サーコワクチンの現状レポート、今後の課題について

今年の春から販売が開始されたサーコウイルスワクチンですが、現状では今まで接種を行ないたくてもワクチン自体が手に入らずに苦慮していた農場も少なくは無いと思います。
今秋に母豚用のサーコワクチンで1社、子豚用のサーコワクチンで1社が販売を開始した事もあり、ようやく接種したい農場に、サーコワクチンが行き渡る様になりました。
又、サーコワクチンを早い時期に接種した農場では、その成果も出始めていて、事故率の軽減(最大10分の1)や在庫数の増加等の効果が見られています。
ただ、効果が現われている農場毎でもその成績改善率に格差があったり、効果の発現が少ない農場も存在したりしていますので、まだまだ検討が必要な様です。
今回はそうした状況もあり、これからの寒く厳しい季節を迎える前に、早い時期に接種を行う事が出来た農場の現状、問題点、将来の課題等を検案しながら、接種し始めの農場や、これから開始しようと考えている農場へ、少しでも役立てられるようなポイントを探って行きたいと思います。

サーコワクチンの接種効果として期待するもの。(順不同)

  • (1) 事故率の軽減。
  • (2) ヒネ化率の軽減。(虚弱、衰弱、ひね発生の軽減)
  • (3) 飼料要求率の改善。(無駄になっている飼料の改善)
  • (4) 出荷日齢の短縮。
  • (5) 1母豚当たりの生産成績の向上。(出荷枝肉重量としての増加)
  • (6) ポジティブリスト制度、トレーサビリティー制度、HACCP(ハセップ)等を念頭に置いた薬剤の使用量や治療回数の軽減。
  • ワクチンプログラムの簡素化。(将来的に)


現状のワクチン接種プログラムの一例

ベーリンガー社(子豚用)のワクチンを使用している場合。
パターン(1)子豚群のみ接種。生後3週齢頃の毎回接種。

メリアル社(母豚用)のワクチンを使用している場合。
パターン(1)種豚群のみ接種。交配前 の未経産時期に1〜2回接種。初回は分娩8〜7週前、4〜3週前の接種。その後は分娩3週前毎回接種。

インターベット社(子豚用)のワクチンを使用している場合。
パターン(1)子豚群のみ接種。生後3週齢頃 の毎回接種。


サーコウイルスワクチン接種のポイント

ベーリンガー社(子豚用)のワクチンを使用している場合。

ポイント

①子豚への接種時期。分娩舎で作業者が抱いて丁寧に接種する事が重要。ストレスが2回以上重なる時期の接種は避ける。(移動と離乳、去勢と他のワクチン等、ただし、単体の作業時はその時期に組み入れる事はOK、農場毎に相談は必要)

②接種時期の子豚の状態。早期のPRRS感染、下痢症状(大腸菌、クロストリジウム、コクシジウム等)等はワクチン効果を妨げるばかりか、逆影響にもなりかねない。

接種時のリアクションは少ない。


メリアル社(母豚用)のワクチンを使用している場合。

ポイント

(1)子豚への接種時期。分娩舎で作業者が抱いて丁寧に接種する事が重要。
ストレスが2回以上重なる時期の接種は避ける。(移動と離乳、去勢と他のワクチン等、ただし、単体の作業時はその時期に組み入れる事はOK、農場毎に相談は必要)

(2)接種時期の子豚の状態。早期のPRRS感染、下痢症状(大腸菌、クロストリジウム、コクシジウム等)等はワクチン効果を妨げるばかりか、逆影響にもなりかねない。

(3)接種時のリアクションが発現する可能性があるワクチン。
生後3週齢以内の分娩舎で接種される分にはさほどの心配はないが、生後5週齢以降での接種を余儀なくされる農場では接種時の工夫が必要。

ワクチン効果の発現で地域性があるのか?効果が現われにくい農場の現状は?

この様な質問はこの頃多く受けますが、地域による効果の発現状態に格差はないものと思います。
もしそれらが発生する可能性があるとしたら、扱う人間側の意識によるものと、環境差による効果発現の格差は存在していると思います。


ポイント

(1)飼養する環境差。(隣同士が密集している地域と、隣りが5〜10キロメートルも離れている場所等での飼養条件差)

(2)飼養密度。(1豚房に飼養されている豚の数と接触回数)

(3)糞尿処理に対する意識と設備の格差。(糞処理と尿処理に余裕があるところは改善が早い傾向にあり、余裕が無いところは効果の発現後、新たな被害が再発生する危険性がある)

(4)使用飼料のレベルの格差。(今までの経営が影響していると思われる使用配合飼料の栄養性・吸収性の格差、様々な機能性サプリメント資材の利用格差等は、サーコウイルスワクチンでは解決出来ないヒネ・虚弱や疾病群(浮腫病、レンサ球菌感染症、グレーサー病、大腸菌感染症、ローソニア感染症、サルモネラ感染症、コクシジウム感染症、マルベリーハート等)の発生が見られる危険性がある)

(5)使用意識の問題。使用後半年から1年間は最低でも今現在の農場プログラム(ただし、ある程度間違いが無いプログラムだった場合)に追加する形でサーコウイルスワクチンを接種している農場と、使用直後から農場プログラムを変更する主体性の無い農場では効果の発現に格差が生じる危険性がある。

(6)サーコウイルスワクチン接種前の子豚の状態。(サーコウイルスワクチン接種前に子豚が何らかの疾病感染・発病をしていた場合は効果の発現に格差が生じる危険性がある)


