【夏休み自由研究企画】ホタテパウダーによる洗浄効果の実験

はじめに

みなさまはホタテパウダーの洗浄効果について聞いたことがありますか?
インターネットで検索してみるとたくさんの種類のホタテパウダーが販売されています。
調べてみると、ホタテパウダーとは帆立貝殻を高温で焼いたものから作られたパウダーで、水に溶かした液で野菜や果物を漬け置きすると、表面に付着した農薬やワックス、雑菌などが除去できると紹介されています。
しかしながら、食材表面の農薬などが実際どのくらい除去できているのか目で見て確認することはできません。そこで今回は弊社の残留農薬検査担当者が「ホタテパウダーの農薬除去効果」について、最新の分析機器と技術を用いて実験した結果をご紹介いたします。

目的

ホタテパウダーを水に溶かすとアルカリ性を示すとされており、このpHの変化によって農薬洗浄効果が得られることが予想されます。今回の実験では、138種の農薬を含む混合標準液にホタテパウダー水溶液を添加することで、農薬成分量がどのように変化するか、確認することを目的としました。

実験方法

今回使用したのは、市販のホタテ貝殻焼成パウダー(天然ホタテ貝殻焼成パウダー100%)です。ホタテパウダー1gを計りとり、水で溶かして100mLに定容し、1%ホタテパウダー水溶液を調製しました。この水溶液を10倍希釈していき、0.1%、0.01%、0.001%、0.0001%のホタテパウダー水溶液を調製し、この時のpHをそれぞれ測定しました。
※使用したホタテパウダーの推奨濃度は、約0.08%(水2Lに対し1袋(約1.6g)を溶かす)でした。

ホタテパウダー水溶液の調製
図1 ホタテパウダー水溶液の調製

 
次に、農薬138成分を含んだ500ppb(μg/L)の標準溶液を調製しました。この農薬標準液900μLに対しそれぞれのホタテパウダー水溶液を100μLずつ加え、測定溶液としました。
調製した測定溶液と農薬標準液をLC-MS/MS(液体クロマトグラフ質量分析計)で測定しました。

測定溶液の調製
図2 測定溶液の調製

 

結果

【pHについて】
各ホタテパウダー水溶液のpHは以下のようになりました。
 
表1 ホタテパウダー水溶液のpH

ホタテパウダー濃度1%0.1%0.01%0.001%0.0001%
pH12.512.311.410.27.0
温度(℃)23.022.722.422.422.5

 
1%、0.1%の水溶液は強いアルカリ性を示し、濃度が薄くなるにつれpHも低下しました。0.0001%になると急激にpHが低下し、中性を示しました。
これはホタテパウダーの主成分が酸化カルシウム(CaO)であることから水溶液はアルカリ性を示していると考えられます。
 
【農薬除去効果について】
農薬成分量については、138項目中、以下の8成分で顕著な減少が見られました。
①イソキサフルトール
②オキサミル
③オキシカルボキシン
④カルバリル
⑤チオジカルブ
⑥トリフルミゾール
⑦ピラゾレート
⑧メチオカルブ
例として、下記にトリフルミゾール、チオジカルブ、イソキサフルトールの分析結果(表2)およびトリフルミゾールのマスクロマトグラム(図3)を示します。

表2 農薬標準500ppbを100%としたときの、各農薬濃度の変化率

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トリフルミゾールのクロマトグラム

図3 トリフルミゾールのクロマトグラム

 
トリフルミゾールはホタテパウダー水溶液の濃度が高くなるにつれ濃度が減少する傾向が見られました。500ppb標準溶液と比べ0.1%(推奨濃度)ホタテパウダー水溶液を添加した時は、濃度が約66%減少しました。
チオジカルブやイソキサフルトールはホタテパウダーの添加濃度が0.0001%までは農薬濃度が横ばいでしたが、0.001%から減少傾向が見られ、0.01%で急激に減少し、0.1%(推奨濃度)ではほぼ確認できませんでした。
 
各農薬の濃度変化

図4 各農薬の濃度変化

 

