豚胸膜肺炎|症状・感染経路・予防方法を解説します

豚胸膜肺炎はActinobacillus pleuropneumoniae (以下App)によって引き起こされる感染症です。
世界各国で多発し、養豚産業に甚大な経済的損失を与える豚の重要な呼吸器系疾患です。
 

症状

初期症状

結膜炎やアイパッチ(涙により埃・泥などの汚れが体毛に付着し、生じる黒い斑点)を示すことが多くみられます。
 

甚急性型

1~数頭が突然の元気消失・食欲廃絶して横たわり、体温は41.5℃程度に上昇します。下痢と嘔吐が短期間認められることが多いです。発病当初は呼吸器症状は顕著ではありませんが、末期には呼吸困難となり開口・腹式呼吸となります。鼻腔や口より血液を混じった泡沫状の分泌物が認められ、鼻端、耳、四肢(末期には全身)にチアノーゼを示し、24~36時間以内に死亡します。
 

急性型

1群の多くの豚が発病します。臨床症状は甚急性型とほぼ同様ですが、発熱は40.5℃~41℃に
とどまり、2~3日の経過で死亡するもの亜急性から慢性に移行するものなど様々です。
 
亜急性型・慢性型:急性型に耐過したあと認められ、湿性の発咳や食欲の減退からの発育不良が表れます。慢性症状を示す豚群では、不顕性感染豚(感染が成立していながら臨床的に確認しうる症状を
示さない。無症状感染。)が存在し、キャリアーとなってしまうので注意が必要となります。
 
病変は肺に限局します。急性経過で死亡した豚では、肺全体に出血病変が強く、表面に線維素が析出していることがあります。慢性に移行した豚では肺の全面に線維素が析出したり、肺の後葉に膿瘍の固まりが認められることがあります。
初めてAppに侵された群では致死率が高く、慢性化すれば発育の遅延・飼料要求率の上昇が認められるなど経済的被害が大きくなる疾病です。
 

豚胸膜肺炎(App)

莢膜を保有するグラム陰性の短桿菌で、しばしば多形性を示します。Appの自然宿主は豚のみと考えられており、豚の鼻腔、扁桃または肺に定着しています。環境中には長期間生存できません。
 
Appは莢膜の抗原性の違いに基づき、15の血清型が存在します。日本では2型の感染が主で次に1型、5型の発生が多いです。1型は強毒株で症状が重く、また薬剤耐性も出現しやすい特徴を持っています。
 
Appの病原性には外毒素(AxpⅠ、 AxpⅡ、 AxpⅢ )が関与し、血清型により産生する毒素が異なります。Appはこの外毒素により、肺胞マクロファージを殺滅することで容易に肺を侵襲します。また全ての血清型に共通する外膜タンパク(OMP)も抗原となります。
 

血清型Apx毒素因子OMP
ApxⅠApxⅡApxⅢ
1+++
2+++
3+++
4+++
5a、5b+++
6+++
7++
8+++
9+++
10++
11+++
12++
13++
14++
15+++

 

感染経路

不顕性感染豚や感染豚の鼻汁やエアゾルを介して、または豚同士の接触により感染します。
空気感染は短い距離(1~2.5m)では可能です。感染率は低いですが、感染母豚から哺乳豚への垂直感染も起こります。発症は肥育舎に移動してからの温度の急変によって発症することが多く、密飼や喚起不良、ストレスあるいは他の病原体との混合感染などにより症状の悪化が見られます。
 

予防・対策

肺炎発症の環境要因として温度差が一番重点をおく部分となります。温度の次に重要な要因は湿度です。湿度60%以上を維持するような管理が望ましいです。
豚には生活上の適温があり、日較差で10℃を超えると呼吸病を発症する危険性が著しく増加します。豚舎の移動前後で上記の温度差が発生してしまう場合には移動先・移動前の豚舎の温度を一時的に上げ下げするなどの環境改善が必要です。また子豚や移動後の肥育豚は風に対するストレスにも非常に敏感なため、直接当たる風や隙間風にも注意が必要となります。換気不足も呼吸器病を誘発します。酸素不足や有害ガス貯留解消のため舎内の空気交換率も適切にコントロールしなければなりません。温度・湿度・換気のバランス調節がポイントとなります。
抗菌剤に関しては農場により感受性が異なる場合があるため、感受性を確認後、農場に合った製剤を使用する必要があります。App1型は多剤耐性を示す場合が多いので注意が必要です。
ワクチンの採用についても対象とする農場でどの血清型のAppが浸潤しているかを把握することは重要となります。
 
Appは豚マイコプラズマ肺炎、豚萎縮性鼻炎と並び、豚の三大呼吸器病の1つとされています。
Appの感染自体は防ぐことが困難であり、ワクチンは死亡率低下・臨床症状低減のための使用が主となります。発症の主因となる温度・湿度変化などのストレスの低減を目指した衛生管理や飼育管理をしっかりと行うことが肝心です。
 

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