱して気化させ、そのガス成分を時間差で分離したうえで、質量分析装置で特定の化合物を同定・定量します。

 

ガスクロマトグラフ質量分析法の主な特徴は以下のとおりです。

 

  • 一部の低分子・揮発性PFASに適応している
  • 主に製品中のPFASの分解・放出量調査に使われる

 

調理器具や衣類、包装材などの製品から揮発・移行するPFASを検査する際にGC-MSが使われることがあります。一方で、一般的な水質検査や血液検査には向いていないため、あくまで限定的な用途での補完手段と考えるのが基本となります。

 

燃焼イオンクロマトグラフ法

燃焼イオンクロマトグラフ法(Combustion Ion Chromatography)は、対象物を高温で完全燃焼させ、その燃焼ガスに含まれるハロゲン化合物をイオンクロマトグラフィーで分析する方法です。

 

この方法ではPFASの個々の種類を識別することはできませんが、総フッ素量を測定することで、未知のPFASや非意図的添加物を含む包括的な評価が可能になります。

 

燃焼イオンクロマトグラフ法の主な特徴は以下のとおりです。

 

  • 未知のPFASも含めたすべての有機フッ素化合物を合算して評価できる
  • 製品検査・廃棄物処理・スクリーニング検査に適している

 

たとえば、工場から排出される処理水に含まれる未知のPFAS量を把握したい場合、LC-MS/MSでは検出対象外の物質が存在する可能性があります。燃焼イオンクロマトグラフ法を使えば、それらも含めた総フッ素量を把握することができます。

 

ただし、個々のPFASの種類や濃度はわからないため、詳細なリスク評価や規制対応にはLC-MS/MSなどとの併用が必要です。

 

PFAS検査には分析方法も重要になる

PFASの検査では、どの装置を使うかだけでなく、どの分析手順に基づいて検査を行うかも重要です。これはいわゆる「分析方法」と呼ばれるものであり、国や国際機関によって標準化されています。

 

ここでは、PFAS検査に用いられる代表的な分析方法である「EPA Method 537.1」「EPA Method 533」「公定法」「暫定測定法」について、それぞれの特徴や用途、注意点を詳しく解説します。

 

EPA Method 537.1

「EPA Method 537.1」は、アメリカ合衆国環境保護庁(Environmental Protection Agency)の定めるPFAS分析の標準手法の1つで、とくに飲料水中のPFAS測定に広く利用されています。

 

EPA Method 537.1の特徴としては下記が挙げられます。

 

  • LC-MS/MS(液体クロマトグラフ質量分析法)を使用するのが一般的
  • PFOS・PFOAを含む14種類のPFASを定量可能

 

この方法は、米国内の水道水のモニタリングや規制値の評価において、公式に採用されている手法です。前処理としては、ろ過・濃縮・内標準の添加などが定められており、再現性が高く、法的・科学的に信頼できる測定が可能です。

 

日本国内でも、このEPA Method 537.1に準拠して飲料水中のPFASを測定する検査機関が増えており、国際的な対応が求められる場面では、この手法の導入が望まれます。

 

EPA Method 533

「EPA Method 533」は、537.1と並ぶEPAのPFAS分析標準法で、短鎖PFASへの対応を強化した手法です。近年は長鎖PFASの代替品として短鎖PFASが利用されるケースが増えていますが、その一部にも環境残留性や毒性が指摘されています。

 

EPA Method 533の特徴としては下記が挙げられます。

 

  • LC-MS/MS(液体クロマトグラフ質量分析法)を使用するのが一般的
  • 約25種類のPFASに対応

 

Method 533は、PFECA(パーフルオロエーテルカルボン酸)やPFHxA(パーフルオロヘキサン酸)など、537.1では検出対象外だった新しいPFASにも対応できます。

 

公定法

日本国内でPFASを測定する際、基準となるのが環境省や厚生労働省が示している「公定法」です。これは、飲料水や河川水などの環境試料において、PFASを測定する際に推奨・準拠すべき手法として位置づけられています。

 

分析手法は主にLC-MS/MSであり、PFOS、PFOAが分析の対象物質となります。とくに、全国の自治体が水道水をモニタリングする際には公定法が採用されており、行政報告や住民説明の根拠データとして利用されることが多いです。

 

暫定測定法

PFASには数千種類以上があるとされ、しかもその多くは日本国内現在の法規制の対象外です。

 

こうした背景から、個別物質を特定するのではなく、フッ素を含む有機化合物の総量を測定する方法が注目されています。これが「暫定測定法」と呼ばれる考え方です。

 

