≪異臭検査≫脂質から嫌な臭いがする原因とは?

はじめに

脂質は、食品素材の成分であるのに加え、即席麺や菓子パン、揚げ菓子やビスケットなどの洋菓子類、さらに炒め物など、幅広い加工や調理に利用されています。他の栄養素と比べると栄養効率が高く、1グラムあたりおよそ9キロカロリーのエネルギー源であると同時に細胞膜の構成成分、脂溶性ビタミン類の運搬体、うまみや味およびフレーバーに関与するなど多くの機能を有しています。脂質が含まれることにより食品のおいしさが引き立ったり、脂質を多く含む食品は比較的水分が少ないため腐敗しにくく常温で保存ができるという利点があります。しかしながら長期保存していると美味しくなくなる、不快な臭いがするなど風味が変化し品質が低下してしまうことがあります。
ここでは脂質の劣化と嫌な臭いが産生される原因についてご紹介します。
 

脂質とは?

生物に多く含まれる脂質の主成分は、グリセリンと脂肪酸がエステル結合したトリグリセリドと呼ばれる中性物質です。脂肪酸には、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の2種類があります。飽和脂肪酸は炭素結合に二重結合をもたない脂肪酸で、ステアリン酸やバルチミン酸などが該当します。一方、不飽和脂肪酸は1つ以上の二重結合をもつ脂肪酸で、オレイン酸やリノール酸などが該当します。
これらの脂肪酸が臭いとどのような関係があるのでしょうか?
 

劣化の原因

脂質の劣化は主に自動酸化、熱酸化、光増感酸化、酵素によるものなどの科学劣化です。脂質が劣化する化学反応は様々ですが、代表的な反応を以下に示します。
 

①自動酸化

脂質の自動酸化を起こしやすいのは不飽和脂肪酸で、その反応機構は図1に示すラジカル連鎖反応が考えられています。二重結合の間のメチレン基の水素が光や熱などの影響で引き抜かれて脂質ラジカルが発生し、それが酸素と反応することで過酸化脂質(ヒドロペルオキシド)となります。この過酸化脂質は不安定な物質であるため、金属や光、熱などで分解反応が促進されアルコール、ケトン、アルデヒド類となります。ここで生成されたアルコール、ケトンやアルデヒド類はそれぞれ特有の臭いや味を持ち、食品の風味に大きな影響をもたらします。
 
不飽和脂肪酸のラジカル連鎖反応による自動酸化の反応機構
図1 不飽和脂肪酸のラジカル連鎖反応による自動酸化の反応機構
 

②熱酸化

脂質を高温で加熱した場合、自動酸化と同様にまず過酸化物質が生成されます。しかし、生成した過酸化脂質は蓄積せず、高温のためすぐに分解されて低分子化合物を生成したり、逆に重合して二量体を生成するなど、多様な生成物が生じます。
熱酸化はフライ食品製造時などに起こりますが、自動酸化に比べて酸化の進行が早く、不飽和脂肪酸だけでなく飽和脂肪酸も酸化が起こりやすくなります。
 

③光酸化及び光増感酸化(酵素反応)

光酸化とは紫外線などが持つ光エネルギーによる脂質の直接的酸化反応です。
光増感酸化とは光増感物質と呼ばれる成分(乳製品などに多いビタミンB2や、緑黄色野菜に含まれるクロロフィルなど)が特定波長の光エネルギーを吸収し、活性酵素を発生することで進行する酵素反応です。色素などの光増感物質に光が当たると、光エネルギーを吸収して励起されます。この励起された色素によって、酸素分子が励起され活性酸素となります。活性酸素の寿命は短いですが、反応性に富み、接触した不飽和脂肪酸の二重結合に直接結合して過酸化脂質を生成します。
 

④加水分解による遊離脂肪酸の生成

脂質の主成分であるトリグリセリドは、水分を含む状態で加熱や長期保存をされると、トリグリセリドの一部が加水分解され、脂肪酸とジ(モノ)グリセリドに変化します。このように遊離した脂肪酸は遊離脂肪酸と呼ばれ、カルボキシル基を有するため脂質のpHを低下させる原因になり、脂質の品質を劣化させます。
 

おわりに

前述のように脂質は外的要因(光、熱や酸素など)により劣化していきます。酸化の防止策には、①保存温度管理、②酸素の遮断(窒素置換、真空包装)、③包装形態の工夫による光・熱・放射線エネルギーの遮断、④酸化促進物質(金属イオン・光増感物質など)の除去が挙げられますが、それでも異臭が発生してしまうケースがあります。
弊社の異臭検査では食品や商品から異臭成分を分析することが可能です。例えば、カップ麺や冷凍食品などの臭いが気になる商品でしたら、正常品と比較し数値として原因と思われる臭いを測定することができます。
 

参考文献

1) 棚橋 伸仁 2020 食品脂質の様々な劣化反応 あいち産業科学技術総合センター食品工業技術センターニュース:1-2
2) 太陽化学株式会社ホームページ 第2回「食品成分は酸化でどうなる?」
https://www.taiyokagaku.com/lab/antioxidant_learning/02/
3) 和田 俊 2010 食品脂質劣化のにおい生成と抑制およびそのにおい測定 におい・かおり環境学会誌  41:410-420
4) Japan Food Research Laboratories 2014 油脂の劣化について(4)29
 

異物異臭検査

>>異物異臭検査ページはこちら
 

youtube