定量分析の実際④|機械にかけるだけで分析値が得られる訳じゃない。

はじめに

みなさまが食品や生体試料中の特定の成分の濃度を知りたいとき、弊社のような検査機関は定量分析を行い、含まれる濃度を決定して検査結果としてお届けします。
「分析」と聞くと、機械のボタンを押せば自動的に結果が得られるようなイメージを持たれるかもしれません。ですが、より正確な分析値をお届けするためには、意外と多くの地道な過程があります。いつもみなさまご利用いただいている定量分析がどのように成り立っているのか、4つのテーマでご紹介いたします。
 
第4回は、測定された結果を分析値としてを決定するうえで、問題ないことを確認する方法についてです。
 
検体を前処理し、測定して分析値を決定する。前回までにご紹介したように、この流れで分析値は報告されますが、前処理が適切なものであるかを必ずチェックする必要があります。
 

①測定された分析値とは

検体を前処理して得られた試料溶液には、過不足なく検体と同じ濃度が含まれていることが理想ではありますが、第3回で紹介したように様々な余分な成分を排除していくうちに、目的化合物の一部が損なわれたりするため、ピッタリ100%が含まれる試料溶液を得ることは難しいことです。その他にも、化合物の濃度が100%に近くても、測定原理に対して非特異的に作用する成分が含まれる場合もありますし、第1回で紹介したように使用機器の誤差も前処理の誤差に直結します。このような多くのファクターを加味した”総合的な結果”が分析値となります。
 

②添加回収試験

これを裏付けるために、添加回収試験を行う必要があります。
前処理を行ううえで、検体に含まれている濃度に対して、試料溶液に含まれている濃度がどれくらいかを表す割合を「回収率」と呼びます。私たちは、機器測定を行うための前処理が妥当であることを、回収率を指標にして判断します。目安の回収率は参照するガイドライン等にもよりますが、基本的に80?110%を目標としています。
回収率を確認する手段として、「添加回収試験」が用いられます。これは前処理する前の試料に、特定濃度の標準物質を添加して、それを前処理して得られた溶液を測定します。その結果が、添加した狙い通りの濃度となれば回収率が良好で適切な前処理であると証明できます。
例えば添加濃度100 ng/gの場合に、測定結果が95 ng/gであれば回収率95%で一般的には適切、20 ng/gであれば回収率20%で不適切であることが多いです。回収率20%の方法で分析した場合、検体に含まれる濃度の2割の濃度で報告されることになります。
私たちは、前処理を構築する際に、この回収率が高水準で何回繰り返しても同じ結果が再現されるように設定しており、これが定量分析の信頼性となっております。
 

おわりに

4回にわたり、定量分析の実際の流れをご紹介いたしました。検体に含まれる目的化合物の「真の値」に最も近いであろう値を決定し分析値として報告する。そのために、分析値に影響を及ぼすあらゆるファクターを最適な条件に設定し、維持・再現し続けることで、皆さまに検査結果をお届けしています。この機会に「分析」についてご理解いただけたらと存じます。
 
 

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