考察

農薬濃度の減少が見られた8成分の多くは、加水分解が起き、表3に示したように半減期が存在することが知られています。
今回の実験の分析時間は、ホタテパウダー水溶液を混合農薬標準液に添加してから、6時間から24時間の間で行っています。推奨濃度では、イソキサフルトールやチオジカルブはほとんど分解され、トリフルミゾールは66%減少した結果が得られました。この結果は、表3に示した各成分の加水分解による半減期のデータと相関があります。このことから、ホタテパウダー水溶液のアルカリ性による加水分解が起き、農薬の分解を促進させたと考えることができます。
 
表3 濃度減少した各農薬の用途と特徴

名称用途特徴
イソキサフルトール除草剤イソキサゾール構造を持つ
半減期
11.1日(pH5, 25℃)
20.1日(pH7, 25℃)
3.2時間(pH9, 25℃)
オキサミルカーバメート系殺虫剤半減期
31日以上(pH5, 25℃)
8日(pH7, 25℃)
3時間(pH9, 25℃)
オキシカルボキシン殺菌剤アニリドの一種
カルバリルカーバメート系殺虫剤半減期 分解せず(pH5, 25℃)
11.6~12.4日(pH7, 25℃)
3.21時間(pH9, 25℃)
チオジカルブカーバメート系殺虫剤半減期
78.4日(pH5, 25℃)
31.6日(pH7, 25℃)
0.48日(pH9, 25℃)
トリフルミゾールイミダゾール系殺菌剤半減期
8.9日(pH5, 25℃)
64.6日(pH7, 25℃)
3.9日(pH9, 25℃)
ピラゾレートピラゾール系除草剤半減期
24.1時間(pH1, 25℃)
120.5時間(pH3, 25℃)
28.8時間(pH4, 25℃)
129.3時間(pH5, 25℃)
1.2時間(pH9, 25℃)
メチオカルブカーバメート系殺虫剤半減期
1年以上(pH4, 22℃)
35日以内(pH7, 22℃)
6時間(pH9, 22℃)

 
一方で、農薬濃度の減少がほとんど見られなかった10成分を表4に示します。これらの成分は、アルカリ性条件下で加水分解が起きにくく、安定して存在できる特徴があると考えられます。
 
表4 農薬濃度の減少が見られない成分

名称用途
エトキシスルフロンスルホニルウレア系除草剤
オリザリンジニトロアニリン系除草剤
3-ヒドロキシカルボフランカーバメート系殺虫剤の代謝物
クロジナホップフェノキシ系除草剤
クロチアニジンネオニコチノイド系殺虫剤
ジクロルプロップクロロフェノキシ系植物成長調整剤
フェプロニルフェニルピラゾール系殺虫剤
メソミルカーバメート系殺虫剤
ホメサフェン除草剤
シクロエート除草剤

 

まとめ

ホタテパウダーは水溶液中で強いアルカリ性を示しました。そのため、アルカリ性条件下で加水分解が起きやすい農薬成分が分解することが分かりました。このことから、ホタテパウダーはアルカリ加水分解が起きる特定の農薬成分に対して効果があり、効果が得られない農薬成分もあることが示唆されました。
ホタテパウダーを食品表面へ付着した農薬の洗浄に使用する時は、下記のことなどに注意する必要があると考えますが、使用方法によっては、高い洗浄効果が得られるとも考えられます。
①すべての農薬の分解・洗浄効果は期待できない。
②洗浄液は強アルカリ性を示すため、洗浄する食品への影響(変色・栄養価の損失)、身体への付着、誤飲。
③農薬のアルカリ加水分解物や他の農薬が食品表面に残存または内部へ浸透する可能性。
また、今回は農薬に対する洗浄効果の実験でしたが、殺菌という点での効果は別に期待できる可能性があります。殺菌について検証・確認してみるのも面白いかもしれません。
 
今回の実験に用いた検査は残留農薬検査の一斉171項目の分析法を適用しました。
残留農薬検査はこちら▼
https://www.shokukanken.com/kensa_cat/foods/safety/pesticide-residue/

注意事項

  • 本実験は農薬成分に直接添加をする、主に成分の分解についての実験になります。野菜表面から農薬を剥離させる等、他の作用による除去効果については検証をしておりませんので、あくまでも実験の一部としてご参考にして下さい。
  • 本実験の効果については、あくまでも実験であり効果を保証するものではありません。
  • 実験に用いた製品名等は公開致しませんのでご了承下さい。

引用文献

 

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