細菌の倍化時間とは何かを解説
細菌が1つの細胞から2つの細胞に分裂するのにかかる時間を倍化時間 (Doubling Time) と言います。
これは菌種、培養条件によって異なります。
菌種 | 生育至適温度 | 倍化時間 |
---|---|---|
大腸菌 | 37℃ | 約20分 |
カンピロバクター | 42℃ | 約50分 |
腸炎ビブリオ | 37℃ | 約10分 |
上に示した3菌種を至適培養条件下で1時間培養した場合、大腸菌は約8倍、カンピロバクターは約2倍、腸炎ビブリオは約64倍に増殖します。細菌検査における培養時間は、この倍化時間を参考にして定められており、大腸菌の場合は一晩培養すれば液体培地では十分な濁り、寒天平板培養では十分視認できるサイズの集落の形成を確認することができます。一方、倍化時間の長いカンピロバクターは一晩の培養では十分に増菌できなかったり、寒天平板培養では集落が出現しない、あるいは集落が小さすぎてカンピロバクター特有の形状を確認することが困難になったりします。そのため、カンピロバクターは2日間培養することが一般的になっています。
細菌検査における注意点
糞便系大腸菌群 (E. coli)
EC発酵管という培地に試料液を添加して44.5℃という高温で培養し、温度による選択増菌とガス産生の確認によって糞便系大腸菌群はスクリーニングされます(44.5℃では多くの細菌は増殖出来ません)。この糞便系大腸菌群には大腸菌が含まれますが、生育至適温度である37℃からかけ離れた44.5℃という温度は大腸菌にとってもやや過酷な環境であり、倍化時間が大きく伸びてしまいます。そのため、試料液に存在する大腸菌が少ない場合(例えば10未満)、一晩培養では培養液の濁りが弱くダーラム管内にガスが確認できないこともあるので、糞便系大腸菌群の最終判定は2日培養してから行う必要があります。
腸炎ビブリオ
最も増殖速度が速い細菌の一つである腸炎ビブリオ (Vibrio parahaemolyticus) は、生育至適温度では活発に分裂しますが、高温にも低温にも弱く、100℃で数分間加熱することによって死滅し、4℃ではほとんど増殖できずに徐々に死滅します。弊社では培地性能試験で用いる標準菌株として腸炎ビブリオを扱っていますが、筆者は以前誤って腸炎ビブリオを生やした寒天培地を4℃に保管してしまったことがあります。そのときは短期間 (たしか4~5日ほど) で寒天培地上の全集落が死滅してしまいました。腸炎ビブリオの標準菌株を短期間維持するとき、あるいは腸炎ビブリオが疑われる集落を確認試験に用いるために一時的に維持するときは、冷蔵ではなく常温で保管することをお勧めします。
低温には弱い腸炎ビブリオですが、食材を冷蔵・冷凍で長期間保存すれば腸炎ビブリオの食中毒を防げるというわけでは無いので、十分ご注意ください。
最後に
細菌も人と同じ生き物です。細菌検査の際には、検査対象の細菌が快適に過ごせるように温度や食事 (培地成分) に十分配慮してあげましょう。
食品の細菌・ウイルス検査