定量分析の実際③|機械にかけるだけで分析値が得られる訳じゃない。

はじめに

みなさまが食品や生体試料中の特定の成分の濃度を知りたいとき、弊社のような検査機関は定量分析を行い、含まれる濃度を決定して検査結果としてお届けします。
「分析」と聞くと、機械のボタンを押せば自動的に結果が得られるようなイメージを持たれるかもしれません。ですが、より正確な分析値をお届けするためには、意外と多くの地道な過程があります。いつもみなさまご利用いただいている定量分析がどのように成り立っているのか、4つのテーマでご紹介いたします。
 
第3回は、検体から目的化合物を抽出して、標準溶液に近い状態の溶液を作製する方法についてです。
 
弊社で定量分析を実施する検体は血漿や組織といった生体試料や、生鮮食品、加工食品など多岐にわたります。第2回でご紹介したように、これらの検体試料には、繊維、組織、肉質、それだけではなく、非常に多くの目に見えない成分も含まれています。そのような余計な成分は排除しつつ、目的化合物を抽出することで、可能な限り単離します。この工程は、前処理と呼ばれ、余分な成分による測定妨害を防ぐために非常に重要です。ホウレン草の前処理の例をご紹介いたします。
 

①固形物をろ過

まずは検体試料の固形物定をろ過により大雑把に除去していきます。通常、検体試料を有機溶媒や水系溶媒と混合したものをろ過しますが、このとき検体試料に含まれていた目的化合物が、溶媒に溶け込むことで、液体としてろ紙を通過します。また、この操作よって、固形物と目的化合物を分離することができ、溶媒で目的化合物を抜き取っていく工程は「抽出」と呼ばれます。
ホウレン草の繊維などはろ紙を通過せず除外することができ、通過した液体は緑色の透明な溶液となりました。
 
固形物をろ過
 

②固相カラムによる精製

①で得られた抽出液は、物理的に目的化合物を分離したものですが、次は、化学的な原理で抽出液からさらに余分な成分を排除していきます。ここでは、固相カラムを用いたクロマトグラフィーの方法をご紹介いたします。固相カラムは、簡単に言うと化学的なフィルターのような役割として扱うことができます。クロマトグラフィーとは、充填剤と呼ばれる細かい粒子を詰め込んだ円筒(カラム)に溶液を通過させて、目的化合物を他の成分と分離させる方法です。
 
標準
 
化合物はそれぞれの化学的性質の違いを持ち、充填剤に引き付けられる作用が異なるため、固相カラムの”通過しやすさ”に差が出ます。この作用を上手く利用すると、余分な化合物のうち、通過しやすいものは先に流して捨てる、反対に通過しにくいものは固相カラムに取り残す、そして目的化合物が通過するタイミングだけ溶液を回収する。というように化学的性質が異なる成分を排除することができ、この工程を「精製」といいます。
抽出液・精製を経て、得られた溶液は、無色・透明になり、標準溶液に近い状態になりました。
 
標準溶液
 

おわりに

今回は、目的化合物の前処理についてご紹介いたしました。妨害となる成分を上手く排除することは、正確な測定を目指すために非常に重要なことです。第4回では、測定された結果を分析値としてを決定するうえで、問題ないことを確認する方法を解説いたします。
 
 

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