ふき取り検査の方法と評価について
1.はじめに
今日、ふき取り検査は食品工場や厨房など食品にかかわる衛生状態を知る一つの指標として用いられています。
ふき取り検査とは調理器具や壁、人の手指などの様々な表面についている微生物を検査することができる方法です。
ふき取り検査の測定結果については、採取方法、技量、および採取対象の表面の形状によって菌の採取率にばらつきが出てしまう問題が指摘されていますが、L , Ten Cate(Janal of Applid Bact, Vol.28 No2 ) の方法で判定及び評価をすることが提案されました。
評価される汚染度合は6段階に分かれており、1965年に発表されて以来この区分は現在でも用いられ、ふき取り検査における汚染を判定する指標となっています。
株式会社食環境衛生研究所でも同様の区分を用いて汚染度合の判定と評価を行っております。
2.ふき取り検査の方法
食環境衛生研究所で行っているふき取りには2種類があり、スタンプ形式の物と綿棒形式の物があります。
スタンプ検査の特徴として検査したい項目が複数ある場合には、同様の方法で項目数分スタンプを利用してふき取りを行う必要があります。例を挙げると一般生菌数と大腸菌群数を調べたい場合には、2つのスタンプを使用してふき取り検査を行う必要があります。
スタンプを使用して物のふき取り検査を行う場合、検査の対象箇所は10cm×10cmを必要としています。
ふき取りを行う際の方法は、スタンプの持ち手をつまみながら対象箇所を上下左右にふき取ることで採取します。(図1)
図1のように最初に左上の角から開始した場合、左下の角までふき取りを行い、徐々に右にずらして上下に動かして角までふき取っていきます。
次に左上の開始地点から右上の角へふき取り、下へずらして左に戻り、対象箇所を満遍なく上下左右にふき取ります。
次に左上の開始地点から右上の角へふき取り、下へずらして左に戻り、対象箇所を満遍なく上下左右にふき取ります。
図1:物を対象としたスタンプふき取り方法
スタンプを使用して手のふき取り検査を行う場合、手のひら、手の甲、指先の3か所から1つのスタンプでふき取りを行う必要があります。(図2)
最初に手のひら側の手首付近から各指先に向けてなぞっていき、その後手側の甲の手首付近から指先に向けて同様になぞっていきます。最後に爪の部分をふき取ります。
消毒後のものを拭き取る場合、消毒液が残っていると細菌の培養に影響がでる為、消毒液を完全に除いてから検査を行います。
このスタンプ法は、表面が平らな面の微生物汚染の評価に適しています。
凹凸のある表面や、まな板などの包丁傷の中の細菌までは検出できず正確な菌数が得られません。
凹凸のある表面や、まな板などの包丁傷の中の細菌までは検出できず正確な菌数が得られません。
手のひら側の手首から指先へ
手の甲側の手首から指先へ
爪の部分もふき取ります
図2:手指におけるスタンプ検査の図
もう1種類の綿棒形式も、スタンプと同様の方法でふき取りを行っております。
綿棒形式のふき取りキットには緩衝液が容器に入っており、容器に綿棒を保存し緩衝液を試料液とします。
そのため、例えば一般生菌数と大腸菌群数の2種類を検査したい場合でも、一本の綿棒形式のふき取り検査キットによるふき取りのみでよいメリットがあります。(図3)
綿棒形式の場合、培地へ広げる方法はスタンプ検査と異なり、ふき取り後の綿棒を入れた試料液をマイクロピペットを用いて100 µLとり、培地へ添加します。その後塗り広げて恒温機内で培養を行います。
図3:綿棒形式のふき取り検査キット
(http://www.eiken.co.jp/products_technique/pamph/5020.pdf)
3.評価の方法について
下の表はTen Cateの判定の表示方法です。
48時間後に観測されたコロニー数から汚染度合いを示している表になります。食環境衛生研究所でも同様の区分を利用しており、測定結果による汚染度合いの区分を行っております(表1)。
集落数が0個であれば「‐:非常に清潔」、10個未満であれば「±:ごく軽度の汚染」と判定します。
集落数が10~30個であれば「+:軽度の汚染」と判定します。菌数が30~100個であれば「中度の汚染」、100個を超えれば「やや激しい汚染」、無数であれば「激しい汚染」と判定します。
この区分は大まかに区分されたもので、且つ50年以上昔の基準であるため、製造している製品によって原料の汚染度合いが異なり一律にこの指標の通りではありません。
そのため食環境衛生研究所では現場にあった指標を用いて判定と評価の両方を行っています。
例を挙げると一般的な食品の製造ラインでは、コロニー数は10個未満が望ましく、合格ラインとなっていますが、食肉加工場など比較的微生物が多い製造現場では、30~100個までを合格ラインとし、それ以上で汚染が進んでいるため不合格としています。
例を挙げると一般的な食品の製造ラインでは、コロニー数は10個未満が望ましく、合格ラインとなっていますが、食肉加工場など比較的微生物が多い製造現場では、30~100個までを合格ラインとし、それ以上で汚染が進んでいるため不合格としています。
表1.Ten Cateの判定の表示方法
4.おわりに
近年、食中毒に対する消費者の関心は高まっており、生産者の安全意識がより強く求められるようになっています。生産している製品の安全性は原材料の管理だけではなく、使用している機械や従業員の衛生状態も製品の安全性を保つために重要となります。
食環境衛生研究所では検査だけでなく、担当の方と協議を重ねて適切な管理体制を組み立てることでより良い結果へのサポートや、清潔な環境を維持するためのコンサルタントも行っております。
気になる点がございましたらお気軽にご相談ください。
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