標識抗体について

抗体の標識とは

イムノアッセイ(抗体が特定の抗原に特異的に結合する性質を利用した検出方法)で用いられる。
抗体を検出するため、抗体に特定の目印を化学的に結合させる工程のことを言います。
 
標識の種類には以下のものがあります。

  • 蛍光標識
  • 特定のタンパク質や細胞に蛍光の目印をつけます。 

  • 酵素標識
  • 酵素を結合させた抗体に基質を反応させ、発光や発色で検出します。

  • ビオチン
  • 水溶性ビタミンB群のひとつ。アビジン(タンパク質)と強く結合します。
    ビオチンを標識した抗体に、色素や酵素、蛍光物質を標識したアビジンを反応させて検出します。
     

    発光物質
    蛍光標識蛍光色素(FITC,AlexaFluorなど)
    蛍光タンパク質(PE(Phycoerythrin),APC(Allophycocyanin)
    酵素標識ペルオキシダーゼ(HRP)
    アルカリフォスファターゼ(AP)

     
    検出方法には以下のものがあります。

    手法利点欠点
    直接法一次抗体に直接標識する方法
  • 作業時間を短縮、実験手順の簡略化
  • 二次抗体による非特異染色がない
  • 多重染色が容易(発光標識)
  • 直接標識する手間が発生する
  • 標識操作により抗体が失活する可能性がある
  • 間接法標識された二次抗体を用いて特異的に一次抗体を検出する
  • 特異的一次抗体を検出するため、統一した二次抗体を使用でき、汎用性が高い
  • 一次抗体に対して複数の二次抗体が反応するため、シグナルを増幅する事が出来る
  • 直接法よりも作業時間が長い
  • 二次抗体は一次抗体やサンプルに対して交差反応や非特異反応が起きやすい
  • 増感法一次抗体をビオチン化し、標識したアビジン(ビオチン-アビジン複合体)で検出する
  • 特異的に一次抗体をビオチン化しておけば状況に応じた検出系を選択でき、汎用性が高い
  • ビオチンは低分子のため、抗体に複数標識が可能となり高感度な検出が可能
  • 内因性ビオチンなどによる偽陽性が生じる可能性がある
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    標識物の結合方法

    抗体のアミノ基(NH2基)に結合する方法
    アミノ基を持つアミノ酸の中で、反応性が高く標識の対象となるのはリシンです。ペプチド結合を形成しないN末端にあるアミノ基にも標識をつける事ができます。アミノ基は一般的なタンパク質や抗体には数多く存在し、標識しやすい特徴があります。
     
    抗体のアミノ基(NH2基)に結合する方法
     
    抗体のチオール基(SH基)に結合する方法
    抗体のチオール基(SH基)を持つアミノ酸(システイン)に標識する方法です。
    標識可能な箇所はヒジン領域となります。抗体を2-メルカプトエタノール(2-ME処理)で還元し、ヒンジ領域を切断します。還元抗体のSH基に蛍光物質や酵素がついたマレイミド基を結合させます。
     
    抗体のチオール基(SH基)を持つアミノ酸(システイン)に標識する方法
     
    非特異反応を軽減させる方法
    非特異反応を軽減させる方法
     
    標識抗体のFc部位を除去する方法があります。
    Fc部位を除去した標識抗体を二次抗体に用いると、Fc受容体による非特異反応を減らすことができます。
     
    標識抗体のFc部位を除去する方法
     
    パパインで分解された抗体の断片について、Fab部位のFabは「ファブ」と読みFragment antigen bindingの略です。抗体結合部位はヒンジ部位を含みません。Fc部位は「エフシー」と読みFragment crystallizableの略となります。
    ペプシン分解による抗体の断片については上記のFab部位とは区別するため、F(ab’)「ファブプライム」と読み、F(ab’)がヒンジ部位にて2つ結合した状態のものをF(ab’)2「ファブツープライム」と読みます。
     
    Fab:1つの抗原結合部位をもつ1価の分子。分子量が小さいため組織浸透性が高く、抗原分子に接近しやすい。Fabはヒンジ部位を含まずSH基を持たないため、アミノ基を使用した標識を行う必要がある。
    F(ab’)2: 2つの抗原結合部位をもつ2価の分子。フルサイズの抗体と同じ、完全な抗原結合能力を持っている。免疫沈降に使用できる。      
    F(ab’) : F(ab’)2を還元して得られる。 1つの抗原結合部位をもつ1価の分子。分子量が小さいので組織断片などに浸透しやすい。ヒンジ部位を含むためマレイミド法による標識が可能。
     

    標識抗体の命名法

    標識抗体の命名には宿主側の種名と抗原側の種名の両方が使用されます。抗体名の最初に付く動物名は宿主の種で、抗体が生産された種を指しています。Antiの後に付く動物名はその抗体が認識する種を指します。例えば「Rabbit F(ab’)2 Anti-Pig IgG」の場合、「ブタ免疫グロブリンに対して生産された、ウサギ由来のF(ab’)2抗体」となります。「IgG H+L(HPR)」と標記がある場合、HおよびLはIgGの重鎖と軽鎖を指し、IgGのサブクラス(IgG1~IgG 4)全てを認識できる二次抗体を指します。「HRP」は抗体にHRPを結合させていることを示します。
     
    ELISAで使用される主な酵素標識抗体は下記の種類があります。
     

    酵素標識基質備考発色吸光度
    ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)TMB(3.3′,5.5′-テトラメチルペンシジン)過酸化水素およびペルオキシダーゼの存在下で酸化する。他のHPR基質より速度が早いため短時間で発色可能青緑色370mmおよび652mm
    1~2Mの硫酸を加えることで色を青から黄色に変色し、吸光度を倍増することも可能。黄色450mm
    ABTS(2.2′-アジノビス[3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸]-ジアンモニウム塩)OPDやTMBよりも低い感度を持つ。OPDまたはTMB基質を使用するとバッググラウンドが高すぎる場合にはABTSが有用緑色410mmおよび650mm
    OPD(o-フェニレンジアミンニ塩酸塩)毒性(発がん性など)のおそれがあるので取り扱いに注意。橙黄色492mm
    アルカリフォスファターゼ(AP)PNPP(p-ニトロフェニルリン酸)ホスファタローゼはpNPPの加水分解を接触し無期化合物のリン酸と共役塩基のp-ニトロフェノールを生成する。黄色405mm

     
    イムノアッセイの性格により、より適した標識抗体の選択が重要となります。
     

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