サルモネラ・エンテリカと血清型
一般的に「サルモネラ菌」というと、サルモネラ属の菌全般を指すことが多いが、ヒトの食中毒や家畜における「サルモネラ症」と言えばSalmonella enterica が主役である。
このSalmonella entericaという細菌だが、6つ亜種(subspecies)グループに分けられ、このうち、Salmonella enterica subsp. entericaというグループが食中毒とサルモネラ症の原因のほとんどを占めているとも言われている。さらにSalmonella entericaには血清型(serover)というものがあり、Salmonella enterica subsp. entericaの血清型には固有の名称が与えられている。
この血清型であるが、サルモネラ属菌を語る上で非常に重要なものであり、O抗原とH抗原の組み合わせにより決定されるが、なんと2500種類以上にも及ぶ。更に、このうち固有名が与えられている、つまりSalmonella enterica subsp. entericaの血清型は全体の6割以上を占めている。
O抗原は細胞壁由来の抗原(リポ多糖抗原)であり通常1つの主抗原の他に1つまたは複数の複抗原を持っている。現在1~67までの抗原確認されており、O2群〜O67群までの45群に区別されているが、日本国内において血清型同定試験で広く利用されている免疫血清は検出率の高い主抗原15種で、全てを網羅しているわけではない。したがって、現場ではどうしても「O群あるいはO1群のどちらかである。」という判定になってしまうことがある。そして、これらの菌との遭遇は畜産分野の環境検査において、決して珍しい事ではないので、判定の度、我々の頭を悩ませるのである。
H抗原は鞭毛を構成するたんぱく抗原であり、サルモネラ属の細菌は1種類しか持たない単相菌、2種類持つ複相菌が存在している。複相菌におけるそれぞれの抗原を1相H抗原、2相H抗原などと呼ぶ。複相菌は2種の鞭毛を発現する能力を持ってはいるが、1個体において両方の鞭毛を発現させることはない。この発現の切り替えは可逆的であり、サルモネラ属細菌において、正常な状態で常に生じる現象である。
また、「1」相、「2」相と優位性があるような表記の仕方であるが、彼らにとっては集団内での相の割合に左右されているだけのものであり、優劣は持っていないようである。そして、集団内で常に多様性を持たせることにより、宿主の免疫細胞や環境変化により全滅を防ぐといった役割を果たしている。
O抗原・H抗原とサルモネラの病原因子の相関は基本的に無い。しかし、一部のサルモネラ属細菌では、特定の病原因子とO抗原群がセットで安定して継承されやすいという解釈例も存在している。定性検査に加えて血清型同定を実施することにより、農場にいるサルモネラ属菌の動態も判り有益であるため、モニタリングしてはいかがだろうか。