食中毒細菌の増殖と環境~温度編~

前回の食中毒菌に対する空気の影響に引き続き、今回は食中毒細菌の増殖と温度の関係を考えていきます。食中毒細菌の増殖において主要な役割を果たすのは、水分と栄養分、そして温度となります。特に温度は、食材を管理する際、上記3項目の中で人が唯一管理できるものです。そのため、食品の製造工程で特に重視され、食品の安全な製造に関する衛生管理手法であるHACCPでも、加熱などの温度管理は多くの食品で重要管理点として定められます。

どの温度で細菌が増えやすいのか、と言いますと、細菌の種類によって異なりますが、多くの細菌は20℃~50℃で増えやすくなっております。特に食中毒細菌の多くは、人の体温と同じくらいの37℃前後で最も増えやすくなっています。それ以下の温度(特に10℃以下)では細菌の増殖は極端に遅くなり(例外的に、エルシニア・エンテロコリチカやリステリア・モノサイトゲネス等は4℃以下でも増殖)、60℃以上になると、芽胞を作る細菌を除く多くの細菌は死滅していきます。

そのため、加熱時間を守り、適切に管理していくことが食中毒対策において重要になります。目安としては、大半の細菌を殺すことができる、中心温度が75℃以上で1分間以上の加熱を実施することです。しかし、この温度を守ったとしてもセレウス菌やウェルシュ菌等の細菌は芽胞を作って生き残り、加熱して他の細菌がいないので、冷えていく過程で50℃に達すると、増殖が一挙に進みます。また、常温で料理を放置した場合、埃等を介して空気中の細菌の混入なども考えられます。

上記理由より、食中毒の対策を考える場合、一度加熱した食品を冷却する際に、いかに50℃から20℃までの間を早く通り過ぎさせるか、ということが重要となります。具体的には、厚生労働省が発行する『大量調理施設衛生管理マニュアル』で記述されているように、30分以内に中心温度を20℃付近(又は、60分以内に中心温度を10℃付近)まで下がるように食品を管理していく必要があります。

さらに、暑い厨房内等では、常温で放置するだけでも細菌が増殖しやすい温度帯に達してしまいます。そのため、保管中の食品をいかに20℃以上の温度帯まで上げないのか、ということが重要になってきます。特に夏は活発に増殖してしまうので、料理を長時間放置する場合はラップをして冷蔵庫に入れる、調理中の食材は保冷材を下に引いた調理器具の上で行う等、細かな温度管理に気を付けて、食中毒ゼロでこの時期を乗り切りましょう。


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