養豚界 6月号

「豚は2回生まれる」と以前、ある方に言われたことがあります。
連載2回目のテーマは離乳後の疾病についてです。
あとで理解できましたが、言われた時は?マークが頭の中にたくさん浮かんでおりました。
今更ですが豚は妊娠期間の約114日間を胎内で過ごし生まれてきます。これが1回目の誕生です。そして生まれた新生豚は母豚から、その後を左右する重要なプレゼント”初乳”をもらいます。
“離乳後の疾病について”と言っておきながら初乳について、もう少し書かせていただきます。初乳の中には免疫グロブリンや免疫細胞が多量に含まれており、常乳とは比較にならないほど良質なのです。
豚の胎児は母豚の免疫物質が胎盤を通過しない為、生まれてから母豚の初乳を摂取することで初めて移行抗体を得ることができます。しかし同じ哺乳類でも人間の場合は、母親の免疫物質が胎盤を通過し胎児に移行します。つまり”初乳”という点において豚と人間は決定的に異なるのです。
しつこいようですが、あともう少し書かせていただきます。クライアントの方に「初乳っていつまで初乳なの?」と聞かれたことがあります。色々な文献やデータなどを参考にすると、古い文献などでは「24時間以内」「12時間以内」などと記されておりますが、比較的新しい文献やデータなどでは「8時間以内」「4時間以内」と記されているものもあります。注釈としては、分娩後24時間以内では多量に含まれている免疫物質が24時間以降はほとんど含まれなくなってしまうのと、もらう側の新生豚の小腸も時間の経過とともに初乳の成分を吸収できなくなるという双方の要因があります。つまり、24時間以内ならいつでもよいのではなく、出来る限り早く摂取させた方が、より効果的に免疫が受け渡されるのです。
この点で「8時間以内」や「4時間以内」というデータがあるのでしょう。
とどのつまりは、生まれたら速やかに”初乳”を摂取させろ!!ということですね。
では、本編スタートです。

 

農場背景
関東地方 母豚360頭1貫経営農場 PS外部導入農場 農場従事者5名

 

農場形態
種豚舎、分娩舎(OP) 離乳豚舎(オガくず豚舎および簡易離乳舎)
肥育舎、肉豚舎(スノコ豚舎およびオガくず豚舎)

 

稟告
農場主から、離乳後の事故が多くなったとの相談を受けたのは10月でした。
以前の離乳後事故率は6~7%だったのですが、データを確認したところ12%程度まで上昇していました。早速現場に入ってみると事前に聞いていた事故率のイメージよりも、豚の状態が悪く感じ取れました。発育不良豚、いわゆるヒネ豚が多く存在していました。
この農場だけではなく、どこの農場にも共通して言えることですが、事故率と同等もしくは倍程度はヒネ豚が豚舎に存在しているように感じます。例えば10%の事故率であれば、その他に10~20%程度はヒネ豚が発生しています。これは個人的な感覚なので間違っていたらすみません。
そして、10月になっても9月半ばまで続いた酷暑の影響が分娩舎母豚で顕著に見られており、母豚のコンディションはお世辞でも良好とはいえない状況でした。それは、哺乳豚にも現れており同腹哺乳豚でも成長にばらつきが確認されました。特に8月9月の正常哺育開始子数と哺育率は通常時期と比較して、成績が落ち込んでいました。
事故の発生時期は離乳舎移動後から調子が崩れてくるようでした。健常豚の急死というよりは、離乳時にもともと小さく弱い豚が徐々に体力がなくなって死亡するケースで、症状としては泥状便や水様性下痢が散見しており、いわゆるヘコヘコ症状が目立ちました。その際の農場の対応としては、移動後の人工乳にテトラサイクリン系薬剤を飼料添加し、発症豚にはペニシリン系薬剤を接種していましたが、どちらも期待するほどの効果はなかったようでした。そして、もうひとつの特徴としては簡易離乳舎での発生よりも、オガくず離乳舎での発生が多かったことです。お伺いしたその日にも死亡豚があったので、解剖を実施しました。

 

発生状況のまとめ
発症ステージ:離乳舎移動後の発症(約40日齢~70日齢)
症状:下痢をともなうヘコヘコ症状⇒死亡
対応:テトラサイクリン系の飼料添加 発症豚へのペニシリン系接種⇒効果低い
発症割合:オガくず離乳舎7 対 簡易離乳舎3

 