暫定測定法では燃焼イオンクロマトグラフ法が主に使用されており、包装材、調理器具、衣類などの製品のフッ素を評価する際に採用されています。

 

この方法では、個別のPFAS名を挙げることができませんが、未知のPFASや代替PFASを含む全体像を捉えることができます。そのため、実務上は、「燃焼イオンクロマトグラフ法でフッ素が出た際にはLC-MS/MSで詳細分析へ」といった対応が採用されるのが一般的です。

 

PFAS検査・分析は検査対象によって方法が異なる

PFASは、空気中から水、土壌、製品、さらには人間の血液まで、非常に広範な環境に存在する可能性があります。そのため、検査の対象となるものも多岐にわたり、検査対象が異なれば最適な検査方法も変わります。

 

たとえば、飲料水に含まれるPFASの検査と、土壌に含まれるPFASの検査とでは、採取方法や前処理の工程などが異なります。検査対象に合っていない方法で測定を行えば、正確な数値が得られなかったり、そもそも検出できなかったりすることもあるのです。

 

ここからは、「飲料水・環境水」「土壌・廃棄物・沈殿物」「製品」「生体試料」ごとに、PFAS検査の方法を解説していきます。

 

飲料水・環境水のPFAS検査

PFASの検査対象として最も重要視されるのが飲料水や河川水、地下水などの環境水です。とくに飲料水については人体への直接的な摂取が想定されるため、極めて微量な濃度でも正確に検出できる方法が求められます。

 

そのため、非常に高い感度で測定できるLC-MS/MSが使用されるのが一般的であり、EPA Method 537.1、533、日本の公定法が分析方法として採用されています。

 

土壌・廃棄物・沈殿物のPFAS検査

PFASは地中に浸透して地下水を汚染するおそれがあるため、土壌や廃棄物の検査も欠かせません。また、工場や埋立地などでは、PFASを含む沈殿物が蓄積している場合もあります。

 

そのため、高い精度で測定できるLC-MS/MSだけでなく、未知のPFASも検知可能な燃焼イオンクロマトグラフ法が使用されるのが一般的です。

 

調理器具・食品包装・衣類といった製品のPFAS検査

PFASはその撥水性・耐油性から、長年にわたりフライパン、クッキングシート、紙カップ、アウトドアウェアなど、さまざまな製品に使用されてきました。製品検査は、製造時の品質管理や、輸出入時の安全性確認、PFAS非含有の証明を目的に行われます。

 

そのため、LC-MS/MSによって高精度なPFASの分析だけでなく、揮発性のあるPFASや未知のPFASに対応できる「ガスクロマトグラフ質量分析法」「燃焼イオンクロマトグラフ法」も使用されるのが一般的です。

 

血液・尿などの生体試料に対するPFAS検査

PFASは摂取されると血液中に吸収され、長期間にわたって体内に蓄積されることが知られています。健康被害の調査や疫学研究の現場では、血液や尿などの生体試料を使った検査が行われます。

 

この場合、高精度な検査が求められるため、LC-MS/MSが使用されるのが基本となります。

 

PFAS検査の一般的な流れ

PFASの検査は、極めて微量な物質を高精度で測定する必要があるため、一般的な化学検査よりも工程が多く、専門的な知識や設備が求められます。対象によって細かな手順は異なりますが、基本的な流れには共通点があります。

 

あくまで目安にすぎませんが、PFAS検査は下記のような流れで行われるのが一般的です。

 

流れ 概要
①検体の採取(サンプリング) PFASは極めて微量で検出されるため、採取容器や手順にわずかな汚染があっても、結果が誤差を含む可能性がある。
検査の精度は、最初の「サンプリング」に大きく左右されるとも言えるため、「フッ素樹脂製器具は使用しない」「飲料水や環境水の場合、冷蔵保管・迅速な輸送が必要」といった注意が必要になる。
②前処理(抽出・濃縮・精製) 採取した検体は、そのままでは分析できないため、必要な成分だけを取り出して測定に適した状態にする「前処理」が必要。
◯前処理の代表例
・飲料水:固相抽出(SPE)でPFASを濃縮
・血液:タンパク質除去+濃縮
・土壌・製品:有機溶媒による抽出、加熱分解処理など
③分析(測定) 前処理が完了すれば分析装置での測定に進む。前述したように、「LC-MS/MS」「燃焼イオンクロマトグラフ法」「ガスクロマトグラフ質量分析法」といった方法で行われる。
④データ解析・品質管理 装置から得られた測定データから、すぐに結論が出せるわけではない。検出した成分が本当にPFASであるかどうかを確認し、既知のPFASと照合して正確な濃度に換算するための解析作業が必要になる。
⑤結果報告・考察 最後に、測定結果がまとめられた報告書が作成され、依頼者に提供されます。
報告書には通常、「分析方法(EPA Method 537.1など)」「検出下限値と不検出の扱い」「測定結果の考察」などが記載されます。

