EC感染症について|近年注目されている鶏(ブロイラー)の病気
2002年にオランダ、スコットランドでEnterococcus cecorum (エンテロコッカスセコラム、以下EC)が胸椎から分離されたことを皮切りに、その後他各国で報告がされ、腸球菌性脊椎炎が起きていることが分かってきました。したがって、EC感染症は、比較的新し病気といえるのではないでしょうか。
現状、知見が少なく、認知度も低いですが、今までわかってきたことをコラムで取り上げます。
EC感染症の歴史
肉用の鶏は、生産性を高めるため、短期間に体重を増やすよう品種改良されてきました。その結果、体重の増加に体が追いつかず、脊椎に障害が出てしまい、脚麻痺や脚弱といった症状が出てくる個体が少なからず出てしまいます。
これは、肉用鶏の宿命と考えられていました。しかし、近年、脊椎の障害部位に菌が感染することで、症状が悪化していることが明らかになってきました。脊椎障害は、死亡や屠場での廃棄率上昇につながり、経済的な損失につながるため、問題視されています。
ECの感染経路について
ブロイラーの脊椎障害の原因の一つに、六番目の胸椎が自由胸椎になっていることが挙げられます。自由胸椎とは、鳥類に特徴的な構造の一つです。第六胸椎は、隣接する胸椎の骨に癒合しておらず、単独で存在し、軟骨で前後の椎骨と接しています。体重の増加が著しいブロイラーでは、この自由胸椎に負荷がかかり、損傷または折れてしまうことがあります。ここにECが感染することで、病気が悪化するということが考えられています。
ECは、通性嫌気性グラム陽性球菌であり、鶏舎の環境や鶏の腸管に常在する細菌です。腸管にいる大腸菌やその他の菌と悪さをして腸内環境が悪くなると、消化管のバリア機能が低下し、腸管の外側、つまり全身に細菌が回ることがあります。これを機に、ECは全身に広がり、出血や組織の露出がある胸椎に感染するという経路が、現在有力です。感染すると、両足を伸ばした典型的な姿勢を示すことがあります。
上の写真では、第6胸椎の周辺(白い円の内部)が膨隆していることが分かります。膨隆部内腔は、黄色の膿が確認されました。弊社で、この膨隆部から菌分離を実施した結果、ECが分離されました。
EC感染症のポイント
EC感染症での死亡率は、5-15%ですが、飼料摂取量や栄養吸収が減少し、生産性が下がります。死亡は5-6週齢期でピークを迎えます。また、屠場での廃棄率も上昇(最大10%程度)するため、経済損失につながってしまいます。EC感染症では、脚弱や脚麻痺だけではなく心膜、肺、肝臓、脾臓にも心膜炎や肝包膜炎、気嚢炎といった病変を引き起こし、死因の一つになります。
前述のとおり、農場や生体に常在するECですが、近年の遺伝子解析によって、病気を引き起こす株(病原性株)と引き起こさない株(非病原性株)が存在することが分かってきました。ECが過去分離され、病原性株が存在する可能性がある農場は、農場からのEC撲滅を目標に、飼養管理や環境の保全に努める必要があると考えられます。
EC感染症の予防・治療法
残念ながら、発症してからの抗菌薬等による治療は効果がないことがわかっています。病原性のEC株の腸内定着と菌血症は、臨床症状が現れる2~3週間前に発生するため、発生歴がある農場では、臨床症状が現れる前に治療介入する必要があることが示唆されています。この場合、エリスロマイシンやクロルテトラサイクリン等が有効と考えられていますが、薬剤耐性の報告が少なく、有用な抗生剤が定められていない現状があります。また、病原性株は常在菌株に比べて薬剤耐性率が高い傾向にあることが分かってきました。以上のことを鑑みると、一般的な衛生プロトコルを順守し、リスクをできるだけ減らす重要性があると考えられます。
加えて、菌血症を起こさないこと、腸管から菌を全身に回さないことも対策の一つに考えられています。具体的には、生菌剤などによって腸内健康を維持し、腸管のバリアを崩さないことが予防法の一つと考えられています。とあるバチルス属菌が、生菌剤として有用なのではないかという研究もありますが、まだ研究段階にあるのが現状です。効力の高い治療法・予防法の開発が望まれるのが現状です。
まとめ
経済的損失の観点から、肉養鶏においてEC感染症は、重要度が高い疾病であるのにも関わらず、その実態の全貌が明らかになっていない感染症になります。本病が疑われる際は、適切に診断をし、状況に応じた対応が望まれます。
弊社では、鶏の病性鑑定を実施しております。ECの分離実績、薬剤感受性の実施実績もございますので、お気軽にお問い合わせください。