養豚界 8月号

皆様、夏バテで調子を崩していませんか?豚は餌を食べられていますか?水はちゃんと出ていますか?ピッカーから出ている水が温かくなっていませんか?餌箱の隅の餌が傷んでいませんか?その傷んだ餌をもったいないからといって他の豚に食べさせていませんか?飼料タンクの在庫確認をまめにチェックしていますか?雄豚の精子を顕微鏡でチェックしていますか?購入精液だからといって顕微鏡でのチェックを怠っていませんか?普段から生き物相手の仕事ですから様々な?マークが頭をよぎると思いますが、夏の管理はいつも以上に気を使う事が多いと思われます。
ここ数年来、枝肉相場は単月でみると6月に高値がつく傾向があります。ということは、逆算すると12月分娩の子豚が少ない、ということは8月種付けに問題がある・・・と、一概には言えませんが大きな要因のひとつだと思われます。書くのは簡単ですが、亜熱帯地方並の夏を乗り切る事は容易ではありません。確か日本は温暖湿潤気候でしたよね?通常の夏を乗り切るのも大変なのに、今年の夏はもうひとつ不安要素があります。電力需要の増加に伴う停電です。筆者の担当エリアは3月の震災直後に「計画停電」を経験した地域なので、養豚場(養豚場だけではないですが)での停電は、空調機器はもちろん給水や給餌等、はたまたインキュベーターやAIルームの温度管理まで多岐にわたり不都合が発生することを実感させられました。計画停電当時の3月下旬は、寒い日が続いていたので、ウインドレス豚舎はドアの開閉調節程度で問題はなかったようですが、真夏のウインドレス豚舎の停電を考えると・・・
ウインドレス豚舎だけでなく、ファンが止まった肉豚舎やオガ粉豚舎も、命に関わる過酷な状況となる事は容易に想像がつきます。筆者のクライアント農場でも発電機を発注した方が数名いらっしゃいますが、日本全国が混乱しているこの状況下では、いつ納品になるか分からないのが現状です。この号を執筆中は、夏の計画停電が実施されるかどうか分かりませんが、企業や工場そして一般家庭でも節電に対する関心が高まっておりますし、どうにか回避されるのではないかとポジティブな筆者は思っておりますが、この号を読まれている時、計画停電の真っ最中だったらすみません。
さて、連載第4回目となりました今回のテーマは最近すっかり聞き馴染んできたローソニアにまつわる事例をご紹介いたします。

 

農場背景
関東地方 母豚120頭1貫経営農場 自家育成農場 家族労働

 

農場形態
種豚舎 分娩舎(OP) 離乳舎(OP)
肥育舎 肉豚舎(オガ粉豚舎)

 

稟告
弊社とは以前からお付き合いしていただいている飼料販売店の営業担当者さんからの電話で、この農場の疾病に関する相談がありました。「とにかく下痢で困っている」というような内容だった事を覚えております。又聞きでは要領を得ないので、その農場に直接伺うことにしました。始めて伺う農場なので少し時間をいただいて農場の状況確認をさせていただきました。数ヶ月前から下痢症状が散発し、斃死する頭数も徐々に増加傾向にあったので出入りの業者さんに相談したところ、「ローソニア」かもしれないからと「マクロライド系」の添加剤を勧められ、発生ステージに投薬したそうです。確かに投薬後は下痢症状がやや緩和されたようでしたが、切れ味がイマイチだったので餌屋さんに相談したようでした。
発生ステージは、離乳舎から肥育舎のオガ粉豚舎に移動した後の70日齢位から100日齢位の間で発症しているとの事でした。

 

発生状況のまとめ
発症ステージ:生後70日齢~100日齢(オガ粉豚舎移動後)
症状:泥状便や水様便、血便が散見 発育不良や死亡豚の増加

 

検体内容
検体①:約70日齢下痢便
検体②:約80日齢死亡豚
検体③:約80日齢鑑定殺

 

解剖所見
検体②
・ 腸管の萎縮
・ 胃内出血
・ 結腸内容物血様、粘膜剥離
検体③
・ 腸管の萎縮
・ 胃内出血(剖検時、オガ粉が詰まっていた)

 

検査結果
薬剤感受性

 

