食品添加物の表示省略「キャリーオーバー」について解説
私たちが日々購入する食品のパッケージの裏には、必ず原材料名や食品添加物が細かく記載されています。
これは、消費者が食品の安全性や内容を正しく理解し、選択できるようにするための大切なルールです。
しかし、実は記載が「省略されている」食品添加物があることをご存知でしょうか?
「食品添加物なのに表示しなくていいの?」「安全なの?」「免除表示の判断は誰がおこなうの?」
こちらのコラムでは、食品添加物の表示が免除される主なケースと、キャリーオーバーとその判断基準、キャリーオーバーの具体例などについて解説します。
目次
食品添加物表示の「基本ルール」をおさらい
食品表示法に基づき、食品に使用した添加物は、原則としてすべて表示する義務があります。
これは、消費者が食品を選択する際に必要な情報(アレルギー物質、健康への影響、加工の程度など)を欠落させないようにするためです。
表示は、「物質名」(例:キシリトール)や、「用途名」+「物質名」(例:着色料(赤色102号)、酸化防止剤(V.C))という形で記載されます。
表示が「免除」される主なケースは?
食品添加物の表示が免除されるのは、主に、「最終食品において、その添加物が効果(保存、酸化防止など)を及ぼしていない」と判断される場合です。
代表的な表示免除のケースを見てみましょう。免除される主なケースについて具体的に説明していきます。

キャリーオーバー
食品の原材料の加工の際に食品添加物が使用されているが、その原材料を用いて製造される食品には使用されず、最終食品には原材料から持ち越された添加物が効果を発揮することができる量より少ない量しか含まれていないもの
加工助剤
食品の加工の際に食品添加物が使用されていても、以下のいずれかに該当する場合は「加工助剤」として扱われ、表示が免除されます。
・完成前に除去されるもの
・その食品に通常含まれる成分に変えられ、その量を明らかに増加されるものではないもの
・食品に含まれる量が少なく、その成分による影響を食品に及ぼさないもの
キャリーオーバーの定義
キャリーオーバーとは、直訳の通り「持ち越されたもの」を意味します。
厚生労働省では、キャリーオーバーの定義を以下としています。
「原材料の加工の際に使用されるが、次にその原材料を用いて製造される食品には使用されず、その食品中には原材料から持ち越された添加物が効果を発揮することができる量より少ない量しか含まれていないもの。」

※せんべいの味付けに使用される醤油に、安息香酸(保存料)が含まれていたとしても、最終食品となるせんべいに、その安息香酸(保存料)が効果を発揮しないのであれば、安息香酸(保存料)はキャリーオーバーとみなされます。
キャリーオーバーの条件

以下の全てに該当する場合は「キャリーオーバー」として扱われ、表示が免除されます。
・食品の原材料の製造または加工の過程において使用される。
(原材料に対して使用が認められている。)
・食品の製造または加工の過程において使用されない。
・食品中には当該物が効果を発揮することができる量より少ない量しか含まれていない。
ただし、着色料、香料、調味料、甘味料など、食品の色、香り、味といった五感に訴える性質をもつものは、最終食品中の含有量が微量であったとしても、最終食品の品質(味覚や視覚など)に効果を与えるものとみなされ、キャリーオーバーとはみなされません。
キャリーオーバーの判断

食品表示の目的は「消費者が食品の品質や安全性に影響を与える情報を得るため」にあります。キャリーオーバーとして持ち込まれた添加物は、最終食品の製造または加工の過程を経ることでその効果を失っているため、消費者がその食品の選択や安全性を判断する上で、情報としての価値を持たないとみなされるためです。
判断基準
キャリーオーバーと認められ、表示が免除されるための判断基準は以下のとおりです。
・最終食品で添加物として効果を発揮しないこと
・最終食品への添加量が、効果を発揮できる量よりもごくわずかであること
最終的な判断と責任
キャリーオーバーによる表示免除には、一律の数値基準は設けられていません。
そのため、その食品を販売する食品メーカーにゆだねられることとなります。
メーカーは、客観的な根拠等に基づき判断をし、その責任を負うこととなります。
キャリーオーバー表示免除の具体例
例:ちくわ
原料である魚のすり身を冷凍保存するために酸化防止剤を使用
→そのすり身を原材料として「ちくわ」を製造
ちくわ自体の酸化防止は、製造時の加熱殺菌や真空パックなど別の工程によってなされており、持ち越された酸化防止剤が「ちくわ」に効果を与えていないときは表示が免除
例:惣菜パン
パンの具材の一部に使用されるマヨネーズに、品質保持のためにpH調整剤を使用
→そのマヨネーズを「惣菜パン」の具材に使用
惣菜パンの品質保持は、主にパン生地自体の配合や焼成工程、包装、あるいは販売時の温度管理(冷蔵など)によるもので、具材の一部に使用されたマヨネーズから持ち越されたpH調整剤が「惣菜パン」に効果を与えていないときは表示が免除
まとめ
食品添加物の表示免除は、決して情報を隠すためのものではなく、消費者に「その食品の品質を左右する重要な情報」を正しく、かつ分かりやすく伝えるための合理的なルールです。
キャリーオーバーによる表示免除は、最終食品において、原材料から持ち越された食品添加物が効果を失い、消費者が食品の選択や安全性を判断する上で、情報としての価値を持たないとみなされるためです。
この判断には一律の数値基準がないため、最終的な判断と責任は各食品メーカーにゆだねられています。
私たちが手にする食品のラベルには、こうしたルールに基づいた「情報の整理」が行われています。表示の仕組みを正しく知り、より納得感を持って食品を選べるようにしていきましょう。
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