 

当社が実施するPFAS検査について

株式会社 食環境衛生研究所では、「食環境の検査・分析を通じて 「食」の安全な未来を守る」という理念のもと、さまざまな成分の検査・分析を実施しております。

 

PFASについては水質・血液・農畜水産物を主に検査・分析が可能ですので、PFASの検査・分析を行いたい場合には検討してみてください。

 

なお、弊社が実施しているPFAS検査について、費用や分析方法などをまとめましたので参考にしてみてください。

 

◯PFAS水質検査・分析(飲料水及び河川水等)

検査項目 分析方法 検査期間 必要量 料金(税込)
PFOS及びPFOA 水質検査・分析(飲料水及び河川水等) LC/MS/MS法 10 営業日 1000 mL 28,600円
PFOS、PFOA及びPFHxS水質検査・分析(飲料水及び河川水等) LC/MS/MS法 10 営業日 1000 mL 30,800円
PFOS、PFOA、 PFHxS及びPFNA水質検査・分析(飲料水及び河川水等) LC/MS/MS法 10 営業日 1000 mL 41,800円

 

◯PFAS生体成分検査・分析(血液・血漿・血清)※診療目的以外に限る

検査項目 分析方法 検査期間 必要量 料金(税込)
PFOS及びPFOA 生体成分検査・分析(血漿・血清) LC/MS/MS法 10 営業日 血漿・血清:1mL 33,000円
PFOS、PFOA、PFHxS及びPFNA 生体成分検査・分析(血漿・血清) LC/MS/MS法 10 営業日 血漿・血清:1mL 44,000円
PFOS及びPFOA 生体成分検査・分析(全血) LC/MS/MS法 10 営業日 血液:2mL 34,100円
PFOS、PFOA、PFHxS及びPFNA 生体成分検査・分析(全血) LC/MS/MS法 10営業日 ※血液の場合は処理費用として別途1,000円 血液:2mL 45,100円

 

◯PFAS生体成分検査・分析(ろ紙採血法)【個人様向け】※診療目的以外に限る

検査項目 分析方法 検査期間 必要量 料金(税込)
【個人様用】PFOS及びPFOA 生体成分検査・分析(血液:ろ紙採血法) LC/MS/MS法 15 営業日 血液1滴~ 37,400円
【個人様用】PFOS、PFOA、PFHxS及びPFNA 生体成分検査・分析(血液:ろ紙採血法) LC/MS/MS法 15 営業日 血液1滴~ 48,400円

 

◯PFAS農畜水産物検査・分析(卵・牛乳・肉・魚・生鮮野菜など)

検査項目 分析方法 検査期間 必要量 料金(税込)
PFOS及びPFOA 農畜水産物検査・分析(牛乳、卵、魚、肉、生鮮野菜など) LC/MS/MS法 10 営業日 100g 44,000円
PFOS、PFOA、 PFHxS及びPFNA 農畜水産物検査・分析(牛乳、卵、魚、肉、生鮮野菜など) LC/MS/MS法 10 営業日 100g 60,500円

 

※弊社が行うPFAS検査の詳細については、こちらを参考にしてみてください。

 

まとめ

PFASは、分解されにくく、生体や環境中に長く残る性質を持つことから、世界的にその検出と管理が強く求められるようになってきました。

 

日本国内でも、水道水や製品、土壌、血液など、多様な対象に対してPFAS検査が実施されるようになり、検査結果をもとに健康リスクや法令対応を判断する場面が増えています。

 

PFAS検査では、LC-MS/MSやCIC法といった分析が使用されますが、それだけで検査の信頼性が確保されるわけではありません。実際には、EPA Method 537.1や533、日本の公定法といった分析手順に準拠して行われることで、初めて検査・分析の結果に客観性を持たせられます。

 

また、飲料水、土壌、製品、血液といった対象ごとに、検査方法や前処理の手順は異なります。たとえば、飲料水ではナノグラム単位の精密な定量が必要ですが、製品では未知のPFASを含む総フッ素量の把握が求められることもあり、目的に応じた方法の選定が重要となります。

 

PFAS検査は、科学的・技術的なハードルが高い分野ではありますが、その一方で信頼できる検査機関と連携することで、的確な評価と対策が可能となります。正しい知識に基づいた検査を行うためにも、専門的な知識や技術を持つ検査機関に依頼するのがよいでしょう。

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