考察
ここまで複数の病原菌や寄生虫が検出されることは稀ですが、これは実例です。
下痢症状、特に血便や灰色便(泥状便)が発生していた為に「ローソニア」と判断したまではよかったのですが・・・
これほど複合感染しているのですから、「ローソニア」の特効薬と位置づけれられている「マクロライド系」の抗生剤を添加しても切れ味が悪く、添加しないよりマシ程度の効果しか現れなかったのでしょう。
しかし、今回のような事例は少なくありません。実際、子豚肉豚の下痢や血便を検査すると「ローソニア」の検出は弊社でも多いですし、全国的に被害を受けている農場も多いと聞きます。但し、その原因が「ローソニア」単独ではなく、複合感染している場合も多々あります。今回のような、鞭虫や条虫などの内部寄生虫との混合感染やクロストリジウムなどの病原菌との混合感染が多いようです。
問診で判明したことですが、この農場は駆虫対策をしばらくの間実施していなかったとの事でした。

 

改善提案
検査結果をご覧になっていただければ分かっていただけると思いますが、1つの検体から4~5種類もの細菌やウイルス、寄生虫が検出されてしまったので、ゴチャゴチャした報告書になる事を避けるために、まずは検出された疾病毎に効果のある薬剤をまとめました。

① コクシジウム⇒サルファ剤(スルファジメトキシン、スルファモノメトキシン)
② ローソニア⇒タイロシン、リンコマイシン、チアムリン、バルネムリン等
③ サルモネラ⇒CTC、アンピシリン、アモキシシリン等(当社薬剤感受性を基に)
④ クロストリジウム⇒CTC、アンピシリン、アモキシシリン等(当社薬剤感受性を基に)
⑤ バランチジウム⇒テトラサイクリン系等
⑥ スピロヘータ⇒リンコマイシン、チアムリン等
⑦ 鞭虫⇒ドラメクチン、イベルメクチン、フェンベンダゾール等

検出された7種類の疾病に対し全ての薬剤を使用すると大変なので、上記の検出された疾病対策の特徴と現場の発生状況を踏まえ、農場で使用する抗生剤を選択いたしました。
(1) 繁殖豚対応(クリーング及び垂直感染予防)
抗生剤等使用薬剤(CTC、チアムリン、イベルメクチン)
1.導入豚(候補豚)へのスポット投薬
2.分娩舎:分娩前後のスポット投薬
3.ストール舎:定期的なスポット投薬(この農場では10月、1月、4月、7月の年4回実施)
4.定期的なイベルメクチン製剤の投薬(種雄も含め)
(2) 子豚対応
抗生剤等使用薬剤(CTC、チアムリン、サルファ剤、フェンベンダゾール)
1.人工乳後期飼料にスポット投薬(CTC、チアムリン、サルファ剤)
2.発症ステージ仔豚期飼料にスポット投薬(CTC、チアムリン、フェンベンダゾール)※鞭虫駆除の場合はフェンベンダゾールを3週間添加
3.重症子豚の場合はイベルメクチンの接種
(3)その他管理
1. 消毒剤の変更(芽胞菌対策)
2. 分娩舎の糞掃除を毎日実施
3. 分娩舎の洗浄を徹底し、乾燥させる期間を出来るかぎりとる
4. オガ粉豚舎の敷料はオールアウトし、豚房の石灰消毒の実施

 

総括
この農場では発生ステージが、オガ粉豚舎に移動してからの発症が顕著だったので、敷料の管理を改善していただきました。こちらの農場では、豚がオールアウトした後に汚れの酷い上層部分(3分の1程度)のみ敷料を取り出して、その上に新しい敷料を入れていました。昨今、敷料の価格が上昇傾向にあり、良質なものを選ぼうとすると、更にコストは上がってしまう為に2~3年前からオールアウトしなくなったそうです。確かに、このご時勢コストアップは厳しいとは思いましたが、農場主と相談して敷料のオールアウトを実施することにしました。そして、しばらく実施していなかった駆虫対策も早急に対応していただきました。投薬初期の段階に、既に発症の影響を受けていた、つまりは手遅れな豚が数頭死亡しましたが発生数は徐々に減少しました。抗生剤以外の環境対策も早急に対応していただいたからだと思われます。
オガ粉豚舎は尿処理問題においてメリットがあります。しかしながら、オガ粉豚舎は”敷料が命”といわれるほど、敷料の状態に豚が影響される事も事実です。『豚』『餌』『豚舎』『従業員』それぞれの長所と短所を把握し、その特性を活かすも殺すも『使い手(経営者)』次第です。

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