≪異臭検査≫食品への移り香が起こる原因は?

はじめに

食品の異臭原因の1つとして挙げられる「移り香(うつりが)」について触れてみたいと思います。
過去にインスタントラーメンで防虫剤の移り香があり、それ以降パッケージには「移り香注意」という注意喚起が記載されるようになりました(図1)。
 
図1 移り香の注意マーク
移香
 
弊社でもこれまでに多種類の食品で移り香と考えられる臭気を発見してきました。
近年、食品の包装容器としては、衛生面、加工面、コスト面で利点があるプラスチックフィルムが多く使用されています。身近にある代表的なプラスチックフィルムの種類や特徴を表1に示しました。
 
表1 身近にあるプラスチックフィルム

プラスチックフィルムの種類特徴使用されている製品
ポリエチレン
(PE)
低密度ポリエチレン
(LDPE)
耐水性・耐酸性・耐アルカリ性・耐衝撃性・耐寒性・防湿性ゴミ袋、軽包装ポリ袋など(ツルツルシタ袋)
ポリエステル
(PET)
耐水性・耐熱性・耐寒性・耐薬品性・透明性の高い素材ラミネート品、冷凍・ボイル・レトルト対応の食品袋
ポリプロピレン
(PP)
二軸延伸ポリプロピレン(OPP)耐熱性・防湿性・引張強度に優れている生鮮野菜や果物などの簡易的な包装(パリッとした袋)
無延伸ポリプロピレン(CPP)防湿性・耐熱性・耐摩耗性・ヒートシール性麺やパン袋

 
プラスチックフィルムで包装された食品は、一見すると外部からのにおいの影響は受けにくいと思われがちですが、実はそうではなく移り香が起こる可能性があります。ここではプラスチックフィルムと移り香についてご紹介します。
 

溶剤によるプラスチックフィルムへの透過

包装された食品への香気物質の移り香は、まずプラスチックフィルムへの浸透と拡散から始まると考えられます。溶剤を中心とした薬品がプラスチックフィルムに液体や気体の状態で接触すると、プラスチックフィルムに浸透し、拡散されていきます。これは酸素や炭酸ガスなどが透過する現象と同じです。ゴミ袋やポリ袋として使用される低密度ポリエチレン(以下、LDPE)は、PETボトルで使用されるPETと比べて約100倍量の酸素を透過させることが報告されています。同様に溶剤とプラスチックフィルムの組み合わせによって、ある溶剤ではプラスチックフィルムに浸透しやすく透過率が大きくなることがわかっています。例えば、LDPEはPETよりもn-ヘキサンやベンゼンを2,000倍以上透過させる素材であることが報告されています(表2)。揮発性有機溶剤や酸素の透過率が高いプラスチックフィルムの使用では移り香の浸透と拡散が起こりやすいため、これらの透過率が低いプラスチックフィルムに変更することが移り香を抑制できるひとつの手段と考えられます。
 
表2 プラスチックフィルムにおける有機溶媒の透過率(単位:g/0.1mm・m2・24hrs)

エタノールn-プロパノール酢酸エチルアセトンn-ヘキサンベンゼン四塩化炭素クロロホルム
LDPE21.717.94572202,6852,3204,6705,260
PET0.510.198.211.171.180.450.62168
OPP1.740.9773.414.47799882,0202,085
CPP3.341.9514234.52,3502,0504,5402,820
商品例消毒剤、洗剤、化粧品原料印刷用インク、繊維用途、化粧品、乳液など塗料、印刷インキなど除光液塗料、接着剤溶剤など灯油、ガソリンなどドライクリーニングなど溶剤(ゴム、メチルセルロースなど)、合成原料(フッ素系溶媒、フッ素系樹脂など)

 

香料や香辛料などの香気成分によるプラスチックフィルムへの透過

LDPEは、香料、香辛料、嗜好飲料、調味料などの殆どの食品の香りに対して、迅速に透過し、フレーバーバリア性はないことが報告されています。例としてバニラ、シナモン、ガーリックやコーヒーといったフレーバーの多くが1時間以内に浸透・拡散します。一方、フレーバーバリア性の高いプラスチックフィルムとしてはポリエステルが挙げられ、上記4種類のフレーバーが浸透するのに2週間以上かかります。従って、フレーバーバリア性の能力としては、低密度ポリエチレン<ポリプロピレン≪ポリエステル(代表としてPET)の順に高くなることがわかっています(表3)。
 
表3 各包装用フィルムの香り透過性

バニラ香料オレンジ香料レモン香料カレー粉ジンジャー粉シナモン粉ガーリック粉コーヒー粉末ソースしょうゆ
低密度ポリエチレン(LDPE)
ポリエステル(PES)
ポリプロピレン(PP)

○:1時間以内 ◔:1日以内 ◑:1週間以内 ◕:2週間以内 ●:2週間以上
注)文献1より一部抜粋
 

移り香への対策

包装されている食品においては、外部環境中からの臭い物質の移り香が起こり、その結果、食品の異臭クレームが発生していると考えられます。食品は様々な環境を経てお客様の手元へ届けられます。なかでも輸送や保管は長時間一定の環境にさらされることが考えられ、移り香の起こる可能性が特に高い環境であると言えます。さらに店頭での陳列状態も移り香が起こりやすい環境のひとつであると考えられます。さらに近年、環境問題やコスト削減などにより包装が薄くなったように感じます。このことも移り香のリスクが高くなった要因かもしれません。
移り香を起こさない工夫としては、まずはにおいを発生させる物質を近くに置かない、混在させないことが重要です。牛乳と柑橘系飲料を隣に置くと、牛乳に柑橘系飲料の臭いが移るのは有名です。牛乳などの脂質や脂肪分を含む食品は、移り香の影響を受けやすいため注意が必要です。次に、費用対効果を検討しながら適切な食品の包装容器やプラスチックフィルム等を選択することです。
本コラムのはじめに記載した移り香注意マークのある食品や脂質含有量の多い食品、においの強い食品では特に保管方法を考える必要があります。
 
 

参考文献

1) 鹿毛 剛 . 連載講座 容器・包装の基礎と応用 応用編(5)包装食品の異臭付着や香りの収着 . 日皮協ジャーナル . 2019,No.82,p30-36
2) 金子 昌二 . 乾燥食品へのパラジクロロベンゼン移り香試験 . 長野県工技センター研報 . 2014,No.9,p.F19-F22
 
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