薬剤使用の注意点

 ここ数年、出荷豚での薬剤(抗生物質、合成抗菌剤)の残留問題が増加傾向にあります。休薬を厳守していなかったり、使用方法が間違っていたりする場合は当然ですが、ルールを守って使用していたのに残留してしまうケースも目立っています。
 でもその使用のルールははたして適正なのでしょうか。(ルール=休薬期間としての判断?)
 ポジティブリスト制度やトレーサビリィティー、HACCPなどの導入もあって、薬剤の利用からワクチンにシフトする傾向となり、その使用量は軽減されてきてはいますが、未だ残留事故が発生しています。今回は疾病対策には欠かせない薬剤の特性とその使用方法について考えてみたいと思います。


豚の動物用医薬品
<抗生物質>
ペニシリン系:アスポキシシリン、アモキシシリン、アンピシリン、ベンジルペニシリン、メシリナム。
セファロスポリン系:セフチオフル。
アミノ配糖体系:カナマイシン、ゲンタマイシン、ストレプトマイシン、フラジオマイシン。
マクロライド系:アイブロシン、エリスロマイシン、ジョサマイシン、スピラマイシン、タイロシン、チルミコシン、デルデカマイシン、ミロサマイシン。
リンコサミド系:リンコマイシン。
テトラサイクリン系:オキシテトラサイクリン、クロルテトラサイクリン、ドキシサイクリン。
その他の抗生物質:コリスチン、チアムリン、バルネムリン、ビコザマイシン。

<合成抗菌薬>
サルファ剤:スルファジメトキシン、スルファモノメトキシン。
サルファ剤+トリメトプリム(TMP)強化サルファ剤:スルファジメトキシン・TMP、スルファドキシン・TMP、スルファモノメトキシン・TMP、スルファメトキサゾール・TMP。
チアンフェ二コール系:チアンフェ二コール、フロルフェ二コール。
キノロン系:オキソリン酸。
フルオロキノロン系:エンロフロキサシン、オルビフロキサシン、ジフロキサシン、ダノフロキサシン、ノルフロキサシン。

注意する薬剤(ここ数年出荷豚から発見されている薬剤)
①テトラサイクリン系薬剤。特に使用しやすいオキシテトラサイクリンと、筋肉や骨に沈着しやすいクロルテトラサイクリンは要注意。
②サルファ剤。ダイメトンなどの使用量、使用時期に注意。
③サルファ剤+トリメトプリム(TMP)強化サルファ剤。ST合剤などの使用量、使用方法、使用時期に注意。

残留は筋肉部位だけでは無いことを認識する
① 注射剤は接種部位の筋肉だけでなく、脂肪や諸臓器にも残留することがあります。
②飼料添加や飲水タイプの薬剤は諸臓器(特に腎臓、肝臓)だけでなく筋肉にも残留する危険があります。
※ただし、①②とも使用方法や使用量などに問題があった場合です。

必要なこと
①現場にあった薬剤プログラムの作成。
繁殖豚、♂豚、未経産豚、子豚。
②副作用の存在を知る。
薬品の種類によっては、嘔吐、震え、貧血(造血作用低下)、流産、腎・肝機能低下等が起こる事がある。
③使用方法や使用時期を考慮する。
投薬量が多い場合、投薬時期が長い場合(間歇投薬、トップドレス投薬の場合など)、投薬量が低濃度で使用期間が長い場合、飼料タンクや飼料パイプに残留している場合、多剤の組合せで使用している場合などは休薬時期を厳守しても残留する場合があるので注意。
④薬剤の組合せによっては、相乗効果ではなく、拮抗作用も存在します。
⑤投薬期間中にしか効果はでない。
薬剤の血中濃度は期待ほど持続しない。投薬終了後の消失は早い。
⑥薬剤の使用理由を曖昧にしない。
使用目的をはっきり持つ。それに見合った薬剤プログラムを実施。
⑦担当者は必ず理解する。(指導、教育)
薬剤の保管方法、添加方法、注射方法、使用薬剤の特徴。
⑧投薬時の体調によっては残留期間が変動するので注意する。
成長が早い場合:思うより早く成長し出荷になるため残留事故に繋がり易い。
ヒネ豚の場合:飼料の摂取量自体が低いので、低濃度の薬剤を長期間摂取しやすく残留しやすい。注射の場合でも筋肉組織の抵抗力が弱く、接種回数が多くなりやすいため注射痕が残り易い。
⑨飼料タンクのうっかりミスに注意。(肥育用飼料への間違った投薬など)
⑩上記を考慮して休薬期間のルールを作成する。
農場毎に特別のルールを設定する。例えば2倍ルール。3倍ルール。
※2倍ルール:設定されている休薬期間を2倍取る。3倍ルール:設定されている休薬期間を3倍取る。

㈱食環境衛生研究所 研究検査部(家畜防疫グループ)

youtube