検体内容
検体1:約9週齢  下痢をともないヘコヘコ症状⇒死亡
検体2:約8週齢  下痢をともないヘコヘコ症状⇒死亡

検体1
・肺の出血及び水腫様
・肺門リンパ節の腫脹と発赤
・腸間膜リンパ節の腫脹と発赤
・腎臓壊死部位あり
検体2
・肺の出血及び水腫様
・肺門リンパ節の腫脹と発赤
・腸間膜リンパ節の腫脹と発赤

 

検査結果
薬剤感受性

 

考察
今回の病性鑑定の結果、肺からパスツレラマルトシダA型(Pm)、サルモネラコレラスイス(Salmonella Choleraesuis)が検出され、腸管からサルモネラティフィムリウム(Salmonella Typhimurium)とローソニア(Lawsonia intracellularis)、クロストリジウム(Clostridium perfringens)、そしてPCR検査にて肺門リンパ節よりPRRSウイルスが検出されました。
農場で事故率上昇のきっかけとなっていた下痢症状は、サルモネラチフィムリウムとクロストリジウム、ローソニアの混合感染が原因でした。
また、肺からは最近当社でも検出率の高いサルモネラコレラスイスとパスツレラが検出されました。
先月号でもネズミについて触れましたが、この農場でも農場巡回をした際に畜舎や給餌箱の裏に多数のネズミが見られました。今回検出されたサルモネラティフィムリウムは別名”ネズミチフス”と呼ばれており、その名の通りネズミが媒介して豚に伝播することが問題となっております。
また、この農場では一部のステージで食品残渣飼料を利用しており、ストックヤードでの防鼠対策は一切行っておりませんでした。

 

改善提案
まず、母豚群の疲弊が目立っていたので、それまで休止していたビタミン、アミノ酸配合資材を再開することを提案しました。低豚価が続いたり、飼料コストが高騰したりすると、まずこの手の袋物「ビタミン、アミノ酸等の資材」が切られてしまいます。
そして、離乳後の子豚たちの”腹吸い”行為の多さに、餌付けが上手くおこなえていないのではと思ったので、哺乳豚の餌付け管理と水付け管理の再確認と離乳後の虚弱豚や小さい豚への”ねり餌”の実施を提案しました。
また、離乳舎移動後の温度管理にも”秋”を意識してもらいました。
抗生剤の対応は、当社で実施した薬剤感受性をもとに繁殖豚群のクリーニング及び哺乳豚への垂直感染予防でフェニコール系の投薬を実施し、子豚では発症ステージ飼料への投薬をご提案しました。
もちろん、ネズミ対策も徹底していただくよう、強くお願いいたしました。
(1) 繁殖豚対応(クリーング及び垂直感染予防)
抗生剤使用薬剤(フェニコール系薬剤)
1.導入豚へのスポット投薬
2.分娩舎:分娩前後のスポット投薬
3.ストール舎:定期的なスポット投薬(この農場では10月、2月、6月の年3回実施)
(2) 子豚対応
抗生剤使用薬剤(フェニコール系薬剤)
1.離乳舎移動後に短期間のスポット投薬(生後約30日齢体重約8Kgで移動)
2.発症ステージに短期間のスポット投薬(生後約60日齢~70日齢)
3.発症豚への早期個体治療
4.死亡発生豚房の集中治療
(3)その他管理
1. 繁殖豚へのサプリメント再開
2. 餌付け管理と水付け管理の徹底
3. 虚弱豚、小さい子豚へのねり餌実施
4. 給餌方法を少量多回給餌(餌の腐敗防止)
5. 離乳舎移動後の温度管理の徹底
6. 畜舎の「洗浄」⇒「乾燥」⇒「消毒」⇒「乾燥」の徹底
7.オガくず離乳舎温度管理の徹底
8.鼠駆除の実施

 

総括
この農場では、簡易離乳舎よりもオガくず離乳舎の方が事故率が高い傾向にありました。その要因としては、敷材の温度管理にありました。9月までの猛暑対策で敷材の量が少なく(薄く)、10月下旬になっても対応を変更し忘れており、子豚導入時に十分な温度がなかったのもオガくず離乳舎の事故率が高かった要因のひとつだったと推測されます。
事故の発生は徐々に落ち着いてきて、直近の農場訪問の問診では、離乳時子豚の体重が増加傾向にあり、事故率も改善したようでした。
今回の対策案は、薬剤対応よりも農場管理、特に離乳前後の管理の見直しや追加が重要なポイントとなりました。
忘れていましたが、『豚は2回生まれる』の2回目の誕生は”離乳”です。
それまで、一緒にいた母豚が離れ、”餌が変わり”、”環境が変わり”、”同居豚が変わり”、”給餌箱が変わり”、”給水器が変わる”。とにかく変化変化の連続で、新生子豚と同じか、それ以上に手厚い管理が必要なのだそうです。

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