サーコウイルスワクチンを組み入れた管理プログラムの考え方

サーコウイルスのワクチン接種を行う事により、今現在行っている管理プログラム(ワクチンプログラムを含む)の再編成を行う必要があります。あまり考えていない農場も多くありますが、結構悩んでいる農場も見受けられます。

ポイント

(1)全てのワクチンは副作用の発現を持ってる事を踏まえる。
(2)サーコウイルスとストレスの関係は密接。
(3)実際には、使用するサーコウイルスワクチンの特徴を良く理解した後、同時期や、近い日齢で接種されてしまう他のワクチンや抗生物質、その前後期間で行う作業管理等に至るまで良く話し合い、なるべく副作用(人間にも、豚にも)が発生しない様にプログラムを組み合わせる。


今後危惧される課題

(1)新たな疾病の発生。(元々感染はしていて発生もあったが、目立たなかった疾病や症状)
例:大腸菌関連疾病(浮腫病を含む)、レンサ球菌感染症、グレーサー病、パスツレラ感染症、コクシジウム感染症、サルモネラ感染症(特にコレラスイス )、クロストリジウム感染症、ローソニア感染症、コリネバクテリウム感染症、ヘモフィルス感染症、PRRS(PRDC)、マルベリーハート、関節炎症状、皮膚炎症状等。

(2)糞尿処理の不具合。
例:豚の在庫の増加と飼料摂取量の増加による糞尿の増加と処理能力の悪化。地域環境と地域住民との関係悪化。

(3)人材の確保と作業能力の限界。
例:豚が死ななくなることによって、死亡していた時の搬出作業や、治療等の手間が無くなり、作業的には楽にはなりますが、今後は生きている子豚をちゃんと生産過程に乗っけていくための管理技術とそれに伴う人材や設備が必要になります。
人は仕事が忙しくなると1つ1つの仕事を丁寧には行わず、何%か手を抜き始めてしまいます。従来何気なく行ってきた”作業”ではなく、本当の意味での”管理技術”が求められる様になって行きます。

(4)使用飼料の変化、飲水設備の変化。
例:事故率の改善とヒネ化率の改善で豚の在庫が増加すると、必然的に糞尿の処理量が多くなり、その処理能力が問われることになります。
糞処理設備や浄化槽設備の充実を図れば良いですが、そうは出来ない農場が多いのも現実です。そこで取られる方法として、使用する飼料を糞尿の発生量の少ない飼料へ変更することが多く見られますが、これは、各々の飼養条件や保有疾病等を良く考慮して工夫しないと、逆に成長が抑制されたり、疾病感染の助長を招いてしまう危険もあります。

(5)飼養密度の増加。
例:事故率の改善とヒネ化率の改善によって子豚舎、肥育舎の飼養頭数が増加すると、今までは発生が無かった(気が付かなかった)細かい疾病や症状が発生する様になります。一番気を付けたいのは肥育舎です。実際に今までこの業界を震撼させてきた疾病群の初期の感染源は肥育期になってる事が多いのです。(例えばオーエスキー)肥育舎の豚の飼養頭数が多くなればなるほど、初めは小さかった疾病感染の火種が気が付いたら大きな火事や震災にまで膨れあがってしまう危険性があります。今まで事故率が高かった農場は、逆に肥育舎での成績は良かったと言う農場が多く見られます。疾病は一群の飼養頭数×接触回数×空気密度×管理技術によって増幅して行きます。この事を良く踏まえて、肥育舎で新たな疾病の火種を作らないようにする意識が重要になると思います。

(6)管理技術の置き去り。
例:今まで何を行っても事故の改善が見えなかった農場が、サーコウイルスワクチンの接種を行っただけで、今まで死んでいた子豚が死ななくなったとしたら、完全に勘違いを起こしてしまう危険があります。
今までがんばって助言してきた周りの同業者、友人、業界関係者等との接点が途切れてしまい、極端な人は洗浄・消毒・乾燥といった基本の管理まで中止したり、給餌器や給水器の掃除や衛生も怠ったりしてしまっています。
マイコワクチンやヘモワクチン、薬剤や機能性資材(栄養剤、生菌剤、サプリメント等)に至る他の疾病対策の商品の使用もサーコウイルスワクチンの接種と同時に中止したりしてしまっています。
この手の農場は今さら何をいっても管理技術(お金の掛かる事、面倒な事等)には耳を貸さない傾向になってしまいます。


将来に向けた課題

サーコウイルスワクチンの接種によって効果が発現出来た農場では、その各々の農場で持っていた疾病感染レベルに必ず変化が生じて来ます。
ただし、その変化はかなり低いレベルから現われる事になりますので、『(1)発見出来ない農場』、『(2)発見しても無視してしまう農場』、『(3)発見後から対応を組む農場』、『(4)最初から発生の危惧を予期して、発生前から取り組みを行う農場』に分かれてしまう可能性があります。
サーコウイルスワクチンによって効果の発現があった農場の中でも、上記に分けた内の(3)、(4)(特に(4))を行おうとしている農場は少ないのが現状だと思います。
出来れば読者の皆さんの農場では③、④の意識を持って貰えるとうれしいです。
サーコウイルスワクチンについては今後も徹底した調査が必要と感じています。今後サーコウイルスワクチン接種群が冬季の厳しい季節を初めて迎えますので、これらの状況も良く見極めて、生産者に役立つアドバイスを今後も行っていきたいと思います。

< 初出:ピッグジャーナル/菊池雄一 >

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